しあわせ食堂武内 ヒロクニ,毎日新聞夕刊編集部光人社このアイテムの詳細を見る |
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2009年12月20日(日)神戸新聞にて書評が載りました。
主役は破格な挿絵 美術界リードし続け
以下引用
この本は有名人たちが語る食い物談義だし、それが一種の裏昭和史になっているところが特徴なのだが、食い物の話はよしておこう。人の食い物の話はちっとも面白くないからである。まあ、食い物の恨みはそれほど恐ろしいということである。
この本の主役は言うまでもなく、武内ヒロク二氏の挿絵だ。東京版の毎日新聞夕刊に掲載されていたときから、画伯の挿絵は物議をかもしていたらしいのだが、なぜなのか私にはさっぱりわからない。もちろんこれらの破格の挿絵は普通の意味でのイラストレーションではないのだが、そもそも武内氏は「画家」であって、単に気が利いただけの挿絵などはじめから描くわけがないではないか。挿絵もまたりっぱな作品だし、画伯は全身全霊でそれに打ち込まざるを得なかった。これらの挿絵は、「武内さん、そこまでしなくても」と言いたくなるほど、画家の全感覚によって考え抜かれたタブローなのである。
もともと武内ヒロク二氏はそういう画家だった。すでに1960年代から関西のアバンギャルド・シーンにひそかに棲息してきた画伯は、日本のシュールレアリズムとポップアートの混血児たちの知られざる先駆者のひとりだった。画家のそばではジャズやロックがいつも鳴り響いていたし、指示してきたのはもっぱら周りにいた若者たち、しかもドロップアウトした若者たちだった(いまの奥さんだって若いのだ)。急いで付け加えておくが、画伯が最近まで「知る人ぞ知る神戸の画家」であったのは日本の文化の問題であって、なにも画家の落ち度などではない。
ともあれヒロク二氏の絵を眺めていると、アメリカの現代美術家たち、バスキアやへリングやシュナーベルたちも、じつは画伯に影響を受けてきたのではないかと一瞬錯覚してしまうときがある。彼らは実際には出会ったことがないのだから、それは事実ではない。だが事実などどうってことはない。影響関係というのは不思議なもので、空を電波のように飛び交い、時間だって簡単に飛び越えてしまうのだから。ちょうど画伯の生まれた奄美の庭にあったガジュマルの樹の、ねじれすぎて何が何やらわからなくなった枝や根っこのように。絵を描くことは怪物的行為であり、この樹のようになることである。それはいまでも画家のよじれた肉体であり、その肉体が行い、知らぬ間に画家の肉体に刷り込まれた、迷宮のような「街の作業」である。画家は四の五の言わずに作業している。画家は天才天気予報士や老革命家のようにいつも町の動静を窺っている。それほど武内氏の歩きっぷりはちっとも昔と変らないのだ。
「これはナンなのだ!なにか起こっているのか?」そんな風に呟きながら、苦虫を噛み潰したような顔をして、画家は今日も元気に坂道を駆け降りてくる。
鈴木創士(フランス文学者)
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