鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

松葉文図鍔 古金工 Kokinko Tsuba

2010-10-21 | 
松葉文図鍔 古金工


松葉文図鍔 無銘 古金工

 鐔一面を松葉で埋め尽くした図。単に松葉を文様表現したものではない。甲冑金具に秋草や菊などを密集させた図があるも、それらとは風合いを異にして洗練味がある。鐔の造り込みも、猪目を加えた六ツ木瓜形で、太刀鐔様式を窺わせて雅趣がある。自然の松葉がこのように組み合わさって見えることはなく、再構成された文様美として好まれたものであろう。押し合うように配された主題は、後に菊花のそれによって押し合い菊の文様が生まれている。
 平素、このような文様は背景とされ、これに主題が表現されることが多く、その場合に松葉は地文となる。本来は突き詰められた地文である松葉文が、文様として完結するのではなく、大きな美の要素として捉えられているところに後の琳派の美観に通じるものがある。文様ながら感覚的風景として捉えるべき作品である。このような感性は、後の金工だけでなく絵師もまた参考にしたであろう。