瀬崎祐の本棚

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詩集「赤く満ちた月」 青山みゆき (2014/10) 思潮社

2014-11-25 21:34:10 | 詩集
 第2詩集。79頁に24編を収める。
 鋭利な刃物で風景を切り裂くように描写している。冷徹にも見えるその描写には呼吸の乱れもない。そして、自らが描写したものについて(あるいは、描写してしまったものについて)必死に反発しているようなのだ。
 「盛夏」では電車の中で出会った男についての妄想が描写される。わたしは、つり革につかまっている男の「なめらかな尻のふくらみに触れ」、「脈打つ性器に触れる」。

   心のもっともやわらかな部分を
   ぴったりと重ね合わせる
   なまあたたかい汗の匂いが立ちのぼる
   くらくらとめまいがする
   わたしはゆっくり内側から押し広げられてゆく

 ここでは暑さの中での生が、肉体的な生臭い性へと転換されて渦巻いている。その妄想に没入することによって時間と場所を超越した時点へ彷徨っている。やがて「わたしは生の塊となって/じりじりと宙づりになっている」のだ。
 「雨」では、「雨つぶが重たげに表皮をつたわ」っているざくろが詩われる。わたしが「紅い裂け目に触る」と「手から種がこぼれる」のだ。そしてそんな夜には納屋の隅で猫がひそかに分娩する」のだ。最終連は、

   わたしは雨に打たれながら台所へもどる
   なまぐさい肉の味が唇にのこる
   てのひらの割れた卵から白身が流れでる
   耳元で蝿が一匹ぶんぶんうなっている

 何の説明もなく、何の意味を求めようとしているのでもない。ただ描写されたものだけが暗くこちらを眺めている。おそらくは、作者も描写してしまったものに凝視されてしまっているのだろう。
 「息を殺す」などの詩誌「未来」に発表されたという3編の作品では、目眩を誘うような饒舌な独白体に魅了された。
コメント
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