瀬崎祐の本棚

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詩集「奇妙な祝福」  北爪満喜  (2014/09)  思潮社

2014-11-10 22:47:19 | 詩集
 第8詩集。159頁に40編を収める。
 絡みついてくる血脈の中で自分が立っていた位置をあらためて確認している。
 「きょうはよい日」と何度も繰り返し自分に言い聞かせているような「家の周りをぐるっとまわって」では、自分の暮らしがあった場所での出来事を振り返っている。そこでは不気味なほどに穏やかだった日々が過ぎていたのだ。今になれば、それは怖ろしいほどに懐かしいものなのだろう。だからきょうは「乾いて晴れた日」になったのだ。
 「糸で編まれたくたくたのネット」では、オレンジ色のボールで鞠突きをしている。私と弾むボールだけになった世界は時間を跳び越え始める。

   宙から降りて
   しんとして
   玄関に着き ぽつんとなった
   陰りは 追わないようにして
   通路の北で転がっている
   月のような丸いボールを
   取りに行く
   取りに行った
   何度も何度も 取りに行き
   月も巡った
   太陽も出た

 海岸に出かけた「あの光る海の波というのは」では、昨日隣り合った白衣の女の人を思い出している。

   たえまなく打ち寄せては引く海水が
   皮膚の下の暗い溝を
   洗っているのに気づいた

   短い白衣の女の人は
   顔をあげ
   丸いテーブルから離れていった

   闇の中から 私も顔をあげる

 確かに覚えていることがあるのだが、思い返すほどにそれらは不確かなことになるようだ。くっきりととても明るい日々だったはずが、なにかあやふやな懐かしさだけに変容しているようだ。
 詩集のタイトルにもなっている「奇妙な祝福」で描かれるのは、縁側にいる父と母と、そして未だ生まれていないのにそこにいる私の光景。この作品の感想は詩誌発表時に「現代詩手帖」詩誌評で書いている。
コメント
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