A5版、23頁、中綴じの手頃な肌触りの詩誌。5人が集まっている。
齋藤健一は4編の短い散文詩を載せている。どの作品も断定口調での描写に拠っているのだが、それは奇妙に捩れていく。イメージをたどっていくと、いつのまにか遠い地点にまできている。たとえば「家の人」は「黒っぽい衣服に相似した端書を投書する。」と始まる。
春風がいま子供の汚れ襟だ。屋根のあわさる曇天。そこ
はトタン張りで草が生いしげる。縁側のランプ。下を照
らし見ている。
「手」冨岡郁子。
手の届かないところを口でなめているという。その言いようには、偏執的な、憎しみと裏表一体になった愛のようなものも感じられる。「しかし去ってゆくのは/ことばなの」だという。感情と身体が混沌としてきて、最終部分は、
逸れてゆく
あなたをなぞっています
「お昼のパスタ」夏目美知子。
大切な人との思い出を描いている。その人は「忘れることです」と私に言ってくれたようなのだ。小窓から公園を見ていたそのときの私がよみがえる。そして今はお昼のパスタを作ろうとしている。静かな哀悼の作品。
遠くから「忘れることです」と付け加えるように言った人
は、二月に亡くなった。「それは私には難しいんです」と
私が訴える前に。
齋藤健一は4編の短い散文詩を載せている。どの作品も断定口調での描写に拠っているのだが、それは奇妙に捩れていく。イメージをたどっていくと、いつのまにか遠い地点にまできている。たとえば「家の人」は「黒っぽい衣服に相似した端書を投書する。」と始まる。
春風がいま子供の汚れ襟だ。屋根のあわさる曇天。そこ
はトタン張りで草が生いしげる。縁側のランプ。下を照
らし見ている。
「手」冨岡郁子。
手の届かないところを口でなめているという。その言いようには、偏執的な、憎しみと裏表一体になった愛のようなものも感じられる。「しかし去ってゆくのは/ことばなの」だという。感情と身体が混沌としてきて、最終部分は、
逸れてゆく
あなたをなぞっています
「お昼のパスタ」夏目美知子。
大切な人との思い出を描いている。その人は「忘れることです」と私に言ってくれたようなのだ。小窓から公園を見ていたそのときの私がよみがえる。そして今はお昼のパスタを作ろうとしている。静かな哀悼の作品。
遠くから「忘れることです」と付け加えるように言った人
は、二月に亡くなった。「それは私には難しいんです」と
私が訴える前に。