彦四郎の中国生活

中国滞在記

もう一つの見方—ウクライナ問題、台湾統一問題を巡って

2022-01-28 12:04:56 | 滞在記

 数日前に日本政府は、ウクライナへの「渡航中止勧告」(渡航警戒レベル3)を出した。今後のロシア軍の動きによっては、退避勧告を含む渡航警戒レベル4(最高の警戒レベル)が出されるかもしれない。欧州の天然ガスは、その供給量の3分1をロシアに頼るだけに、今回のロシア軍のウクライナ侵攻への構えをもつ国境配置問題に関しては、欧州各国の思惑には温度差がある。

 米英がウクライナ周辺への派兵を進めるという強力なロシアへの対抗を進めようとしているのに対し、ドイツとフランスは2国が、今回の対ロシア政策に関して共同歩調をとることを確約し、ウクライナやロシア・プーチン政権との交渉を始めてきている。ドイツはウクライナへ武器ではなく5000個のヘルメット供与を発表したことに、ウクライナ国民にはドイツへの失望の声も上がっているとも伝わる。

 1938年にナチス・ドイツがオーストリアやチェコスロバキアの国境に軍を進め、第二次世界大戦のヨーロッパでの勃発を恐れたイギリス・フランスは、ドイツの併合を容認してしまった。そして翌年39年には、ナチス・ドイツはさらにポーランドに突如侵攻し占領し併合した。今回のドイツ・フランスの動きは、このような過去の歴史の二の舞を起こすきっかけにならなければよいのだが。

 今日1月27日付朝日新聞に「ウクライナ社会不安懸念—政府"今すぐ攻撃はない"」の見出し記事。ロシア軍の侵攻近しと不安に陥っているウクライナ国民に、ウクライナの政府(ゼレンスキー大統領)がパニックに陥らないように呼びかけた記事内容だ。さらに「4か国が協議 継続を確認/ウクライナ東部紛争 緊張緩和に隔たり」の見出し記事も。ドイツ・フランス・ロシア・ウクライナ4か国による協議の記事。

 CNNのニュースより(※「CNN」米国のケーブルテレビ会社Cable News Network)

    ―ウクライナへの侵攻恐れる西側、ロシアのテレビに映るのは別の世界—

 (CNN)重装備の外国軍隊がウクライナ国境に向かって進軍する。偵察機が上空を飛ぶ。「偽」のNATO軍だ。ロシアから見る鏡写しのようなウクライナ情勢にようこそ。同国のメディアが見せる別の風景では、NATO軍は何年も取り組んできた計画を実行しようとしている。ロシアを封じ込め、プーチン大統領を倒し、ロシアのエネルギー資源を乗っ取る計画だ。

 モスクワ側のあらゆるニュースやトーク番組で繰り返される見方では、ウクライナは米国という「人形遣い」に操られた失敗国家だ。欧州はワシントンからの命令を聞くペット犬からなる弱く分断された集団だ。恐ろしい脅威である米国でさえ、政治的分断や人種問題で引き裂かれた、弱い分断国家となる。

※上記の記事は、ジル・ドアティ氏がCNNに寄稿した記事の冒頭文だ。そして、この記事の結びには、「‥‥若い世代は情報を得ようとインターネットにアクセスする。だが、ロシアの主流以外の報道機関は閉鎖されるか、隅に追いやられている状況で、ロシア政府の主張するもう一つの現実が電波を支配している。」と書かれている。

■2021年、世界180カ国「報道の自由度ランキング」報告書では、ロシア150位、中国177位、北朝鮮179位となっている。

 中国のインターネット記事を毎日視聴しているが、1週間ほど前までは、ウクライナ情勢に関する記事はほとんど掲載されていなかった。しかし、数日前から、一挙に、これに関連する記事が、一面・二面に掲載されるように変化してきている。「ロシアも我慢の限界だ」など、ウクライナ問題に関して、ロシアプーチン政権の政策(ウクライナ国境への10万の軍集結)を擁護する内容がほとんどだ。

    もう一つ特徴的なのが、日本の岸田政権がアメリカと歩調を合わせ、ロシア軍の動向を批判したことに対する非難。「日本はすでにロシアに宣戦布告書を送った」などの過激な見出し記事も多い。この記事に対して、読者コメントには、「小日本鬼子‥‥」「消灰日本鬼子‥」などの枕言葉に続いて、「東京を灰にしろ‥」「日本介入 台湾 ウクライナ‥」「アメリカの顔色ばかり見てる奴‥」などの言葉。

 しかし、事の真相は、今回のロシア軍のウクライナ国境への大軍の配置に対して、中国の習近平政権は、これを単純に支持しているわけではない。いちおう、中国のネット右翼層のガス抜きのためにも、上記のような記事を書かせている(又は容認している)とみることもできる。

