瀬崎祐の本棚

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多島海  31 (2017/05)  兵庫

2017-05-24 22:42:51 | 「た行」で始まる詩誌
 やや小ぶりのB6版、36頁の詩誌で、4人が集まっている。

 「花屋の前で」江口節。
 花立てに入れる花は、庭で摘んだり花屋で求めたりする。作者の息子さんは、そんな花立ての横の写真の中にいて、あの女性(ひと)はチューリップを持ってきてくれたのだ。

   あのひとの人生はこれからの方が長いから
   もう連絡するのはやめましょうね
   夫とふたり
   そっと門扉を閉めたのだった

 おそらくは義理の娘になるはずの人だったのだろう。その人に忘れてもらうのは辛いことだが、忘れてもらわないことも、やはり辛いことなのだ。優しい気持ちが寄り添って、それからゆっくりと遠ざかっていく。

 同人はそれぞれエッセイも載せている。
 松本衆司の「四十年ぶりの新しい時間」は、三十九年間務めた教職を辞する決意をしたときの思いを書いている。終わりの意識が訪れて、逡巡の果てに、「ああ、やめていいんだ。」と思えたときの開放感が伝わってきた。そうだろうな、と思ってしまう。
 私事になるが、私は未だ(形ばかりではあるが)常勤を続けている。そのために業界の新しい知識は常に習得しなければならない。学会にも出席しなくてはならない。そんなことがまったく不要になる日が来たら、と考えると、この松本の文章はとても人ごととは思えないものだった。
 しかし、このエッセイにはオチがあった。それまでの職場を退職した作者は、乞われて、なんと関連校の教師になったのだ。おや、おや・・・。 
コメント (1)
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