瀬崎祐の本棚

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「森羅」 27号  (2021/03) 東京

2021-02-15 14:42:36 | 「さ行」で始まる詩誌
 池井昌樹が手造りで発行しているB5版の二人誌。毎号表紙には和風模様の小紙片を貼り、隔月刊を続けている。

 「大鰻」粕谷栄市。
 理想の暮らしを夢想している。それは山あいの川で毎日毎夜、鰻をとる生活だ。しかしそんなことは「何があっても、それだけのもので、とりたてて、人に語ることでない」のだ。つまるところ、

    たぶん、私には何のゆかりもないものだが、つまりは、
   どこかで死ぬために、今日も、私は、太川の舟に乗って
   いるということだ。

粕谷はこれまでの作品でもくり返し、人がこれまで生きてきたことの意味、そして、これから死んでいくことの意味を書いてきている。そのことを、それこそ真剣に考え続けている。

 「龍骨」池井昌樹。
池井は時折りこのように散文詩を書く。今作では、立食い蕎麦屋や駅蕎麦屋で出会った「構われたくない風情の人」を描いている。それは他者からの干渉を拒絶し、また己の他者への思惑を断ち切った姿である。孤として生きていることである。最終部分は、

   うまく言えないのだが、変貌し続ける万象の中で唯一変
   貌しない思い、「生きていたい」。心の内壁を掻き毟る
   その熱い渇望が、私の裡から、一筋の龍骨のように今も
   込み上げてくるのである。

 二人の詩作品の他に、今号では名篇再読として田中冬二「法師温泉」を紹介し、池波正太郎の「田中冬二の世界」という小文を載せている。個人的なことを書くと、私(瀬崎 )は今でも田中冬二の作品「海の見える石段」とか「レーキサイド・ホテル」が好きである。

コメント
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