彦四郎の中国生活

中国滞在記

2020+1東京五輪、2022北京冬季五輪を巡って—暗闇の中、世界は一筋の光を必要としている

2021-07-11 06:49:41 | 滞在記

 COVID19(新型コロナウイルス)感染拡大と世界的パンデミックから1年と7カ月余りが経過した現在もなお、世界は1日の新規感染者数が50万人余にのぼる。2020+1東京五輪・パラリンピックの開催の是非を巡って、この1年間余り日本国民の世論は二分されてきた。「40年間連れ添っていて喧嘩の一つもなかった三浦友和さんと山口百恵夫妻も、この東京五輪開催の是非を巡って初めて喧嘩をした」と女性誌に報じられていた。この6月上旬あたりから、開催に賛成する世論が上回ってはきているが‥。(6月上旬調査—この夏に開催するに賛成52%、開催反対・中止30%、再び延期する20%)

 この1年間、そして特にこの4月以降、ワクチン接種の是非、五輪開催の是非を巡って、親しい知人・友人や家族内での意見の相違による人間関係の亀裂が生じているのは、悲しいことだ。

 私は再び五輪開会を延期するに賛成だが、この7月10日時点で中止や延期ということにはならない流れとなっているので、7月23日に開会式が行われる東京五輪・パラリンピックが、新型コロナの感染拡大を抑制しつつ、それなりの成功裏に行われることを願っている。まあ、会場には行けないが、テレビで観戦し声援も送りたい。

 この東京五輪開催の是非について最もいいと思ったのは、6月13日に報道番組「ABEMA」に出演していた前東京都都知事・舛添要一氏の発言だ。舛添氏は、「全世界的に見たときにパンデミックは収束していないんですよ」と強調し、「だから私はパンデミックが続いている間は五輪をやめるというルールを作った方がいいんじゃないかという気がしているんです」と語っていたことに賛同を覚えた。パンデミック収束までには少なくともあと1年~2年は要するだろう。その間は、東京五輪も、来年の北京冬季五輪も開催を延期したらいいという意見に同感した。

 6月中旬になり、東京五輪今夏開催の流れがほぼ確定的となり、もし東京五輪を開催するなら「無観客」か「有観客」を巡る論議へと関心が移ってきた。もちろん、できる(可能)ならば「有観客」の方がいいが、東京都など関東圏のコロナ感染拡大状況によって「無観客」も、日本の国民世論からして致し方ない判断だろう。このことに関して、読売放送の朝の報道番組「スッキリ」の司会・コメンテーターの加藤浩次氏が6月中旬に、無観客での東京五輪を主張し、「歴史に残るオリンピックになる」、無観客会場における「静寂の中での熱狂を新しく日本で作ってほしい」と力説していたことも共感できるものだった。

 6月下旬には東京・神奈川・千葉・埼玉の4都県は再び感染者が増加に転じてきた。7月上旬になり、7月1日付朝日新聞では「東京迫る第五波 楽観シナリオでも月内には1000人超 無観客五輪に現実味」の見出し記事が掲載されていた。政府の7月に入っての「新型コロナ対策会議」において、京都大学の研究グループが出した「東京都の感染者一日2000人まで増加の恐れ」という報告も紹介されていたことがテレビの報道番組で伝えられていた。

 7月8日夜、菅首相は記者会見で、「東京」及び沖縄に緊急事態宣言を再発令(7/12~8/22)することを発表した。 また、感染状況の深刻な神奈川・千葉・埼玉、そして大阪には蔓延防止措置を再延長することも発表された。(北海道・愛知・京都・兵庫・福岡は解除)   東京五輪は緊急事態宣言下での開催となることとなった。

 そしてIOCのバッハ会長が7月8日に来日、オリンピック五者協議において東京などの関東圏での五輪会場での無観客が決定され、発表された。北海道で行われるサッカー会場の無観客や福島会場も無観客が、その後に発表された。(宮城・静岡の会場はいまのところ有観客だが、無観客になるかもしれない。現時点では97.5%の会場で「無観客」と決定した。) ほとんどの会場での無観客開催が現実のものとなった。一昨日9日の国内の一日新規感染者数は2278人(東京822人、千葉180人、神奈川355人、埼玉150人、大阪143人、沖縄55人)。昨日10日の全国感染者数は2458人、東京は950人、大阪で200人と、さらに増加となった。韓国でも新規感染者数が急増し始め、7月9日は1300人超となっている。

 「静寂の中での熱狂」の五輪へと、歴史に残る、「人類がコロナに打ち克つ」第一歩となるオリンピックになればいいのだが。7月23日(金)の開会式に先立ち、7月21日(水)には五輪サッカー女子の試合(日本×カナダ)が始まる。また、翌日の22日(木)には五輪ソフトボールの試合(日本×メキシコ)が行われる。あと、もう10日後に迫った東京五輪だ。

