テレビもねェ ラジオもねェ クルマもまったく走ってねェ ピアノもねェ バーもねェ
南の果ての島、ジープ島。グアムのさらに飛行機で約2時間、南へ。そこからボートで40分。太平洋のど真ん中、チューク諸島の環礁にぽつんと浮かぶ直径34mの小島。
島一周は徒歩3分。島に夜が訪れればガソリンを燃やす発電機で電灯がともる。もちろん、島には冷蔵庫も、飲み屋のねーちゃんももスターバックスもない。
だから島の夜をやり過ごすためのアルコールは持ち込むしかない。
南の島といえば常識的にはラムだ。しかし、氷も冷えた炭酸もライムも手に入らない。
なので冷やさずに飲める酒として選んだのは「しそ焼酎鍛高譚」。
北海道は釧路のお酒だ。鍛高(タンタカ)とは、アイヌ語でカレイ科の魚のこと。
白糠町に実際に伝わる民話によれば、カレイが紫の草を持ち帰り、魚たちが元気になったという。
あっさりでさわやか赤ジソの上品な香りのお酒。
なんで北海道の酒?
そもそも、2年前、南の果ての島へ旅行するきっかけとなったのはこうだ。
その年の一月、北海道の美瑛の雪景色を撮りに行く途中、旭川で立ち寄ったエジプト料理店でチューク(旧トラック)諸島の海中写真と、現地レストラン「宝島」の写真を見かけた。
オーナーである店の女性に話を聞くと、彼女のだんなさんと娘さんがチューク諸島でダイビングインストラクターをしてたとのこと。
話を聞いて血が騒いだ。南の島、行くしかないと。
カレイ科の魚はこの海にはいない。
それでも北の紫の草の香りとレッドパープルの色は、南の島の夕暮れの空に映えるかもしれない。
ゲストの一人が島の食事は魚でしょと、おろしショウガを日本から持ってきたという。
さっそく、リペルに生カツオのおねだり。っていうか、ダイバーとして覚えておくべき「カツオ」の英語名をど忘れしてる。
この日本人ならではの刺身への執着。リペルにならフィッシュでもわかってもらえるよね・・・とか思ってたら、昼の船で運ばれてきのはmackerel(SABA)の缶詰。
ソフトドリンクが置かれているテーブルにその大きな缶が一個鎮座していた。
・・・きっとワンコのご飯かな。。SABAと書かれてる缶詰を気にもせずにいたら、それが昼食におにぎりとともにでてきた。
物流の貧弱なトラック諸島では、リペルにさえ手に負えないこともある。
島の生活に必要な物資(食糧など)は、衛星電話(スマホ)でスーパーのあるウエノ島に予約注文。
魚の注文を受けたローカルの人々は、「サバの缶詰でもいいんじゃね?」と思ったようだ。周りを海で囲まれてる島でも、水揚施設等の流通基盤や販路の欠如などの理由で鮮魚の入手は非常に困難だ。
焼いてほぐしたサバにココナッツミルクを加えた料理はチャモロの伝統料理と聞くけど、サバの水煮の缶詰がモエン島で手に入るとは思わなかった。
想像するに、リペルが衛星通信でホテルのスタッフに連絡して、朝獲れの魚を積んだ漁船を探してもらったけど見つからず、ダイビングショップの近くにあるスーパーに問い合わせするもシーチキンの缶詰しかない。
多くの人が懸命に探して、やっとローカルの家庭にひとつだけあったサバの缶詰・・・だったのだろう。
何を食べてもおいしいのは島のマジック。貴重なサバの缶詰。ご馳走様です。
味は日本のそれとまったく一緒だったけど、人々の暖かさがスパイスとしてきいて、最高のご馳走でした。
2018年1月より、ジープ島は大きな転換期を迎えた。管理はブルーラグーンリゾートに変更となったのだ。
ジープ島を開発し、日本人のため20年間オペレーションしていたジープ島の神様は引退された模様。現在は現地スタッフによる対応だ。
ところで、予約の時に旅行会社が言ってた「現地スタッフ」って誰のことだったんだろう。。
「もう5ヶ月も休んでいない」
島で力仕事を担当するご主人のシンノスケ氏が親島に里帰り中だったとき、リペルに聞いたらそう言ってた。
島に一人で寂しくないですかって聞いたら、シンノスケは酔っ払って話し出すとうるさいからちょうどいいのよとか言ってた。
直径34mのちっぽけな島。一人になりたくても、トイレとシャワー室以外は不可。たまには離れて暮らすのもいいのかもしれない。
