瀬崎祐の本棚

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乾河  79号  (2017/06)  兵庫

2017-05-27 09:23:02 | 「か行」で始まる詩誌
 A5版、23頁、中綴じの手頃な肌触りの詩誌。5人が集まっている。

 齋藤健一は4編の短い散文詩を載せている。どの作品も断定口調での描写に拠っているのだが、それは奇妙に捩れていく。イメージをたどっていくと、いつのまにか遠い地点にまできている。たとえば「家の人」は「黒っぽい衣服に相似した端書を投書する。」と始まる。

   春風がいま子供の汚れ襟だ。屋根のあわさる曇天。そこ
   はトタン張りで草が生いしげる。縁側のランプ。下を照
   らし見ている。

「手」冨岡郁子。
 手の届かないところを口でなめているという。その言いようには、偏執的な、憎しみと裏表一体になった愛のようなものも感じられる。「しかし去ってゆくのは/ことばなの」だという。感情と身体が混沌としてきて、最終部分は、

   逸れてゆく
   あなたをなぞっています

 「お昼のパスタ」夏目美知子。
 大切な人との思い出を描いている。その人は「忘れることです」と私に言ってくれたようなのだ。小窓から公園を見ていたそのときの私がよみがえる。そして今はお昼のパスタを作ろうとしている。静かな哀悼の作品。

   遠くから「忘れることです」と付け加えるように言った人
   は、二月に亡くなった。「それは私には難しいんです」と
   私が訴える前に。

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