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詩集「楔、アリバイ」 金子忠政 (2021/10) 快晴出版

2021-11-11 12:06:48 | 詩集
第3詩集か。184頁に56編を収める。この詩集は小熊昭広が編集をし版下を作成したオンデマンド印刷である。

巻頭には「「菅原組配下澤田部隊」からの声」と題した作品が置かれている。在日朝鮮人が高射砲台の建設に駆り出された過去を描いており、昭和十八年の作業現場で撮られた集合写真も添えられている。この作品の冒頭は、

   かつて、いかなる発語がからくりへの拝跪を強制し得たというのか?それは叙情のな
   めらかな発語か?実は、この曲者は、安易に、あまりに造作なく濁ることができて、
   した後日談にすらならないのだ。

誰も語ろうとはしなかったことに迫って、その事実が存在したことを、そしてそこから湧きあがる感情を言葉で突きつけてきている。単なるレポート、叙事詩ではなく、作者の思いがこめられたものとなっている。

この作品の他にも、原発事故からの人々の生還を詩った「原発観念」、忘却されようとしている傷痍軍人を詩った「街頭に立つ兵士の記憶」、学校での国歌斉唱にまつわる逡巡を詩った「臆病風」など、政治色の濃い作品は少なくない。そのためにこの詩集が一部の人に敬遠されてしまうのではないかとの危惧を抱いてしまう。
しかしこの詩集はそのように通り一遍でくくられるようなものではない。政治色が感じられようとそれが薄かろうと、作品のもつ言葉の力強さが作者の全体像をあらわしている。

「文字を横に」では、話者は「文字を横に倒すことを考え/出るための家を出て」彷徨う。

   うなだれず
   むしろ
   意気揚々として
   置き場のない身の上を
   どうにかする

どうにかすると言ったって、一体どうするのだ。どうにかするための有効な方策など持っていないことは話者にはよく判っているのだ。それ故の彷徨いなのだ。最後の2行は、「私は荒れ果てるけものだ/時には幼子のように眠る」

巻末には小熊の「異物・美という刀、希望に向かって」と題した一文が載っている。作者に迫る鋭い論考であった。
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