【問 9】 Aに雇用されているBが、勤務中にA所有の乗用車を運転し、営業活動のため顧客Cを
同乗させている途中で、Dが運転していたD所有の乗用車と正面衝突した(なお、事故に
ついてはBとDに過失がある。)場合における次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、
正しいものはどれか。
1 Aは、Cに対して事故によって受けたCの損害の全額を賠償した。この場合、Aは、BとDの過失割合
に従って、Dに対して求償権を行使することができる。
2 Aは、Dに対して事故によって受けたDの損害の全額を賠償した。この場合、Aは、被用者であるBに
対して求償権を行使することはできない。
3 事故によって損害を受けたCは、AとBに対して損害賠償を請求することはできるが、Dに対して
損害賠償を請求することはできない。
4 事故によって損害を受けたDは、Aに対して損害賠償を請求することはできるが、Bに対して損害賠償
を請求することはできない。
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【問 9】「民法/不法行為(使用者責任・共同不法行為)」
正 解 1
A:使用者(会社)、B:被用者(従業員)<加害者>、C:被害者、D:加害者
使用者責任:営業中に被用者(従業員)が第三者に危害を加えた場合、従業員だけでなく、
使用者(会社)にも損害賠償責任が生じること。
1.正 Aは加害者Bの使用者にあたるため、被害者であるDに対して、被害を賠償する義務を負う(民法715条1項)。
この場合、使用者Aは、被用者Bに対して「
信義則上相当と認められる限度」で求償することができる(同条3項)。
そして、
他の加害者Dに対しても、
過失の割合に応じて求償できる(判例)。
2.誤 Aは加害者Bの使用者にあたるため、被害者であるDに対して、被害を賠償する義務を負う。
この場合、使用者Aは、被用者Bに対して「信義則上相当と認められる限度」で求償することができる。
3.誤 Cは被害者であるので、加害者(共同不法行為者)であるBとDに損害賠償を請求することができる(民法719条1項)。
BとDの債務は、相手方に債務を弁済する以外の事柄については、連帯債務者間で影響を及ぼさない。(不真正連帯債務)
したがって、BとDはそれぞれCに対して、債務全額の支払い義務を負う。(負担部分は過失割合による)
4.誤 使用者責任が成立する場合でも、被用者(従業員)は不法行為責任(民法709条)を負う。
両者の関係は不真正連帯債務であるので、被害者Dは、使用者A、被用者Bの双方に損害賠償を請求することができる。
●合格のポイント●
使用者責任
(1)使用者は、被用者が事業の執行につき第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。
(2)使用者責任が成立するには、被用者に不法行為責任が成立することが必要である。
(3)使用者責任が成立すれば、被害者は、使用者にも損害賠償を請求することができる。
(4)被害者に損害を賠償した使用者は、被用者に求償することができる。
使用者責任とは、従業員を雇って事業を行う者が、従業員が
仕事上のミスで他人に損害
を与えた場合に、被害者に対して損害を賠償する義務を負うことをいう。
共同不法行為
数人が共同の不法行為により他人に損害を与えた場合、それらの者は連帯して被害者に損害賠償の責任を負う。
不真正連帯債務
原因は異なるが、数人が同一内容の給付をなす債務を負担すること。
各債務が独立していて、一人の債務者の事由が他の債務者に影響を及ぼさない。
債務の偶然的競合によるため、主観的共同関係がある連帯債務者と異なり民法434~439条の絶対的効力が生じない。