とりがら時事放談『コラム新喜劇』

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県庁の星

2005年10月29日 22時08分10秒 | 書評
「えー、今後タイムカードは廃止して、この勤務記録表を使用します」
「なんですか?それ」
「このA4サイズの用紙の両面に必要事項を記入する表が印刷されています。毎日出勤したら自分のハンコをついて、その日の勤務時間を始業時間から終業時間まで記入してください」
「この『残業許可時間』って、なんです?」
「毎月の合計残業時間がその時間を越えないように勤務してください」
「でも1ヶ月『24時間』なんて無理ですよ。毎日2、3時間は必ず残業するんですから。そんなこと総務部長もご存知でしょ」
「だから『記入は24時間以内にしてください』という意味なんです」
「なに?」
「たとえ1ヶ月間に100時間残業残業しても24時間にしてください。」
「もし、過労で死んだらどうするんです?公式の記録は24時間。でも実際は200時間。だとしたら、労災、降りないんじゃないですか」
「そこは、なんとします。会社は放っておきません。」
「(ウソだろ)」
「勤務超過を放置して従業員に何かあれば『役所の責任になるから』という理由での役所からの指導です」
「ほほ~、大泉大津労働基準監督署の指示ですか」
「...そうです。お役所は責任をとりたくないので、そういう指導が入っています」
「ということは厚生労働省大阪労働局大泉大津労働基準監督署は『ウソの勤務記録を残させて』万一、誰かが過労死しても『ウチの責任じゃないですから』と言いたいがために、こんな書類の運用を弱小の民間企業に指導しているわけですね」
「大きな声で言わないでください。平たく言えば、そうです。でも役所には逆らえません」
「そうですか、たとえ正義に反してでも『役人が困らないようにしなければいけない』というのが、会社の考えであり『大泉大津労働基準監督署』のポリシーなわけですね」
「何か、他に言いたいことは?」
「わかりました。大泉大津労働基準監督署の指示ならば、仕方ありませんね」

というのが、数年前、うちの会社で交わされた月初会議での一コマだ。

一連の大阪市役所の不正行為を言うまでもなく、とんでもない人たちが多いことで知られる役人の世界。
今の日本の巨額財政赤字の生まれている原因は、民間が汗水垂らし命を削って稼いだお金を役人が放蕩三昧に使いまくっているというところにある。
確かに立派な役人の方も多いのだが(少ないと国が本当に潰れる)、それらの人は力がないのか、上記のような妙な指導を平気でする人が存在する。
つまり「自分のミスの実績を残さない構図を作る」のに躍起なのだ。
役人は形にこだわり、自分の起こした些細なミスも記録に残ることを嫌うあまり、自衛本能が働いて応用がまったく利かなくなってしまう。
たとえば、役所で物品を購入する時は、価格調査など面倒だから自分でしない。そのかわり複数業者に見積もりを出させて、それを公式な書類として添付する。
その「複数業者」が裏でつるんでいることを知っていても知らんぷり。
書類の形さえ整っていれば彼らには良いのだ。

このような、困った役所の困った役人が民間企業に研修にだされると、果たして、いったい、どうなるだろう。
というのが本書「県庁の星」のストーリーだ。
帯の広告にあるとおり「本末転倒、怒り心頭、抱腹絶倒、ラストは感動」の言葉通り、スリリングでスピーディな「感動!コメディ」だった。
聞くところによると織田裕二主演で映画製作も進んでいるということなので物語の内容には触れないが、役所のお役人の姿が、マニュアル世代の若者に重なりあうことも面白いし、物語内で展開される、なかなか鋭いマーケティング手法も興味をそそる。

ちょっと漫画チック過ぎるところもあるにはあるが、ほんと、これも帯の言葉どおり「手に汗握る、役人エンターテイメント」だった。

~「県庁の星」桂望実著 小学館刊~