日本人のスタッフは低賃金しか提示されなかったから辞めたのよ。・・・うわさ話は好きじゃない。
ジープ島のオペレーションは現地法人に切り替わった。だからジープ島に泊まるのなら直接ブルーラグーンリゾートにコンタクトしたほうがいいわよとのアドバイス。 それでも、日本にはジープ島を盛り上げようと一生懸命、ジープ島をプロモーションしている「教授(三輪さん)」や、旅行会社の人(宮野さん)たちがいる。
彼らの働きがあって、今のところジープ島は日本人専用のままだ。
あの狭い島で欧米人と一緒に長期間過ごすことになればまた違ったものになるはず。それが良いのか悪いのかは別にして、今後、島は変わっていくかざるを得ない。最悪の場合は、ジープの姉妹島「フェノム」に泊まるという手もある。
トラック環礁内には、100近くの無人島がある。
前のジープ島への渡航はおととしの9月。その時、まだやんちゃの盛りだった島のアイドルワンコたちは今も健在だ。
1才ぐらいだったオスのジープは立派なオスに成長。人間で言えば30代前ってとこ?相方の5代目ビキニの最初の子(?)ミヤチにちょっかいを出して怒られている。
犬にも嫉妬という感情があるんだろうか・・・
爪を削るアスファルトとかないから、サンゴ砂の上しか歩かない足の爪は伸び放題だ。足の上に乗っかられると爪が痛い。
食事をしていると、犬たちがそろってテーブルの下から熱いまなざしを注いでくる。ときどき膝に顔を乗せて・・・こらっ、よだれが足にたれてるぞ。。
のどに刺さるからあげちゃいけないと言われるチキンの骨なんかも一飲み。その割りに朝食のパンの耳などは、しばしモグモグと。丸のみするとのどにつかえちゃうんだろうか。。
おにぎりの昼食。おかずの肉野菜炒めには玉ねぎが入ってて、犬は自家中毒になるからと、代わりにご飯をあげるも見向きもしない。米などベジはお嫌いのよう。
子犬のころジープは泳ぎが得意だった。だが、いまは海に入ろうとはしない。
この2年に海で怖い思いでもして水がすっかり苦手になってしまったのだろうか。
まだ朝とも言えぬ暗い早朝、月や星の写真を撮ってると一匹、また一匹と駆け寄ってくる。この春生まれたというビキニの子供たちも元気そのものだ。定位置はキッチンのドアのところ。夜は3匹ダンゴになって眠る。
コテージの大きいほうは改装中。なので、男女問わず小さいほうのコテージで雑魚寝になる。でも星空の下の方が気持ちいい。滞在中は雨が降ろうがずっとセンターダイニングの開きスペースが寝場所。犬たちと一緒に眠る。
大きなコテージの改装は完了間近。今月末には神様に祈る儀式を終えてゲストたちを迎え入れることになるという。
チューク州はキリスト教信仰の国だが、ひょっとしたら抑圧されていた土着の儀式が行われるのかも知れない。この新築祝いの日に出会えたゲストはものすごく幸運だ。
大きなコテージが完成すれば、ジープ島はまた多くのゲストを迎え入れることになる。
もう5ヶ月も休んでないとこぼすリペルはまた忙しくなる。
水中から人間のおしゃべりのように、時に猫の鳴き声のように、そしてピーピーと笛を吹くような澄んだ音が聴こえてくる。イルカのエコーロケーションだ。
出っ張ったおでこの中にあるメロン器官で、彼らは0.3㎜の奥行空間分解能を持ち、大きさや材質だけでなく、形状まで把握する。
泳いでいる人間が子供なのか、女性なのか、ウェットスーツを着ているのかも判別するらしい。
イルカの群れのリーダーに気に入られると、群れは泳いでいるぼくらに興味を示し、近寄ってじゃれてくる。まるで、泳ぐっていうのはこうだよと教えでもするように。
イルカのリーダーに気に入られているのは島の男の子、イッチェン。彼が手を伸ばすとすれすれにかすめて泳ぎ去る。下から見てると、思わず、今触ったよね・・・とか思ってしまう。お兄さんのエリックが潜っていくと、下で泳いでた数匹も上がってきて群れは活性化。すごい速度でイッチェンの周りをぐるぐると泳ぐ。
イルカたちはローカルの男の子が好きなようだ。
別の機会に、日本人のゲストだけでドルフィンスイム。この時は若い女性が気に入られた模様。何度も彼女の周りをまわっていた。ぼくはといえば、子供を連れた母イルカの美しさに、ただ見惚れるだけだった。