瀬崎祐の本棚

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詩集「うず」  そらの珊瑚  (2013/10)  土曜美術社出版販売

2013-11-05 20:58:08 | 詩集
 第1詩集。91頁に24編が収められている。「現代詩の新鋭」シリーズの1冊。
 どの作品もとても親しみやすい肌触りである。気どったところのない表現は平易で、それでいながら、おや?と思わせる視点で物事を見つめている。
 「治りかけの小さな傷は/ちょっと痒くなる」と始まる「メモワール」では、身体にのこっている傷と共に在る記憶をさぐっている。

   治りかけの傷は
   たぶんさみしいのだ
   自分の存在がやがてなくなってしまうことが

   見えない傷はどうしているのだろう
   身体の内部で生まれやがて消えていくそんな傷
   宿主にさえ知らせることなく
   未来永劫痕跡さえ発見されない
   もっともっとさみしい傷

 母が消し忘れたアイロンで火傷をした弟の引き攣れたような傷もあるし、友達から置いてけぼりにされた遊具でついた私の足の傷もある。そして私の右胸には20センチの手術痕がある。傷は、生身の者としてその人が生きてきた証でもあるわけだ。だから傷は愛おしいものでもあるわけだ。
 この作品の最終連は、「いろんな傷を吸収して/今、ここに存在する/くたびれた身体を/しみじみと洗う」のだ。
 「のりしろ」という作品では、「今日の終わりに/のりしろが佇んでい」て、「どうしますか? と/のんきに尋ねて」きたりする。そののりしろは明日をのりづけしてくれるわけだが、「一生に一度だけ/のりづけされない日がきて/のりしろはひっそりと役目を終える」のだ。機知に富んだ作品で、なるほどと思ってしまう。
コメント (1)
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