彦四郎の中国生活

中国滞在記

5年ほど前までの琉球館や上下杭の周辺のディープな古街一帯は➊庶民の暮らしもあけっぴろげで閩劇が上演されたりもしていた

2023-12-10 05:43:34 | 滞在記

 かっての琉球国と中国との交易の深いつながりで、中国の窓口港だったのは福建省福州。福州の琉球館付近の川(運河)から福州港のあった閩江河畔の上下杭地区までの古街(こがい)は、狭い道が迷路のようになっていて、初めの頃は道に迷ったりしながらよく散策をしていた。

 実に、中国の庶民の人たちの暮らしのようすが、あけすけにというか、あからさまに見てとれる場所でもあったからだ。それがとても興味深かった。だから、日本や中国国内に住む日本人の知人や友人が福州に来た際には、このdeep(ディープ)な古街を案内もしていた。そのようなこの古街地区(琉球館付近)の2013年~2019年までのようすをここに改めて紹介しておきたい。(※2015年6月の私のブログにも、この地区のことを書いている。)

     福州にある琉球館の近くを流れる運河のような川。その琉球館の近くに架かる石橋が萬壽橋(まんじゅばし)だ。橋につながる近くの狭い道路には生活雑貨や食料品を売る店も所狭しと並ぶ。橋にある4体の狛獅子の小さな石像は、この石橋の長い歴史を感じさせる。

   この石橋は中央部のところがかなり高くなっている。当時、この高いところの水面下を荷物を積んだ小舟が往来したのだろう。琉球から運ばれた貿易品などもこの橋の近くで荷物が下され、琉球館に運ばれていたようだ。

 萬壽橋の周辺の家並み。迷路のように狭い道が続き、歴史的で伝統的な庶民の住居が立ち並んでいた。川沿いを歩く際には、そのような住居の庭を通ったりもした。

 おそらく数万人が暮らすこの地区。町並みと道路はとてもdeep(ディープ)な世界。路地には洗濯物の下着などもカラフルに干され、人々の暮らしのようすが垣間見える。

 この地区で、私は3回ほど「閩劇(びんげき)」というものを、たまたまだが見たことがあった。散策に行ったらたまたま上演されていたのだった。地区の人たちがたくさん、その劇を見ていた。この閩劇の一座は福建省各地のこのような古街を巡演して回っているようだった。福建省の東北部(福州を中心としたエリア)に伝わる伝統的な地方劇。この地方では、例えば伝統的な節句にはこの閩劇が各地で上演されるようだ。歌と台詞(セリフ)で構成される劇の物語は、喜劇的な要素が多く見られる時代劇で、人々の笑いと感動を誘う。

 中国の伝統演劇といえば「京劇」が思い出されるが、中国各地では長い歴史をもつ独自の演劇が数多くある。1600年頃に始まったとされる閩劇もその一つである。中国の「八大地方劇」といわれるものは、①京劇(北京)、②昆劇(江蘇省)、③評劇(河北省)、④黄梅戯(安徽省)、⑤越劇(浙江省)、⑥粤(えつ)劇(広東省)、⑦川劇(四川省)、⑧豫(よ)劇(河南省)。

 閩劇が上演されている会場の雰囲気は、1920年~30年代の場面の映画の世界のような趣がある。客が観劇している場所の横にある団員の休息・控えの場所である古ぼけたビリヤード台の上に、多くの荷物や衣装や小道具などが置かれている。赤ん坊に乳を飲ませている女団員の姿も見られた。

 私がかって暮らしていた(2013年9月~2015年7月まで)閩江大学旧キャンパスにある外国人教員用のアパート。9月の中秋節の頃、宿舎の部屋まで、かすかに聞こえてくる音曲の音。宿舎近くの古びたアパート団地群の一角にある小さな広場。ここでもよく閩劇が上演されていた。

 しかし、この萬壽橋周囲の数万人が暮らしていた地区の伝統的な町並みは今はもうない。2018年にこの付近一帯は、行政の一片の通告(12月15日までに立ち退きなさいという内容)でもって、人々は立ち退かされた。そして、2019年に入り家屋は全て解体された。省・市政府がこの地に新しい高層住宅(タワーマンション)群を建築するためだった。人々はわずかな立ち退き補償金をもらって、他のところで生きていくこととなった。

 中国では土地は国家のものなので、このようなことが可能なわけだが、高層マンションを建てる公社や民間企業に土地を新たに貸すことによって莫大なお金が行政に入って来る。2022年頃には中国の住宅バブル景気は終焉したが、この住宅建設に関するものが中国のGDP(国内総生産)の3割を占めていた。

 このように中国各地・各所で、都市の古街が取り壊されて、高層住宅を建てるということが2010年代に入り加速化され、中国全土で伝統的な古街が消えていった。萬壽橋付近のこの地区もその一つだが、萬壽橋だけは今も残されている。

 そして、バブル景気がはじけて、現在の中国は大学生たちも就職難にあえいでいる。

 

 

 

 

 


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