瀬崎祐の本棚

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詩集「Bridge」 北爪満喜 (2020/10) 思潮社

2020-10-27 18:50:47 | 詩集
 第9詩集。95頁に18編を収める。

「まだ落ちてこない雨が」では、「雨の雫が溜めた時間を/みずたまりといっていた」という。みずたまりに時間が溜まっているという感覚は新鮮なものだった。そのみずたまりにいろいろなものが映って揺れているようだ。雨が上がっても木製のベンチは雫を砂に落としていて、

   後ろからみたら
   私のすきまは どんなふうに雫を落とし続けているだろう
   消えずに私とともにあってくれるのはどのくらいの間だろう

 みずたまりはやがて砂の中に消えていくのだが、話者はそれを惜しんだり悲しんだりするというよりも、さらに突き進んだ思いを抱いているようだ。記憶が薄れていくことに罪の意識すらおぼえているようだ。

   守れなかった
   私は網のようだった
   豊かな水が通りすぎて 晒し続けてしまった骨が白む

 前詩集「奇妙な祝福」の感想では私(瀬崎)は、「作者は絡みついて来る血脈の中で自分が立っていた位置をあらためて確認しようとしていた」と書いた。この作品では具体的な事柄は何も描かれてはいないのだが、それに関わっていた自分を責め続けているような切なさが伝わってくる。

 この作品を始めとして、今回の詩集の作品では水がいろいろな形でしっとりとあたりを濡らしている。「いつもの道が水に沈んでい」たり(「水の夢」)、「砂の上のみずたまり」(「神無月に」)や「砂のうえに/水たまり」(「響き」)だったりする。晴れてはいるはずなのに「どこかで雨が降ってい」たりもする(「どこかで雨が降って」)。
 詩集最後に置かれた「Bridge」では、高みからの隅田川(と思われる)の光景を祖母や母を想いながら見ている。

   祖母は母は 支える 支え続けてきた
   アーチのようなものを日々を
   能力はひっそり家の中に閉ざされ幽かにされてゆき
   他の何かになれなかった

さまざまな水を跨ぐものとして”橋”は架けられていて、明日につながっていくようだった。
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