第5詩集。94頁に24編を収める。
作者は長く地質学、なかでも石をはじめとする鉱物の研究をされてきている。以前に何かの会合のおりに石に関する講演も聴いたことがある。この詩集はそんな作者がそれこそ”石屋”であることが充分に伝わってくる詩集であった。
冒頭の「石屋」。私(瀬崎)はこれまでよく知らなかったのだが、石の研究をする人はとにかく石を割るようだ。その割れた石の断面を詳細に観察するようだ。
医者は生者を診て
ひとすじの希望を探すが
石屋は死者を砕いて
ひと欠片の永遠を探す
とにかく石を割ることだ
そして石のなかに「気のありかを探すのだ」という。そうか、石のなかには時間が閉じ込められていたのかとも思ってしまう。石を割ることによって、その石が担っていたものを解き放すのかとも思ってしまう。石も、石屋に出会わなければただの石であり続けたわけだ。最終連は「石が割れなくなった時/石屋はただの石となる/何億年後には新しい石屋が/ただの石を砕きにやって来る」
Ⅰではこのほかにも「渚屋」「風屋」「碑(いしぶみ)屋」「瑪瑙屋」などで、通常では気付かない視点からの世界が展開されている。
Ⅱの「ハンマー」「クリノメーター」「ルーペ」は地質屋の三種の神器のそれぞれについてユーモアを交えながら詩っている。地質屋は「すれ違いざま素敵な石があれば、懐から岩石ハンマーを取り出して、まっぷたつに割ってみたくなる」のだという。そしてクリノメーターで自分の傾きを測り、ルーペではうつむいた男の横顔が映って見えたりするのだ。
「岩石倶楽部」。部室は(当然のこととして)無機の気配なのだ。いろいろな石が「岩石カッターでまっぷたつにされたり/偏光顕微鏡でしつこく覗かれたりして」いる。最終連は、
クラブに参加できない石ころは
道ばたでごろごろしている
するとどこかの寡黙な少年が
その石を恥ずかしそうに拾ってゆく
これに続く「化石倶楽部」「鉱物倶楽部」も愉快な作品であった。たとえば、「石の世界では化石は犯罪者だ」と詩う。そして「鉱物は見かけが九割」という。なるほど、そういうものかと妙に納得させられる。
地球規模の進化を視野に入れる作者の視点は、路傍の石が孕んでいる物語に気付かせてくれる。
作者は長く地質学、なかでも石をはじめとする鉱物の研究をされてきている。以前に何かの会合のおりに石に関する講演も聴いたことがある。この詩集はそんな作者がそれこそ”石屋”であることが充分に伝わってくる詩集であった。
冒頭の「石屋」。私(瀬崎)はこれまでよく知らなかったのだが、石の研究をする人はとにかく石を割るようだ。その割れた石の断面を詳細に観察するようだ。
医者は生者を診て
ひとすじの希望を探すが
石屋は死者を砕いて
ひと欠片の永遠を探す
とにかく石を割ることだ
そして石のなかに「気のありかを探すのだ」という。そうか、石のなかには時間が閉じ込められていたのかとも思ってしまう。石を割ることによって、その石が担っていたものを解き放すのかとも思ってしまう。石も、石屋に出会わなければただの石であり続けたわけだ。最終連は「石が割れなくなった時/石屋はただの石となる/何億年後には新しい石屋が/ただの石を砕きにやって来る」
Ⅰではこのほかにも「渚屋」「風屋」「碑(いしぶみ)屋」「瑪瑙屋」などで、通常では気付かない視点からの世界が展開されている。
Ⅱの「ハンマー」「クリノメーター」「ルーペ」は地質屋の三種の神器のそれぞれについてユーモアを交えながら詩っている。地質屋は「すれ違いざま素敵な石があれば、懐から岩石ハンマーを取り出して、まっぷたつに割ってみたくなる」のだという。そしてクリノメーターで自分の傾きを測り、ルーペではうつむいた男の横顔が映って見えたりするのだ。
「岩石倶楽部」。部室は(当然のこととして)無機の気配なのだ。いろいろな石が「岩石カッターでまっぷたつにされたり/偏光顕微鏡でしつこく覗かれたりして」いる。最終連は、
クラブに参加できない石ころは
道ばたでごろごろしている
するとどこかの寡黙な少年が
その石を恥ずかしそうに拾ってゆく
これに続く「化石倶楽部」「鉱物倶楽部」も愉快な作品であった。たとえば、「石の世界では化石は犯罪者だ」と詩う。そして「鉱物は見かけが九割」という。なるほど、そういうものかと妙に納得させられる。
地球規模の進化を視野に入れる作者の視点は、路傍の石が孕んでいる物語に気付かせてくれる。