とりがら時事放談『コラム新喜劇』

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ミャンマー大冒険(8)

2005年10月28日 21時22分04秒 | 旅(海外・国内)
「格好良く見せたいんですね」
とTさんは言った。

最近、ミャンマー政府は体裁を気にして市場や学校、それにスラムなどといった場所を外国人が許可なく撮影すること禁止にしてきているという。
明確な基準はないけれど、「貧しい」とか「整備されていない」「教育がない」というような印象を与える場所を恥じるらしい。外国人が写真に撮ってホームページなどに掲載されると「格好悪いから」という理由で規制を設けはじめたというのだ。
まったくもって、可笑しいとしか言いようがない。

きっとミャンマーもASEANの議長国にならなければならない、とか、観光産業を盛り上げてもっと外貨を獲得しなければならないとか、という事情があるのだろう。
しかし、勘違いしてもらっては困るのだ。
国は映画のセットじゃないんだから、いくら隠してもムダ。
確かに、昨年ミャンマーにやってきたときは、私もそれなりに気を使っていたのだ。
携帯電話は空港で没収されると聞いていたので、日本に置いてきた。
写真も公共施設に対しては極力遠慮したものだ。
ところが、今回はミャンマー旅行の後、タイで仕事をせねばならなかったので自前のボーダフォン3G携帯電話を持参していたし(ミャンマーはサービスエリア外なので使えない)、ノートブックパソコンまで持ち込んでいたのだが、な~んにも言われなかった。
かなり自由なのだ。
そういう自由さを与えておいて、一方では撮影を制限する。ちょっと無理なのじゃないかな。
第一やいやい言っている軍事施設も鉄橋も、いまやインターネットにアクセスすると衛星写真でばっちり見えるんだから。

ともかく市場のみんなは「撮っていいよ」と言ってくれたが、やっぱり何かあればガイドさんに迷惑をかけることになるので、カメラは極力止めておこう。と決断して横を見ると、Tさんが持参した会社のデジカメでこっそりと果物などを撮影していた。
ないじゃいそれ。

で、ここでは写真よりも買い食いすることに徹することにした。
なんといってもここは市場。食い物が溢れている。
私は毛むくじゃらのウニのようなランプータンが大好きなので、それを買い求めようと思ったが、季節じゃないので売っていない。
残念だな、と思っているとTさんが「これ食べます?」と言って持ってきてくれたのが釈迦頭だった。
「不謹慎なことを言うな!」
とお叱りを受けそうだが、そういう名前(日本名)の果物だから仕方がない。
この果物はソフトボールぐらいの大きさで、淡い黄緑をしているのだが、表面がデコボコしており、ちょうど仏像の頭のような感じになっている。
だから釈迦頭というらしい。間違っても「ベジエッド」と言わんように。
釈迦頭はとても熟していて、ポコッと割ると、クリーミーな果実が現れた。
一欠け二欠けと口に運ぶと、めちゃくちゃ甘い。こんな味は日本では体験できない。
「おいしいですか?」
とTさん。
「美味いですよ。でも種が多いですね」
一欠けごとに黒い種が入っていて、美味しいけれどなかなか面倒な果物でもあった。

二階に上がると、驚くなかれバナナの専門店があった。
バナナの専門店。
バナナの、である。
こんなの日本には、きっとない。
店中、バナナだらけ。
いろんなバナナが天井から床まで、そしてあらゆる陳列棚にびっしりと並べられているのだ。
日本ではバナナといえばエクアドルかフィリピンか、はたまたお馴染の台湾か、という具合に産地別になってしまうのだが、バナナの産地東南アジアに来ると品種別になる、
そのまま食するタイプのバナナ。揚物に使うバナナ。安物のバナナ。高級品種のバナナ。
日本でも見かける普通サイズのものや、親指ぐらいしかない小さなバナナ。
もともと茶色い、威厳に満ちたバナナ。
などなど。
猿でなくとも嬉しくなってしまうくらいのバナナオンパレードなのであった。
もう、バナナマニアには堪えられない雰囲気だ。
幼稚園、小学校の遠足の頃からおやつのバナナにこだわりのある人には是非訪れていただきたい場所だと思った。

3階にはどういうわけかゲームセンターとお化け屋敷があった。
「前にきたお客さんが『入ろうよ』言うから入ったんですよ。でも怖くて怖くて、全然目を開けてられなくて、逃げ回っていたんです」
とTさんは言った。
目を閉じたまま、どうやって逃げまわったのかはさておいて、ミャンマーまでやって来てわざわざお化け屋敷に入る日本人観光客も妙なヤツだが、ガイドの義務とばかりに一緒に入るTさんもTさんだ。
きっとお化け屋敷の中で、Tさんは悲鳴を上げっぱなしであったのだろう。
これは、面白そう。
「入りましょうか? お化け屋敷」
「....いりませんよ。なに言うんですか。」
と笑いながら逃げてしまった。

3階にはそれ以外の施設はなく閑散としていた。
道路と反対側のテラスへ出てみた。すると倉庫の屋根越しに黄土色をしたヤンゴン川が滔々とながれいる光景が視界に広がった。
天気もいい。
これは良い旅になりそうだ。
大きく背伸びをしたとき、スーと爽やかな風が吹き抜けて、Tさんの長い黒髪がさらさらとなびいた。

つづく