瀬崎祐の本棚

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詩集「点のないハハ」 鹿又夏美 (2022/10) 書肆侃侃房

2022-12-13 21:24:31 | 詩集
第3詩集。110頁に25編を収める。カバーには桂典子制作の印象的な立体オブジェの写真が使われている。

詩集タイトルにもなっている「点のないハハ」は、母という漢字から二つの点を取りのぞいたイメージから来ている。元来が「女」という文字に、二つの乳房を意味する点を加えて「母」という文字になったという説を聞いたことがある。このことからも推測されるように、詩集が抱えている大きな主題は母と女(娘)なのだろう。

「うつわ」。長じた目から見ると、母という存在は幼い日に見えていたものとは異なるだろう。時には力関係が逆転する。それをどう捉えて、どんな風に感じるか・・・。この作品の話者は、捨てられている「母という意味を失った言葉」を拾っている。

   うつわを支えていた肌は
   膨らんだり萎んだりしたせいで皺がよっている
   乾いた肌をめくっていくと
   久しぶりと声が聞こえた
   お母さん軽いねと言って
   袋にしまう

母といううつわの腹部は、妊娠したり出産したりの変化によって皺もより乾ききってもしまったのだろう。軽くなってしまったうつわを、話者は守るように拾いあげて慈しんでいる。

「栞」。話者は地下の店で古本の頁をめくるのだが、その本には栞はなくて髪の毛が挟まっていたのだ。そこには今や未来はなくて過去ばかりがあるようなのだ。

   傷だらけのくせに
   先へしか進もうとしない今を誰がおりまげたのか?
   透明な時間はカーブして私が座る席に戻ってくる

珈琲の染みであいた穴からは女の顔が覗く。もしかすれば、それは過去からこちらを覗きこんでいる私の顔かもしれないとも思えてくる。弊害になる何かが話者にはあって、この場所に佇まざるを得ないのだろうか。重く辛いものが伝わってくる。最終部分は、「栞ひもは引きちぎられた跡があり/どこを探してもない」。

「赤い電車に乗って」は詩誌「詩素」掲載時に簡単な感想を書いている。
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