瀬崎祐の本棚

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詩集「みずめの水玉」  広瀬弓  (2014/09)  思潮社

2014-10-15 14:55:12 | 詩集
 第3詩集。92頁に24編を収める。
 土地には、そこに流れた時間の物語が染みこんでいる。だから、その地を訪れたものはその物語に捕らわれてしまうわけだ。
 「おりもの」は、「うす紅色は垂れ下がり/こんなにもじゅくじゅくと/あなたは女だった」とはじまる。台風によって神木は倒れ、樹液がとめどもなく溢れているのだ。神木には支えてきた物語もまたあったわけだ。

   一週間たってもとねどなく流れつづける
   幽かなかすかな紅色の水はこごり
   やがて切り口にねばりつき
   とろとろろ膜になって
   ひらひらら皮になってひんやりと
   宙のおりもの裏から表までおりて

   みずめの端のおわり

 土地が言葉を運んできているのだが、その潤していたものを”おりもの”と見る視点には、土地を支えていたのは性としての女だったという思いがあるのだろう。
詩集の後半には病に伏している人により添う思いが表出されている。「水は光の容れものだから」では、和室に「白い姿で寝ている」父に寄り添っている。「父の細い隙間が/何かの間違いのように光るので」、それを確かめようとして父の顔の横にわたしの顔も下ろすのである。まぶたの裏側に涙が溜まり、父の顔からは「末期の思いも失せて」いるのだ。最終連は、

   水は光の容れものだから
   かがやく
   天上の顕わのすべて
   うごめきあそぶ

 「でいがん」は”泥岩”の内部に隠されたものと、”泥眼”が見つめるものが混沌としてくる魅惑的な作品で、詩誌発表時に感想を書いている。
コメント
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