 6月・7月に入り、ヨーロッパでは再び感染が拡大し始めている。感染拡大の要因の一つはサッカーヨーロッパ選手権への観戦だ。超密集の中、マスクなし、熱狂的な大声での叫びや歓喜の声を試合会場だけでなく、会場周辺のパブリックビュー(大型映像)での観戦でも行われていた。このパブリックビューは準決勝や決勝の行われているイギリス各地だけでなく、ヨーロッパの各国・各地で繰り広げられていた。感染対策はほぼ0の様相を呈していた。

 このため一昨日の発表では、一日の新規感染者数が、イギリス3万人超、スペイン1万5000人超、ロシア2万4000人超となっている。(フランス3300人、オランダ3200人なども感染者数が増大)  イギリスでの準決勝の試合では7万人余りの観客がマスクなしで観戦していた。昨日の10日、決勝戦(イングランド×イタリア)が同規模の観客の会場で開催される。勝敗はどうなっているのだろうか。

 同じくサッカーの南米選手権(コパ・アメリカ)が同時期に行われていた。今日11日に決勝戦(ブラジル×アルゼンチン)が行われる。こちらの決勝戦は会場の観客容量数7万5000人の10分の1の7500人の観客で行われる予定だ(入場者は48時間以内のPCR検査陰性証明が必要)。サッカー会場における感染対策はヨーロッパに比べてそれなりにとってはいる。南米や北米のアメリカ大陸における、一昨日の一日新規感染者数は、ブラジル5万人超、アルゼンチン1万7000人超、コロンビア2万5000人超、アメリカ1万6000人超と報告されていた。(ペルー2400人、チリ3000人、メキシコ6000人、カナダ550人など)

 日本政府の内閣官房参与職にある高橋洋一氏が「日本の感染状況はさざ波だ。それでも五輪を中止しろと言うのか?」と5月にツィッターで発信し、それに対する批判が巻き起こった。私は、高橋氏の発信にも、表現のまずさはあるにしても、私は一理あるとは思う。中国以外のアジア、中近東、そしてヨーロッパや南北アメリカなどの 現在の世界の感染状況をみれば、人口で世界の11番目の国・日本の感染状況は、日本国民の努力によって、感染は少ない方と言えるからだ。だが、この五輪期間中にどれだけ第五波感染拡大が抑えられるか不安もかなり大きい。

 2022年2月開催予定の北京冬季五輪も、開会までにあと半年あまりに迫ってきている。特に今年の4月に入り、米国やカナダ、イギリスなどでは、中国政府のウイグル族への人権問題に関して「ジェノサイド」として批判を強めている。また、香港やチベット、内モンゴルにおける人権問題なども批判をしている。これらの問題では、米国国務長官のブリンケン氏は「中国におけるジェノサイト」と強く表現している。

 米国下院議会議長のナンシー・ペロン氏は5月18日、北京冬季五輪を巡り、中国の人権問題を理由に各国首脳らの参加を見送る「外交的ボイコット」を呼びかけた。これを受けて、中国外交部広報局の趙氏は19日に、人権問題に関する中国への批判は「嘘だらけだ」と猛反発をした。

※上記の左から①②③④の画像、下記の左から①②③の画像は、4月17日「正義のミカタ」(ABC報道番組)より。

 7月8日、EU(ヨーロッパ連合)議会は、「これらの人権問題の状況が改善されない限り、2022北京冬季五輪への開会式などに政府の代表団や外交官が中国から招待されても受けないように」という内容を決議し、EU加盟各国にこの議決内容を呼びかけた。これを受けて、同日、イギリス下院議会の外交委員会は「2022北京冬季五輪の一部ボイコット」を政府に提言した。これに対し9日、中国政府外交部報道局の汪氏は「まったく注目に値しない」と強い不快感を示した。

 冬季五輪に参加する選手団の中心は、夏のオリンピック五輪に比べても、特に北半球のヨーロッパ諸国(特にEU諸国)と北米諸国(アメリカ・カナダ)、そしてロシアだ。冬季スポーツの中心的なEU諸国と北米諸国がなんらかのボイコットをすれば、IOCや中国政府にとっては開催的にとてもイメージ的打撃となる。

 オリンピックを巡って欧米諸国には苦い経験がある。1936年のベルリンオリンピック(ドイツ)がヒトラー率いるナチス党政権の国威発揚ともなり、その後の、ユダヤ人へのジェノサイトや覇権主義による第二次世界大戦勃発へと続く歴史への苦い教訓だ。オリンピック参加ボイコットとしては、1980年のソ連(現ロシア)のモスクワ五輪の際、非共産圏諸国(西側諸国)は、ソ連のアフガニスタン侵攻を理由に参加をボイコット、それへの対抗措置として、1984年のアメリカ・ロサンゼルス大会では、ソ連など十数カ国(共産諸国・東側諸国)は参加をボイコットした歴史がある。

