同人は5人で、日原正彦が編集/発行をしている。A5版、30頁。
「距離」早矢仕典子。
「『海が見たい』/わたしがつぶや」いたので、「そのひとは/海への道を急ぎはじめているよう」なのだ。しかし、その道は山間に入っていき、海へ近づいているようではないのだ。おまけに「薄くうすく夕闇が浸透してくるので、どうやら海までの距離もぐずぐずと解けていってしまうようだった」のだ。
見たい、とか、行ってみたい、とかいった自分の行動を伴う欲望には、なにかしらの代償が求められるような気がする。目的との間の距離をなくす代わりに自分の中で失うものもあるのではないだろうか。だから、その距離を縮めようとしたときに、ほんとうに見てもいいのか、ほんとうに行ってもいいのか、といった不安とも迷いともつかないものもあるのだろう。
ほんとうに
見たいのは海だったのかどうか
見たい海 とはどんなものだったのだろう
すると唐突に
山が割れ 暗いそらが口を開いた
あの先に、海がある と
そのひとは言った
そうして海にたどりついた時、その海はわたしが見たかった海とは異なるものになっているようだ。離れた距離にあった虚構の海と、近づいてしまった現実の海は、自分にとってはどこまでも異なるものとして存在するのだろう。
「距離」早矢仕典子。
「『海が見たい』/わたしがつぶや」いたので、「そのひとは/海への道を急ぎはじめているよう」なのだ。しかし、その道は山間に入っていき、海へ近づいているようではないのだ。おまけに「薄くうすく夕闇が浸透してくるので、どうやら海までの距離もぐずぐずと解けていってしまうようだった」のだ。
見たい、とか、行ってみたい、とかいった自分の行動を伴う欲望には、なにかしらの代償が求められるような気がする。目的との間の距離をなくす代わりに自分の中で失うものもあるのではないだろうか。だから、その距離を縮めようとしたときに、ほんとうに見てもいいのか、ほんとうに行ってもいいのか、といった不安とも迷いともつかないものもあるのだろう。
ほんとうに
見たいのは海だったのかどうか
見たい海 とはどんなものだったのだろう
すると唐突に
山が割れ 暗いそらが口を開いた
あの先に、海がある と
そのひとは言った
そうして海にたどりついた時、その海はわたしが見たかった海とは異なるものになっているようだ。離れた距離にあった虚構の海と、近づいてしまった現実の海は、自分にとってはどこまでも異なるものとして存在するのだろう。