瀬崎祐の本棚

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詩集「岬ミサ曲」  森山恵  (2014/09)  思潮社

2014-10-21 19:44:52 | 詩集
 126頁に34編を収める。中本道代の栞が付く。
 見えない場所での死が詩集のあちらこちらにあるようだ。表面の形を見ているだけでは気づかないような裏に、なんでもないような日常の出来事の陰に。そんな見えない場所に潜んでいる死が、この世界での生を支えているようだ。
 緩みのない硬いイメージの作品もあるのだが、ここでは見るほどに輪郭が曖昧になっていくような「硝子棚」を紹介する。姉があつめていたがらすの小鳥が、がらすの棚に並べられている。たいせつに置かれているのに「ほっそりとした/鳥たちのあしは/ぽきり/ぽきり/と/折れてい」くのだ。なぜなのだろうか。

   目をあげると戸の向こう
   庭土のひとところが
   ひかる
   光るはずのないものが

   ひかりはじめる

 庭の見えない場所から届けられてくる現象は、なにの合図なのだろうか。とても怖ろしいもののようなのだが。
 言葉を発することへのためらいもあるようだ。短い単語の間におかれた息継ぎのための空白地帯、あるいは言い切ってしまう前の淀み。たとえば、「指切り」では仙人草の小さな仙女が語っているのだが、

   蜜 遣い。

   そう。仙人草。小さな莟は細く裂けて囁く。
   くすくす笑う。歌う。
   指に絡み付いて。わたし。囁く。
   笑う。人間たち 分かってないね。なんにも。なあんにも。

 正しく述べるならば、仙人草の仙女が語っていることを話者が語っているのだが、そこにためらいがあるわけだ。語ってしまったら、取り返しがつかないことが起こるのかもしれないのだ。
 「みくまり」、「なみだ壺」については詩誌発表時に感想を書いている。
コメント
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