瀬崎祐の本棚

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詩誌「妃」 23号 (2021/08) 東京

2021-09-10 17:44:17 | 「か行」で始まる詩誌
B5版、135頁に17人の詩作品、7編の書評が載っている。

「ひるがお」田中庸介。
東南アジアでだろうか、異国の地の宿での午睡からさめたひととき。話者の移動につれて視野に入ってくる庶民的な食べ物の描写が、その地に在ることの意味を問い直してくる。ナンプラーで煮込まれた魚の切り身が入ったスープ・かけ・ごはんを持ち帰り、

   蓮の花をかたどった白い大皿から
   銀の匙できみと食べ合おう
   熱帯の舌をからませる
   肉桂や八角の
   甘くつよい香り
   そのさなかに時は止まった--、

窓の外には「あの厄災のはじまる前」の思い出が拡がっていたのだ。ていねいな描写が話者の思いの深さに繋がっている。

「平十の蚊」阿賀猥。
奴が突然に平十との結婚を思い立って実行に移したのだ。平十はどうやら貧相で常識からは外れたようなイメージなのだが、とにかく働き者らしい。「夜まで畑に這いつくばって」仕事をするのでやせ衰え「みるかげもなく身は縮まって蚊のようなものに」なっているようなのだ。最終部分は、

    いいか、あのあたりに行ったら、少々痒くても我慢しろ! うっかり蚊をたた
   いたつもりが平十をつぶしてしまう。

なんだこりゃ? と呆気にとらわれてしまう。描きたいもののためにはその周りのことなどどうでもいい、という潔くも小気味のいい作者独特の作品だった。

「しのふことは」山本育夫。
5章から成る作品だが、濁点を排した独特の記述である。それは、たとえば「隠喩 か はかれた/ことは」のような記述である。違和感と共に否応なくそこで立ち止まり、脳内での変換作業を介して作品を読むことになる。一本道のように見えていて実は足元には石がころがっていたり穴が空いていたりしていて、それを注意深く補正しながら歩を進める感じとなる。その立ち止まりが作品を読む速度にも影響してくる。

   なめす
   生皮 から とんとん
   ひきはかして うすく うすーく
   あめいろの ことはに
   つかえないのは 鳴き声
   くらいたよ
             (「04 冷麺」より)

どの章も濁点付きで書かれた場合との距離感覚が面白い。
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