瀬崎祐の本棚

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詩集「かわほりさん」  海埜今日子  (2014/09)  砂子屋書房

2014-10-01 17:40:30 | 詩集
 第5詩集。138頁に30編を収める。
 詩集全体に海埜独特のひらがな表記による世界が拡がる。
 それは言葉と言葉が微妙に捻れながらつながって形づくる世界であり、彷徨っている方向と奥行きの感覚が次第に麻痺してくるような迷路の世界でもある。素敵に幻惑させられるのだ。
 たとえば独り言のように語りかけてくる「骨灰(こつばい/こっかい)を」。話し言葉を耳で聞く場合は、当然、言葉は音のみで入ってくる。漢字などの表意文字の特性を伴ってはいない。この作品の語りかけも表音文字のひらがなだけで、ただ、ひらがなの見た目の柔らかさが音だけを伴って眩暈を起こさせる。

   ほねにはいをささげましょう。さいしょから、のように、まぶすの
   です。すけるほどに、あせばんで、おりであるならしずめばよかっ
   た。まあいがきっと、ただれます。はむように、くちをむすべば、
   もう、さしだせないから、きぼうです。

 詩集タイトルの「かわほりさん」がどこに居るのかと思っていたら、「たそがれのばしょ」でいきなり告白をされていた。かわほりさんは、「かわたれさんに、にて」いて、こうもりさんや、ざわつくししゃさんでもあるようなのだ。ここでは名付けられたものは呼ばれた途端に形を崩して隣のものと溶け合って、迷路となっていく。この世界がおうまがときにはあちらの世界と溶け合っているようだ。

   かわほりさん。ほんとうにつけた、ねずみのはね。おいかけたので、まっか
   なささくれの、はざまにひたして。だれですか、まちがえないように、へん
   じをたぐり、なんてあおさ、とびかかって、あらたなつき、かかげましょう。

 あとがきにかえて、として「たそがれ的な場所で、言葉を。」という魅力的な一文も載っている。
コメント (1)
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