瀬崎祐の本棚

http://blog.goo.ne.jp/tak4088

詩集「地の記憶」  佐々木朝(正しくは月の上に𠂉がつく)子  (2014/09)  樹海社

2014-10-28 23:40:20 | 詩集
 第2詩集。91頁に17編を収める。表紙カバーには前詩集と同様に香月泰男の絵が用いられている。
 「シマシマの虎」では黄色い縞のところだけの虎が現れる。満ち足りた獣は優しいいのだろう。しかし、空腹になった虎には黒い縞が現れ、獲物を飲み込んでいく。「私も 食べられてもいい気がした」

   でも 黒いシマシマだけの虎は半分しか私を食べられなかった
   半分だけ食べられるというのは 幸せなのか 不幸なのか
   そんな形で空を見ると空も半分だけ見えるのだった
   街も家も半分 人も半分だけ
   そうした景色を眺めていると もともと人には
   全体を見ることなど出来なかったことが分かってくる

 虎の黄色と黒の縞模様のように、すべての事象にも光りと陰があるのだろう。そうした観念がくっきりとした形のものとして表現されている。半分になってしまった存在にとっては、自分と対峙する在るものもまた半分だけ、というのは新鮮な捉え方と思える。最終連は、

   半分食べ残された私は 今はまた黄色の縞で現れた虎を
   すこし慣れた手つきで撫でてみる すると私の中にも
   二色の縞模様が次第にはっきりと見えてくるのだった

 半分を食べられてしまいながらも、そのことを静かに受け入れている気持ちが、自分の存在も虎と同じであったことに気づかせてくれている。
 Ⅱには、作者が幼い頃を過ごした旧満州のノモンハンや、そこから続くシベリアを舞台にした作品が、またⅢには寓話的な雰囲気の作品が収められている。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする