瀬崎祐の本棚

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地平線  46号  (2009/05)  東京

2009-06-16 19:37:44 | 「た行」で始まる詩誌
 「馬族」秋元炯。7連からなる散文詩。蒼黒い疲れきった男が語る物語という体裁をとっているのだが、これがすこぶる面白い。父親は馬族に貪りつくされて、わずかに残った左足の小指を母親が飲み込んで、その男は生まれたのだという。

   ある夜 馬はもう帰ったと思い 油断してい
   た俺が寝床に入ると 寝床の下に隠れていた
   馬が 覆いかぶさるように顔を覗きこんでき
   た 巨大な濡れた目を近づけ まばたきもし
   ないで俺の目の奥を見つめている こんなに
   見つめられたら 吸いこまれてしまう そう
   思った瞬間 吸いこまれたのは馬の方だった

 それから男は、父親を貪り食べた残りの馬を殺すための旅に出たのだった。古より伝えられる出生譚には、自分のルーツ探しの意味合いがあるのだろう。そして復讐譚には、どのような試練を経たときに自分のアイデンティティーが確立されるのかといった意味合いがあるのではないだろうか。しかし、この作品ではそんな理屈は不要にして、この物語自体の奇妙な面白さを堪能すれば良いのだろう。馬が俺の顔を覗き込んできたときの描写には、映画を観ているときのような臨場感があった。
コメント
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