瀬崎祐の本棚

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詩集「ひとつゆび」 古屋朋 (2020/08) 書肆子午線

2020-10-23 22:54:17 | 詩集
第1詩集か。82頁に19編を収める。
この詩集の作品の話者は、否が応でも電脳世界に取りこまれて生きている。肉体から離れたところでの風景があり、感情がある。それは、本当には音が鳴ってしまわないように注意深くオルガンの鍵盤を一本の指で押さえてみるようなことかもしれない(「ひとつゆび」。

「とける海」でのきみとのデートは、架空世界での体験アトラクション。いくつものいのちがあたえられ、人工物のなかに浜辺があらわれる。波の音がきこえ、鳥の声もする。しかし太陽はいつまでもおちてはいかないのだ。最後には、

   きみの笑顔があおくあおく
   のみこまれてくのをみながら
   ほぼかたちのなくなったぼくも
   たのしそうにわらっている

しかし、本当に自分はたのしいのかと訝しくもなり、たのしくなければならないという焦りも出てくるのではないだろうか。

「祈りの方法」では、だからこそぼくときみはほそいゆびをつなぎあわせている。肉体の感触で存在を確かめているのだろう。肉体を感じることが、ぼくを辛うじて現実世界につなぎ止めているようだ。

   いつからぼくは
   見知らぬぼくになったのだろう
   愛を背中に彫りこんだ
   龍みたいな目つきのきみと
   今日もこゆびをむすんでいつもの道をいく

最終部分は、「ぼくらはゆめをつないでいる/おわりそうになればまたあらわれて」。しかし、そのつながりすらも仮想現実なのかもしれないと感じているのではないだろうか。

他の作品でも、電子のなみのうねりのただなかで「なすすべもなく/僕は煙草をふかしている」し(「電子のなみまで」)、きみもぼくも次第に誰かになってなってしまうのだ(「匿名のぼくたち」)。信じていた世界が実は書き割りの世界だったという映画を思い出してしまった。
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