(以下、東京新聞から転載)
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いばらき 2013参院選 憲法の現場(下) 収容外国人の人権
2013年6月26日
東日本入国管理センター。被収容者との面会を続ける田中喜美子さんは「収容が長期になれば精神的にも苦しい」と語る=牛久市で
私たち日本人は当然のように仕事に就き、社会保障を受け、旅行も楽しむ。けれど、それは当たり前のことなのだろうか。考えさせられる場所が牛久市内にある。
「なぜこんなに長く閉じ込められるんだ」「早く出たい」。強制送還の対象となった外国人が収容されている法務省入国管理局の「東日本入国管理センター」。支援者や親族との面会室はいつも、不満の声が響くという。
面会や差し入れを続けるボランティア団体「牛久入管収容所問題を考える会」の田中喜美子さん(60)=つくば市=は言う。「刑務所でもないのに、一年近くから、長い人で二年以上も収容される。医療も不十分。人間性が壊れてしまう」
ここにいるのは、不法残留や不法入国など入管難民法違反の疑いで摘発されたが「本国に戻る場所がない」「日本に家族がいる」といった理由で強制送還を拒む人たち。田中さんは主に、難民認定を待つトルコ系クルド人を支援している。
施設の目的は送還までの間の収容であり、刑罰ではない。午前七時起床、午後十時就寝といった集団生活上の規則はあるが、センターによると施設には個人用ロッカーや国際公衆電話、運動施設などがあり、単独や共同の居室にテレビも備わる。宗教や体調を考慮して食事を提供し、医師の回診も行われる。
国内での身元が保証されれば、保証金で施設外に出られる仮放免の申請も可能。センターは「保安上支障のない範囲で人権に配慮し、自由を確保している」と力説する。
この「人権」には異論がある。例えば英国の収容施設だと携帯電話やインターネットが使えるが、東日本入国管理センターでの通信手段は、施設内の公衆電話や面会、手紙などに限られる。仮放免後も仕事に就けず、居住県外への移動には許可が要る。健康保険も生活保護も対象外。支援者は「人権は極めて制限されている」と反論する。
外国人の入国の許可が、国の裁量で決まることは世界の常識だ。その一方で、憲法一一条などにある基本的人権を享有する「国民」は、通説では在留外国人も含まれると解釈されている。在留が認められない被収容者や仮放免者の人権をどうみるべきか。
センターは「本来は帰国するべき人。すべて入管難民法や被収容者処遇規則に基づいている」と理解を求める。これに対し、入管問題などに詳しい指宿昭一弁護士は「仮放免で社会に出ても、生存権を奪う今の制度は『帰国しない人は死ね』と言うようなもの」と批判し、こう話す。
「皮肉にも彼らを知ることで、日本人に通信や移動の自由があり、文化的な最低限度の生活を送れることに気付かされる」。当然と思う人権も憲法の縛りがあいまいになれば、すぐにでも崩れてしまう。そのことに無頓着でいていいのか。
指宿弁護士は「日本はまだ憲法の理念に追いついていない。これ以上悪くしてはいけない」と憲法の尊重を訴える。
憲法前文にはこうある。「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免(まぬ)かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」と。(この連載は妹尾聡太が担当しました)
<東日本入国管理センター> 旧横浜入国者収容所を前身として1993年に移転設立された。収容定員は700人。現在は強制送還対象の400人弱が収容され、国籍はフィリピン、中国、タイなどが多いという。収容期間は「送還可能のときまで」で、特に期限はない。有識者による第三者機関が定期的に視察し、被収容者の処遇改善策などを提言している。
◆第11条
国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。
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いばらき 2013参院選 憲法の現場(下) 収容外国人の人権
2013年6月26日
東日本入国管理センター。被収容者との面会を続ける田中喜美子さんは「収容が長期になれば精神的にも苦しい」と語る=牛久市で
私たち日本人は当然のように仕事に就き、社会保障を受け、旅行も楽しむ。けれど、それは当たり前のことなのだろうか。考えさせられる場所が牛久市内にある。
「なぜこんなに長く閉じ込められるんだ」「早く出たい」。強制送還の対象となった外国人が収容されている法務省入国管理局の「東日本入国管理センター」。支援者や親族との面会室はいつも、不満の声が響くという。
面会や差し入れを続けるボランティア団体「牛久入管収容所問題を考える会」の田中喜美子さん(60)=つくば市=は言う。「刑務所でもないのに、一年近くから、長い人で二年以上も収容される。医療も不十分。人間性が壊れてしまう」
ここにいるのは、不法残留や不法入国など入管難民法違反の疑いで摘発されたが「本国に戻る場所がない」「日本に家族がいる」といった理由で強制送還を拒む人たち。田中さんは主に、難民認定を待つトルコ系クルド人を支援している。
施設の目的は送還までの間の収容であり、刑罰ではない。午前七時起床、午後十時就寝といった集団生活上の規則はあるが、センターによると施設には個人用ロッカーや国際公衆電話、運動施設などがあり、単独や共同の居室にテレビも備わる。宗教や体調を考慮して食事を提供し、医師の回診も行われる。
国内での身元が保証されれば、保証金で施設外に出られる仮放免の申請も可能。センターは「保安上支障のない範囲で人権に配慮し、自由を確保している」と力説する。
この「人権」には異論がある。例えば英国の収容施設だと携帯電話やインターネットが使えるが、東日本入国管理センターでの通信手段は、施設内の公衆電話や面会、手紙などに限られる。仮放免後も仕事に就けず、居住県外への移動には許可が要る。健康保険も生活保護も対象外。支援者は「人権は極めて制限されている」と反論する。
外国人の入国の許可が、国の裁量で決まることは世界の常識だ。その一方で、憲法一一条などにある基本的人権を享有する「国民」は、通説では在留外国人も含まれると解釈されている。在留が認められない被収容者や仮放免者の人権をどうみるべきか。
センターは「本来は帰国するべき人。すべて入管難民法や被収容者処遇規則に基づいている」と理解を求める。これに対し、入管問題などに詳しい指宿昭一弁護士は「仮放免で社会に出ても、生存権を奪う今の制度は『帰国しない人は死ね』と言うようなもの」と批判し、こう話す。
「皮肉にも彼らを知ることで、日本人に通信や移動の自由があり、文化的な最低限度の生活を送れることに気付かされる」。当然と思う人権も憲法の縛りがあいまいになれば、すぐにでも崩れてしまう。そのことに無頓着でいていいのか。
指宿弁護士は「日本はまだ憲法の理念に追いついていない。これ以上悪くしてはいけない」と憲法の尊重を訴える。
憲法前文にはこうある。「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免(まぬ)かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」と。(この連載は妹尾聡太が担当しました)
<東日本入国管理センター> 旧横浜入国者収容所を前身として1993年に移転設立された。収容定員は700人。現在は強制送還対象の400人弱が収容され、国籍はフィリピン、中国、タイなどが多いという。収容期間は「送還可能のときまで」で、特に期限はない。有識者による第三者機関が定期的に視察し、被収容者の処遇改善策などを提言している。
◆第11条
国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。