桑の海 光る雲

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礼文島・初めての星観荘④

2005-03-10 22:15:14 | 旅行記
ハイジの谷へ行く朝。天気はまずまず。出発前に荷物をブラックホールに移す。一緒にハイジの谷へ行くTさんも一緒に移動だ。今夜1泊だけとは言え、何だか星観荘の真髄に触れるようで楽しみである。

2便のフェリーで出発する人を港で見送った後、礼文林道の入り口まで送ってもらい、砂利道を歩き始める。林道が切り開かれたのはそれほど前でないらしく、道の左右は笹原で明るい。後ろを振り返ると、利尻が見えると言うが、今日は見えない。メンバーは、男性がNさん、Mさん、Tさん、私とあと一人、女性がNさん、Kさん、Oさん、Fさんとあと一人の計10人。名前が解らない人がいるのは、この時は住所交換などしなかったからである。歩いているうちに、夕べのブラックホール以上に話が弾む。男性のNさんは西陣織の職人、Mさんは不動産関係、女性のNさんとKさんは昔なじみ。(Nさんとは翌年6月の礼文でもご一緒した。)Fさんは予備校勤務、Oさんは法律を学ぶ大学院生だそうだ。女性のNさんとKさん以外は皆ほぼ同年代だった。

高山植物は7月下旬ではもう時期を過ぎているそうだが、エゾウスユキソウはまだ見頃だという。礼文林道の脇にはその群生地があるというので楽しみにしていた。群生地ということで、ウスユキソウが一面に咲いていると思っていたら、そうではなかった。様々な植物の間に、白い毛で覆われたウスユキソウが交じって咲いている。それが、この辺りでは特に多い、ということなのである。濃い緑色の葉の間に、白いウスユキソウと、ピンクのエゾノカワラナデシコの取り合わせが美しい。

ウスユキソウ群生地を過ぎると、だんだん陽が射してきた。見えなかった礼文岳も全容が見えてくる。ハイジの谷へ下る道を折れると、青い空が見えてきた。道は笹原をまっすぐに進んでいる。道が下り始めると、一端林の中に入る。小さな沢を二つ渡り、斜面を登り切ると、突然目の前が開け、素晴らしい景色が目の前に広がった。北側と南側から緑色の斜面が下り、その交差するところに小さな沢が流れている。沢の流れていく向こうは見えないが、その先には海が見える。足下にはウスユキソウが咲いている。高山植物が咲いている向こうに海が見える!高山植物は辛い思いをして高い山に登らなければ見られないものと思っていた。実際、初めて北アルプスに登った時、一面のお花畑を見るまでには、ものすごく辛かったのを覚えている。そんな思いをせずに高山植物が見られるとは、礼文島とはほとんど信じがたい場所である。

ハイジの谷は、ここを訪れた人が、アルプスの少女ハイジになったような気分になったことから付けられているという。その気持ちは私の感動とは多少異なっているかも知れないが、感動したことには変わらないだろう。他にペーターの丘とクララの丘もあると聞いていたが、それがどこであるかはわからなかった。

眺めのいい、ケルンのあるところで皆でお昼にした。星観荘ではお弁当を作ってくれるので、注文しておいた。開けてみると、パックにご飯がいっぱいに詰められ、端に佃煮や煮物、揚げ物や漬け物が添えられた、シンプルなものである。しかし、これが美味しい!疲れた体にはちょうどいい。肉や魚がないので、食べた後も口の中はさっぱりしている。きっと、そういうことも考えた上で作られているのだろう。そんなところまで配慮されているのが嬉しかった。

1時間ほど休んで、谷を下り始めた。一カ所とても急なところがあり、ロープをつかんで下りた(現在では階段が整備されている)。そこを過ぎると、突然カモメの声が聞こえ、カモメの姿も見られるようになってきた。海が近い証拠である。海風が吹いてきて、汗ばんだ肌に心地よい。

沢の水が滝となって落ちている上にやってきた。たくさんのカモメが水浴びをしている。滝上の岩に登って写真を写した。道は滝の横の斜面を急坂となって下っている。そこを下りると滝の下に出る。ここが礼文で一番大きな、その名も礼文滝である。著名な滝に比べれば、規模はずっと小さいけれど、流れ落ちる水はとても涼しそうである。滝壺に近づくと、しぶきがかかっていっそう涼しい。海辺は玉石の浜になっており、波が打ち寄せるたびに、からからと心地よい音を立てる。たくさんの海藻が打ち寄せられているが、海の水がきれいなので、少しも臭わない。滝の下で皆で写真を写し、しばらく休んだ。

あとは海沿いに地蔵岩まで歩くばかりである。地蔵岩の手前に着くと、「8時間コース完全踏破おめでとう」の看板があった。私たちは8時間コースは歩いていないけれど、なんちゃって踏破記念、ということで皆で写真を写した。地蔵岩とは、お地蔵さんのような岩かと思っていたら、そうではないように思えた。確かにそうにも見えるのだが、どちらかと言えば、お地蔵様が手を合わせた、その手の様子なのではないかと思われた。岩のところへ来て見ると、岩にはたくさんの硬貨が打ち込まれている。波しぶきが当たって、そのほとんどは錆び、朽ちかけている。賽銭箱がないので、岩場に賽銭を投げるわけにも行かず、こうして岩に打ち込んでいるのであろうが、いささか罰当たりな気がした。

ここでグループは二つに分かれた。桃岩から元地灯台方面まで歩きたい人と、そうでない人とである。私は後者に加わってゆっくり歩いた。バス停からちょうどバスが出るところだったので、それに乗り、桃岩展望台の下で下りた。夕方の利尻山の姿が見えるのでは、と期待して、桃岩展望台まで登ってみたのだが、利尻山は日中と同じく、雲に覆われて見ることができなかった。風も強いので、早々に香深のフェリーターミナルまで戻った(戻る前に、さざ波という喫茶店でソフトクリームを食べたような気がするのだが、定かでない)。ターミナルで先行していた3人と合流し、エース君と呼ばれる星観荘の車に乗り込んだ。

そう、小樽で出会った3人は、礼文でこういう経験をしたのだ。現実から解放されて、初めて出会った人達と、礼文の海山を歩き、美しい景色を眺め、高山植物を見、いろいろなことを語らう、こういう夢のような時間を過ごしたのだ。だからその後の旅程なんかどうでもよくなって、一緒に行動して、見送りに港までやって来たりしてしまったのだ。こういう旅もあったのだ。そんなことを考えながら、エース君に揺られているうちに、星観荘に着いた。




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