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詩集「毒猫」 広瀬大志 (2023/06) ライトバース出版

2023-07-25 22:31:14 | 詩集
160頁に45編を収める。

「Ⅰ白い兆し」の作品27編はどれも比較的短く、10~20行のものが多い。展開された世界には他の人は存在しないようなのだ。他の人を放逐することによって初めて向き合うことのできる自分を求めているようで、そこには自分への甘えを排した決意、あるいはそうせざるを得なかった切羽詰まったものが渦巻いている。

「夢ではない萌黄色のかけら」は12行の作品。幾何学的な径で「父はいつも笑い/母は探しものを手伝っている」。おそらく父母はすでにそこにはいないのだろう。残された自分ただひとりで歩むこれからは、いつになってもなにがしかの不安を伴う。最終部分は、

   父は写真機を構え
   母は埋め立てた地面をならしながら
   今日もわたしがこの径を通るのを待っている

硬質な抒情がたゆたっている作品だった。

「Ⅱ毒猫」の10編のタイトルにはすべて”毒”が入り込んでいる。
「毒猫」。この毒猫は話者が飼っている猫の化身なのか、それとも異世界からの闖入者なのか。おまえに対峙することによって話者の秘匿していたものが露わになっていくようだ。

   施しを受ける小声が
   いつのまにか並ぶ
   顔を失った世界は
   毒猫に支配され
   素猫の台座では
   人の死んでいく確信を
   狂気が承認する

毒は生命体にとって有害な物質であり、毒は生命が存在することによって初めてその意味を持つ種類のものである。毒は生命が乱舞する世界で暗躍する。他者に対して有害であろうとする関係が渦巻いている。

「Ⅲ聖痕(スティグマ)の日」ではこれまでの作者世界がそれこそ渦を巻くように再構築されている。ショ-ト・キルであったり、ダガスであったり聖痕であったりするのだ。毒と同じように、ホラーも他者が存在して始めて成立する。独りでいるか、他者といるか、そんなことを考えさせる詩集であった。
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