瀬崎祐の本棚

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詩集「空へ」 境節 (2018/05) 思潮社

2018-06-26 21:30:47 | 詩集
 第12詩集。94頁に37編を収める。作者が若い頃に描いたという2つのデッサンが載っている。

 作品のタイトルには言いかけた言葉が多用されている。たとえば「あの夏の」、「夢の」、「空を」、「一輪の」などなど。そして動詞も言いかけられて終わっている。たとえば「浮いて」、「知らされて」、「まねかれて」などなど。作者の、未だ終わらない、まだ動き続ける、という意志のあらわれなのかもしれない。

 「ためされて」では、作者は詩を書くことによってなにかを失ったかもしれないと感じている。しかし、「まだ詩は書ききれていない/失うものもこれからふえるだろう」と続ける。

   少しずつきもちがないで
   逃げた小鳥の数を知る
   まっくらな背景を
   のぞきこんでしまう

 なにを主題にしたにしても、詩を書くことは、そのたびに新しく自分を書きあげていくことでもあるのだろう。それを作者は自分の「生き方がためされている」のだと感じている。詩を書くことが自分の生きていくことと強く結びついている。

 そして同時に言い切ることのできない不安もあるのだろう。これまでの生は充分に長いものであったはずなのだが、それでもなお言い切るには足りないものがあると感じているのだろう。
 「越えて」では、「影絵のような/少女が歩いていく」。そして、時を超越するように少女はいなくなる。

   なつかしい荷車が通る
   そのあとは 闇
   現実を越えて
   影が わたしを
   追い抜いていく

 わたしは何に追い抜かれたのだろうか。もしかすれば、少女はかっての日の自分だったのかも知れない。
 作者の作品は、少女時代を振り返り、友人・知人との関わり合いを見直し、今の自分の有り様を見つめ直している。比較的短い息継ぎで各行が形作られた独白体での作品であるのだが、そのどの作品も無駄がそぎ落とされた緊張感を保っている。
コメント
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