瀬崎祐の本棚

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詩集「とろりと」 谷口鳥子 (2020/10) 金雀枝社

2020-12-14 16:54:00 | 詩集
 第1詩集。99頁に32編を収める。松下育男、正津勉の栞が付く。”とろり”と横になって眠りを取る女性を描いた経真珠美の装幀がとても好い。

 「Ⅰ蛙の章」の作品は行頭が階段状に変化をしていたり、行が下揃えであったりと、変化に富んだ組み方となっている。言葉が勝手気ままに跳びはねて話者をとりかこむ世界を作り上げていく。「夏のこと。」。トンビは飛びこんできて胸のなかでばたつくし、夜がはじまると三人乗りの自転車の少女が過ぎていく。

   ガードレールにもたれ咲くオニユリの
   花びらのなかでしずかに動きだす黒い点点
   (ダ ル マ サ ン ガ コロンダ)
   振り向くと
   黄色い新幹線
        過ぎた
   (父ちゃんの白目の色だ)

 「Ⅱ胡瓜の章」は、入退院生活をしていた父との日々を描いている。病の父であり、それを介護する話者なのだが、そこには呆気にとらわれるほどに重苦しさを感じさせる描写がない。「居間」では、外泊許可の出た父はよろりとベッドに横になる。いくつもの点滴の跡があるのだろう、最終部分は、

   がぼがぼの襟から赤紫や茶色がのぞく
   あたいのパジャマ貸したろか
   右腕を
   のろり上げ
   しっしってした

 この章のどの作品ででも、関西弁でのやりとりの奥にある父と話者の思いがじわりと滲んできている。この章の最後の「キュウリ」は父を送ったあとの作品。父が植えた苗から次々とキュウリがなり、水を撒くと「そこここに虹」がかかるのだ。

「Ⅲ綿毛の章」引っ越しをしての新しい土地での生活が描かれる。話者は外部描写に徹底していて、感情を差し込まない。映像的な手法を思わせるのだが、その描写の裏側にはやはり感情が裏打ちされている。そのせめぎ合いにはリズムがあり、小気味よい。
 「サスペンダー」は(おそらくカウンターだけの狭い)スナックでの光景が描かれる。狭い隙間を通って奥へ入ったトモさんの背中にはダウンジャケットから抜けでた白い羽がへばりついている。(狭い)トイレで話者はサスペンダーを濡らし、最終部分は

   この青いのなんだっけ
   さあね
   あした咲くよ 名前つけようよ

   サスペンダーのグリップにつつまれ
   つながっているような
   今日だよね、まだ

 帯にあった文句は「生きることも/死ぬことも/すべて この世のこと//(燃えたら一緒や)」。なるほど、豪放に見える作品の裏側から時おり覗く寂しさのようなものがこの心意気を支えているのだな。
コメント
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