瀬崎祐の本棚

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ガーネット  99号  (2023/03)  兵庫

2023-04-19 11:16:28 | 「か行」で始まる詩誌
「春凪」萩野なつみ。
おだやかな暖かさの季節に、ゆっくりと心が満たされていくような感触がある。ていねいに選ばれた柔らかい言葉がその感触を支えている。

   だれしもに
   ひとしく来る おわりの
   樹下をゆく風
   花の影
   あなたがさいごに
   飲み干すひかり

この作品の静かさは、何とかして受け入れようとしている別離の予感がもたらしているのだろう。

「うんこちんこまんこ」神尾和寿。
なんとも頬が緩んでしまうタイトルであるが、これは9つの断章からなる作品の②からきている。言葉を覚えてほどない子どもたちが唱えるのだ。6行からなる作品の後半部は、

   うんこちんこまんこと唱えながら
   子どもたちは母さんにお尻を叩かれながら
   目を閉じて
   ああぼくはこれまでに幾度となく生まれてきたんだなあ

汚い言葉を使ったことで折檻を受けるのだが、それは人が新しく誕生することだったのだ。ここでは言葉と肉体が密接に絡み合っている。それをこのように軽妙な情景で現しきっていることに感心する。

「眺望」高階杞一。
副題に「追悼 山田兼士」とある。大学の五階で、作者は昨年亡くなられた山田兼士氏とよくタバコを吸いながら話しをしたとのこと。いろんな話をしたのだろうが、くっきりとよみがえってくるのは「あれがあべのハルカス」と、山田氏が遠くの高層ビルを指さして言った言葉だったのだ。ああ、そういうことって確かにあるよなあ。その言葉は、そのときの情景そのものなのだ。山田氏が存命していたときの時間そのものなのだ。今、作者はひとりでタバコを吸いながら遠くを見るのだ。

   もう二度と会えなくなってしまった彼の
   指さす先に
   小さな 小指ほどもない灰色の影が
   早春の
   光の中に
   かすかに見えた

この作品を読んで私(瀬崎)も山田氏の柔和な笑顔を思い出した。合掌。
コメント
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