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tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

オボー祭祀

2019-02-20 22:50:48 | 人々

ゲルを見下ろす小高い丘に石を積み上げて作られたオボー。土地神様が奉られてる。モンゴルの山岳信仰、テングリといった古来から続くシャーマニズムが、チベット仏教と時に対立しながらも混じり合い、信仰されつづけてきた。
石の築壇の頂には、主なる木を挿す。昔からモンゴル人は、オボーを神霊が宿る場として見なしていて、祭りを行なってきた。オボーの有る丘に登ることが許されているのは男性のみだ。

大晦日にゲルにいる男たち、おじいちゃん、息子さん、7歳のメンクバト、通訳のプージェー、そしてぼくの5人で壊れたオボーを積みなおし。そしてツァガンサル(白い月)の朝、盛装してお参り。甘いものや金、ミルクやウォッカを供ええ、香が焚かれる。
その後、オボーに降臨してくるエジド・オンゴドに祈願し、守護や生活の平安、家畜の繁殖を求め、オボーの周りを三周、時計回りに回る。

もう一つのオボーの意味は、家族で保持している共同体意識を次世代に伝えるためなのだろう。なお,共産主義期のモンゴルでは、他の宗教と同じくオボー参拝は禁止されたが人々は秘密裏に参拝を続けたという。


やらせの儀式

2019-02-19 22:56:46 | 人々

柄杓ですくった茶を天に、爱する祖国の地に、そして客人を歓迎するために四方に捧げる。
前もって調べておいた古いモンゴルの朝の儀式。朝、母親が沸かしたお茶を天地・四方にささげる儀式だ。ドキュメンタリーにはもってこいのビジュアル。
通訳のプージェーにはこの写真をものにしたいと伝えておいた。

実際に撮影となると、いろんな困難に遭遇した。
例えば、絞った牛乳。絞りたてを天地・四方にささげるのだが、ゲル滞在中の乳絞りはいつも決まって暗くなってから。
真っ暗な中で、おばあちゃんがしぼったばかりの牛乳をささげる。これが、スピードライトを当てての写真では、雰囲気がぶちこわし。

また、朝、一番先に起きるのは、おばあちゃんではなくおじいちゃんだった。外がまだ真っ暗な5時ぐらいに起き出して、ストーブに火を入れる。ゲルの主のみしかできない火入れ。
いつも、このタイミングでぼくも起き出し、ゲルの外へ出てワンコとともに未明の風景写真を撮る。

モンゴルの明け方は遅く、7時ごろ。おばあちゃんが火がおこったストーブで鍋いっぱいのスーテーツァイをつくる。
嫁入り道具として持参したいう年季の入った茶の袋に入った黒茶の磚茶(たんちゃ団茶)の塊を、ステンレス製のラチェット(なぜか)で砕く。
ぐらぐら沸き立つ鍋に、黒茶と牛乳を加え、塩を加えて煮出す。このモンゴル式のミルクティ「スーテーツァイ」は、最も一般的な饮み物のひとつだ。
とっ沸しないように注意してお茶の完成。本当は外に出て、四方の神へささげる儀式をするのだが、なんせ、まだ外は真っ暗なマイナス30℃の世界。
ゲルの扉を少し開け、入り口から外へ向かってスーテーツァイの奉納。写真の構図としてはぜんぜんよろしくない。

それでも、ツァガンサル(白い月)のはじめのスーテーツァイは、日が昇ってからその儀式をしてくれた。
というのも、ぼくが写真を撮れずに困ってることを通訳のプージェーが伝えてくれたから。おばあちゃんは、撮影の準備ができたらいつでもしてあげるよと。
・・・真実を伝えるはずの写真は、多分にこんなことになりがち。

日が昇って、ツァガンサルのスーテーツァイができて、おばあちゃんがポットを抱えて外に出る。孫のメンクバトがつきそう。
おばあちゃんと孫でモンゴルの古い儀式。いい絵だ。
・・・と写真を撮ってたら、プージェーがゲルから出てきて写真の邪魔とばかりに孫をカメラの視野から追い出してしまった。
こんなこともある。思わぬ「やらせ」に苦笑してしまう。ドキュメント写真って、いったいいくつの真実を焼き付けられるものなのだろう。