 この1月に入り、中国やロシアとも国境を接する中央アジアの国・カザフスタンで暴動が起きた。このカザフスタン暴動の背景には、この国を巡るロシアと中国の綱引きがある。カザフスタンの現在の大統領は親ロシア傾向が強いが前大統領(30年間にわたり政権の座にいた)は親中国傾向の強い人物だった。1991年のソ連邦の崩壊にともなって新しく分離独立をしたカザフスタンはソ連邦下では最大の面積をもつ自治区で天然資源も多い。そして、中国にとっては、2015年より本格化した「一帯一路」政策では、地政学的にも最も重要な国となる。

 この動乱の背後には、中国政府が動いていたのではという見方も消えない。このためか、カザフスタンの大統領は、ロシアには暴動鎮圧のための軍の派遣を要請したが、中国からの軍の派遣は断った。中国にとっては、ウクライナともまあまあ良好な外交的関係をもっていて、「一帯一路」政策化でも地政学的に重要な国。このため、ロシアプーチン政権の影響力がこれ以上ウクライナに強まることは、歓迎していないというのが本音である。

 つまり、「旧ソ連圏の主導権を巡り、中国とロシアの間には不協和音が存在」しているということだ。中国にとっては、ロシアがウクライナに軍事侵攻して併合することには、基本的には受け入れがたいことかと推測されている。このため、「ウクライナへのロシア軍攻撃抑止の"影の主役"は習近平中国国家主席」との見方もされている。兄貴分の習主席から釘をさされれば、プーチン大統領も兄貴分の顔を立てざるをえないとの見方だ。

 2月4日の北京冬季五輪の開会式にはロシアのプーチン大統領は出席をする予定だ。とともに、北京で習近平・プーチンの両巨頭会談も予定されている。

 前号のブログで、中国による台湾統一(侵攻含む)問題はいつ動くのか?ということを書いた。『2023年台湾封鎖』などの書籍の内容にもふれながら、2024年1月の台湾総統選挙前後の5カ月間が、その動きが顕在化する可能性が最も高くなるのではないかとも記した。

 私が知る限り、現代中国問題に精通しているジャーナリストとして、かなり信頼がおける人が3人いる。遠藤誉(1941年生まれの81歳[筑波大学名誉教授/中国問題グローバル研究所所長/ジャーナリスト])・近藤大介(1965年生まれの57歳[週刊現代特別編集委員/明治大学講師/ジャーナリスト])・冨坂聰(1964年生まれの58歳[拓殖大学教授/ジャーナリスト])の3氏だ。(上記写真:右から1枚目遠藤氏、2枚目近藤氏)

 この3人の中で、遠藤誉氏は最近の記事で、「中国が崩壊するとすれば"戦争"、だから台湾武力攻撃はしない」というテーマで次のことを述べている。以下、その冒頭部分。

 中国共産党が崩壊するとすれば、その最大のきっかけは「戦争」だ。だから台湾政府が独立を宣言しない限り、習近平は絶対に台湾を武力攻撃しない。軍事演習は独立派への威嚇と国内ナショナリズムへのガス抜きだ。

 —戦争を避けるために台湾経済を取り込む―2030年頃には、中国のGDPがアメリカを凌駕していて、2035年頃には少なくても東アジア地域における米軍の軍事力は中国に勝てなくなっているだろう。だから2035年まで待つ。これが習近平の長期戦略だ。それまでに台湾経済を絡め取っていく戦略は、独立志向が強い民進党の蔡英文政権が誕生してから積極的に動くようになった。

 ―中略—

 ―もし中国軍が米軍に勝てない状況が続いた場合—  万一にも何かのアクシデントで大陸の軍隊(人民解放軍)と米軍が衝突した場合、もし近い時期であるなら、まず中国軍が負けて中国共産党による一党支配は崩壊する。だから台湾政府が独立宣言をしない限り、近いうちに中国の方から戦争を仕掛けることは絶対にしない。

※以下続く。

 このテーマの遠藤氏の記事は2021年12月下旬と2022年1月20日に発表された。傾聴に値する内容ではある。

 「世界が新型コロナの度重なる感染爆発という状況の中、中国ではコロナ感染爆発は政府の政策により抑えられている。これは誇るべき喜ばしいことだ」との大意の中国のネット記事。

 中国の春節の始まりである1月30日の大晦日まであと二日。今日1月28日付朝日新聞には「中国"春節"帰省阻む地方—連休控えて感染拡大警戒/"隔離だけでなく拘束""自粛要請」の見出し記事が掲載されていた。「北京冬季五輪開会は1週間後。ゼロコロナを目指す中国では新型コロナウイルスの流行で、お祭り気分とはほど遠い限界ムードに包まれている。中国のお正月休みにあたる春」の連休が始まってきているが、地方政府は感染者を出すまいと規制を阻む。ふるさとを思う人々の苛立ちも募っている」との記事内容。

 

 


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