 5月7日、中国の習近平国家主席はIOCのバッハ会長との電話会談で、来年の北京冬季五輪について、「予定通り開催し、成功させる自信に満ちている」と述べた。また、「IOCと引き続き連携し、東京五輪の開催を支持したい」とも表明した。中国が東京五輪に積極協力の姿勢を示したのは、北京五輪ボイコット論が世界に広まらないようにする狙いがあるとも見られている。

 東京五輪の無観客での開催の決定について、中国の汪報道官は7月9日、「日本が順調かつ成功裏に東京オリンピックを開催することを支持する」と、中国政府の姿勢を発表した。おそらく半年後の北京冬季五輪の際には、何万人もが埋め尽くす(100%有観客)満席の巨大オリンピックスタジアムで、「世界がコロナに打ち克ち完全勝利をするための、すでに勝利を成し遂げているこの中国でのオリンピックの開会を宣言します」と高らかに習主席は宣言をすることになるのかと予想される。

 中国国内、ウイグル族への人権問題を巡って7月2日、フランスの司法当局は中国新疆ウイグル自治区でのウイグル人強制労働をめぐり、人道に対する罪の隠蔽の疑いで、ユニクロ、インデックス(ザラ)、SMCPの衣料大手3社と靴大手のスケッチャーズの捜査を開始した。衣料大手のユニクロ、H&Mや、靴大手のナイキやアディダスは昨年、新疆産の綿の調達を中止すると発表し、中国では不買運動が起きた。ユニクロは、公にはウイグル人強制労働に反対する立場をとっているが、大勢のウイグル人が移送された中国・安徽省の綿栽培地から綿を調達してきたとされる。

■日本の国会において、中国における人権問題の国会決議を行うために超党派の動きがこの4月以降から起こっていた。自民党も含め多くの党と議員が決議に賛同し、決議決定の可能性が高まっていたが、公明党と自民党二階派議員の決議反対の動きがあり、最終的に決議提案はされなかった。

■あと10日後に迫った東京五輪。3月25日から開始された聖火リレーを巡って、島根県や鳥取県、千葉県などの知事は基本的には今年夏の五輪開催に反対だったようで、聖火リレーの県内実施についてあからさまな嫌悪感を表明していた。米国前大統領トランプ氏の「アメリカファースト」に似た「県民ファースト」思考の強い県知事たちだと思う。世界情勢における東京五輪の意義などを思考過程に入れる意識まるでなしの、政治的視野のかなり狭い知事たちだった。
 

 また、40人ほどの有名人の聖火ランナー予定者が、ランナーを辞退した。(その辞退理由の多くは「スケジュールの都合」という言う、真偽が疑われるあいまいコメント。) 演歌の大御所と今は言われている五木ひろしは故郷の福井県での聖火リレーを辞退し、「鉄腕ダッシュ」の収録で十数年以上に渡ってお世話になってきたTOKIOはその恩のある収録地・福島県の聖火リレーを辞退した。五木ひろしなども「感染拡大を懸念して」との思いはあったかも?しれないが、なんと、非常事態宣言解除の翌日、蔓延防止措置に移行したこの5月12・13日に5000人の観客を入れて「ITUKIフェス(五木ひろしコンサート)」を東京で開催している。このコンサートで新曲「日本に生まれてきてよかった」を発表したが、「日本人の心を裏切ったその口が言うか!歌うのか?」という感じを受けた。

 これらの知事たちや簡単に聖火ランナーを辞退した有名人たちは今、いよいよ始まる東京五輪をどのような思いで眺めるのだろうか。(※やむにやまれぬ思いで悩み、そして辞退した人たちもいる—この人たちの思いは理解できるが‥)

■5月9日、TBSの日曜日の報道番組「サンデー・ジャポン」に出演していたテリー伊藤氏は、「たとえ五輪が中止になった時に、日本人の心ってどうなるんですか?中止を、"やったー"と思うのか、その時に虚しさも出てくる可能性もある」と語った。その発言を受けて、コメンテーターの杉村太蔵氏が、「(五輪)やっとけばよかったというような虚しさは国民に漂いますよね」と語っていた。

■5月26日付のアメリカ・ワシントンポスト紙の電子版で、「世界は東京オリンピック・パラリンピックを必要としている」というタイトル記事を掲載した。この記事は最後に、「世界は、昨年の暗闇の後に一筋の光を必要としている。日出ずる国は、それを提供するのに最適な国。世界は日本政府と協力して、私たち全員が必要としている"歓喜の歌"を確保するべきだ」と結んでいた。

 

 

 


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