モンゴル・ワンコ

2019-02-18 22:59:28 | 人々

通訳のプージェーが触らないほうがいいよとアドバイスをくれる。
モンゴルで飼われている牧畜犬は、狂犬病の予防注射などされてないから、噛まれたら大変だという。

モンゴルの人たちは飼っている犬を、ゲル周辺を警備し、余所者の侵入を防ぐ忠犬としてゲルの成員に加えてはいるものの、その扱いはそっけない。
おじいちゃんのゲルにも2匹のモンゴル犬がいるのだが、ワンコたちと家族の接点はおばあちゃんがくれる羊の骨のご飯だけ。
あとは互いに無関心だ。子供たちが外で何をしようが、ワンコたちは目をやることもなく、冬の日差しを浴びて丸くなって寝ている。
もちろん、牧畜犬として立派な仕事をする。朝の牛追いの時は、左右に広がろうとする牛たちをコントロールして一塊にして、後ろから追うおじいちゃんを助ける。
夕方、牛たちが帰ってくると、ほえて誘導し家畜小屋へ急がせる。それも誰の指示も受けずに彼らだけでやる。

プージェーがワンコたちに対して無関心なのは、狂犬病の心配以外に、モンゴルではかつて遊牧民の間で人糞を犬に食べさせて飼育する風習があったことからかもしれない。
プージェーが小さいころ、そんな風にして育てられたワンコたちを見ていたとすれば、犬に近づきたくないのも理解できる。

夜中に起き出して外で星空の写真を撮っていたら、真っ暗な中、ワンコの一匹が三脚のにおいを嗅ぎにきた。外はマイナス30℃以下。
顔の周りは息が凍って白くなってる。思わず抱きしめてあげると、ワンコは困った様子。きっと、人に抱かれるなんて子犬のとき以来なのだろう。
でかい体のモンゴル・ワンコの困った様子を見ると、なおさらかわいく思えてくる。なので、きつく抱きしめてやる。


誇り高き老人

2019-02-17 11:47:26 | 人々



このゲルの住人のおじいさんは、何万頭もの家畜が凍死した2010年のゾドで30頭ものヤギやヒツジを失い、残った70頭余りのヤギやヒツジを連れて西の果てからウランバートル近郊へ移ってきた。こちらの方が元居た場所よりも気候が安定していて、家畜たちも楽だ。
ただ、この地に移って一昨年、15頭いた馬のうち13頭が盗まれてしまった。
昔は、遊牧民でこんなことをする奴はいなかった、とおじいちゃんの顔が曇る。手塩に育てたかわいい馬たち。馬肉として売られてしまったのだろう。ゾドの牙は遊牧民の魂さえも変えてしまったのだろうか。

ゾドの周期は約10年。前回が2010年だったから、来年2020年にまたその牙をむくかもしれない。今年2019年の春も油断できないと、おじいちゃんは言う。

ウランバートルの近くへやってきたのは、気候のせいだけじゃない。政府の仕事を少しだけ請け負っている。いわば公務員。おじいちゃんはこのドキュメント写真にいなくてはならない存在なのだが、そうした事情から名前を明かすことは遠慮。

彼の3人の娘たちは、ウランバートルに嫁いでいる。ツァガンサル(白い月)で孫の顔を見るのが何よりも楽しみだ。


モンゴル伝統料理

2019-02-16 12:43:15 | 人々

今はどうか知らないが、遊牧民は移動中にゲルがあれば(知ってる人でも知らない人でも)立ち寄るのが習わしだったそうだ。馬などの家畜を外で放し飼いにしていることから、怪しい者じゃないとアッピールする意味もあるのかもしれない。

「いつでもうちの扉を開けて、待っているから」。
かつて草原では、自分が留守にするとき、ゲルに立ち寄る誰かのために食卓にお茶や食べ物が置かれた、という。もちろん扉にカギなどなかった。

そのため遊牧民は、自分の食器を持参で移動してたようだ。水の便が不便なので、食べた食器を洗いづらいケースもある。・・・布で拭いておしまい。
こんな古い遊牧民の習慣をなんかの本で読んで、ぼくは今回のゲルのホームステイにアウトドア食器を持参しようかと本気で迷っていた。

行ってみたら、ゲルは清潔だった。おばあちゃんは、ひとつの鍋で次から次へとおいしい伝統料理を作ってくれた。まさにモンゴルマジック。もちろん、食べ物を入れる器も、その都度きれいに洗ってた。モンゴルでは、羊肉と小麦粉、牛乳をおもな食材とし、羊肉を煮たチャナサン・マフ、野菜入りの麺ゴリルタイ・シュル、ひき肉を生地で包んで蒸した小籠包のようなボーズといった伝統料理をつくる。香辛料をほとんど使わない。

羊肉は脂身が多くなかなか噛み切れず苦手だったな。なのでもっぱら通訳のプージェーが担当。素朴な味のゴリルタイ・シュルは安心して食べられた。