瀬崎祐の本棚

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詩集「時を運ぶ折り舟のように」  宗田とも子  (2014/09)  ふらんす堂

2014-10-12 21:53:31 | 詩集
 第2詩集。69頁に30編を収める。
 どの作品も10行から30行までの見開き頁に収まる長さで、情景を切りとっている。その短さの中で、迷いをみせることもなく事象をみつめている。その姿勢には潔さに通じる強さを感じる。
 「満開」は誰かと一緒に夕焼けのなかにいる作品。あたりはみるみるうちに色を変えていったのだろう。そして、

   そこの隠れた通路を渡る誰かを確かに見た

   でもなにを見たのだろう
   大人のサンダルを履いたまま戻らないひとのこと
   何度も温めなおしたシチューのなかに溶けてしまった時間
   岩塩のように固いあなたが
   風化していく花の名前を諳んじていたことを

 なんでもないような事柄が重なり合って、いつしか物語のただ中に連れて行かれている。ついには、「満開の花は ほの暗い手はずで/あたり一面を花の海にした」。この花に満たされた世界は、どこかこことは異なる場所に変容しているのだろう。
 「オレンジ・ペイン」では「遮断機が上がった」線路を越えて街に入っていく。白いフェンスの薬局では水槽が見え、そこには「青く光る魚の鱗がはりついたままだ」。誰だって、おぼれそうになれば助けを求めるのだろう。故のない不安のようなものが風景にあふれているようだ。

   くすんだ店のドアノブには
   積み重ならない でも重くて
   行き場所を探して揺れる
   焰

   誰でもよかった

   そうしてそこは更地になった
   横切る春猫の毛がにおう

 事象を見つめる視点には冗長な部分がなく、語られる言葉がきりっと立っている。
コメント
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