第2詩集。69頁に30編を収める。
どの作品も10行から30行までの見開き頁に収まる長さで、情景を切りとっている。その短さの中で、迷いをみせることもなく事象をみつめている。その姿勢には潔さに通じる強さを感じる。
「満開」は誰かと一緒に夕焼けのなかにいる作品。あたりはみるみるうちに色を変えていったのだろう。そして、
そこの隠れた通路を渡る誰かを確かに見た
でもなにを見たのだろう
大人のサンダルを履いたまま戻らないひとのこと
何度も温めなおしたシチューのなかに溶けてしまった時間
岩塩のように固いあなたが
風化していく花の名前を諳んじていたことを
なんでもないような事柄が重なり合って、いつしか物語のただ中に連れて行かれている。ついには、「満開の花は ほの暗い手はずで/あたり一面を花の海にした」。この花に満たされた世界は、どこかこことは異なる場所に変容しているのだろう。
「オレンジ・ペイン」では「遮断機が上がった」線路を越えて街に入っていく。白いフェンスの薬局では水槽が見え、そこには「青く光る魚の鱗がはりついたままだ」。誰だって、おぼれそうになれば助けを求めるのだろう。故のない不安のようなものが風景にあふれているようだ。
くすんだ店のドアノブには
積み重ならない でも重くて
行き場所を探して揺れる
焰
誰でもよかった
そうしてそこは更地になった
横切る春猫の毛がにおう
事象を見つめる視点には冗長な部分がなく、語られる言葉がきりっと立っている。
どの作品も10行から30行までの見開き頁に収まる長さで、情景を切りとっている。その短さの中で、迷いをみせることもなく事象をみつめている。その姿勢には潔さに通じる強さを感じる。
「満開」は誰かと一緒に夕焼けのなかにいる作品。あたりはみるみるうちに色を変えていったのだろう。そして、
そこの隠れた通路を渡る誰かを確かに見た
でもなにを見たのだろう
大人のサンダルを履いたまま戻らないひとのこと
何度も温めなおしたシチューのなかに溶けてしまった時間
岩塩のように固いあなたが
風化していく花の名前を諳んじていたことを
なんでもないような事柄が重なり合って、いつしか物語のただ中に連れて行かれている。ついには、「満開の花は ほの暗い手はずで/あたり一面を花の海にした」。この花に満たされた世界は、どこかこことは異なる場所に変容しているのだろう。
「オレンジ・ペイン」では「遮断機が上がった」線路を越えて街に入っていく。白いフェンスの薬局では水槽が見え、そこには「青く光る魚の鱗がはりついたままだ」。誰だって、おぼれそうになれば助けを求めるのだろう。故のない不安のようなものが風景にあふれているようだ。
くすんだ店のドアノブには
積み重ならない でも重くて
行き場所を探して揺れる
焰
誰でもよかった
そうしてそこは更地になった
横切る春猫の毛がにおう
事象を見つめる視点には冗長な部分がなく、語られる言葉がきりっと立っている。