みちのくの山野草

みちのく花巻の野面から発信。

「本当」ではなくて「本統」だったことの意味

2018-11-03 10:00:00 | 「羅須地人協会時代」検証
 前回私は
    今回のシリーズ〝「賢治は百姓になるつもりは元々なかった」の検証〟の一切を終えたい。
としたのだが、一つ大事なことを忘れていたので付け加えておきたい。それは、
    賢治は何故「本当の百姓」とは表現せずに「本統の百姓」と表現していたのか。
ということについてだ。

 周知のように、賢治は「本統の百姓」になるという意味のことを何人かに伝えて、花巻農学校の職を辞して実家を離れて下根子桜に移り住んだわけだが、前回までの考察によって私は
    元々賢治は、(当時日常的に使われていた意味での)「百姓」になるつもりはなかった。
ということを実証できた(つもりだ)。そしてまた、
    賢治が掲げた「本統の百姓」にもなれなかった。
ということもはっきりさせた(つもりだ)。

 一方、『広辞苑』には「本統」という項目はないし、「ほんとう」で引いてみると【本当】【本島】【奔騰】の三つしかない。また、賢治は「本統の百姓になります」の他にも「本統の勉強はね」というような使い方もしている。しかしこのような表現の場合に私たちは普通、「本当」を使う。ということは、賢治が「本当の百姓」と表現せずに「本統の百姓」と表現していたのには、賢治なりの狙いがあったはずだということになる。
 するとおのずからその狙いとして浮かび上がってくることは、「本統の百姓になります」の「百姓」とは、当時日常的に使われていた「百姓」、具体的には当時6割前後も占めていた小作農家のような農民(小作人)のことなどではなく、それまでは存在していなかった賢治なりの新しいタイプの「百姓」のことを言いたかったのだ、ということである。

 そしてこれまたここまでの考察によって、賢治が「本統の百姓になる」と言っていた「百姓」としての必要十分条件はほぼ、
    一.「当時珍しかった花卉の園芸」や「当時珍しかった洋菜の栽培」
    二.農民芸術(主に農事詩の創作、「農民藝術概論綱要」の完成)
であった、ということも私は導き出した。したがって、このような「百姓」が賢治なりの新しいタイプの「百姓」、つまり「本統の百姓」であったということになりそうだ。
  
 しかしながら、その結果は、
と、賢治自身が「羅須地人協会時代」のことを厳しく全否定して悔い、伊藤忠一に詫びていることから明らかで、
 賢治が「羅須地人協会時代」にやったことはそれほどのものではなく、やったことにしても、吉本隆明も言うように、「遊びごとみたいなもの」だった。
という結果に終わってしまった。つまり、新しいタイプの「百姓」になることを目論んだ賢治ではあったが、残念ながら頓挫してしまって、みじめな結果に終わってしまった。

 ということからは逆に、賢治が「本当の百姓になります」とは言わずに、「本統の百姓になります」と言って花巻の学校を辞めた時点で、「羅須地人協会時代」の限界と結末は既に内包されていたということが示唆される。
 少し穿った見方をすれば、「本統の百姓」の「本統」という一語が当時の賢治の拘りと気負いを教えてはくれるものの、「本統の百姓」になるために下根子桜に移り住んでそこで自活するための用意周到な準備も不足のままに、「本統の百姓」の理念も乏しいままに賢治は花巻農学校を急遽辞めざるを得なくなり、それに対する瞋恚が賢治をして「殆んどあすこでははじめからおしまひまで病気(こころもからだも)みたいなもの」にさせた、ということはなかっただろうか。

 どうやらこんなあたりが、「本当」ではなくて「本統」だったことの意味するところではなかろうか。

 そしてこれで、今度こそ本当に、シリーズ〝「賢治は百姓になるつもりは元々なかった」の検証〟の一切を終えたい。

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 賢治の甥の教え子である著者が、本当の宮澤賢治を私たちの手に取り戻したいと願って、賢治の真実を明らかにした『本統の賢治と本当の露』

             〈平成30年6月28日付『岩手日報』一面〉
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 その約一ヶ月後に、著者の実名「鈴木守」が使われている、個人攻撃ともとれそうな内容の「賢治学会代表理事名の文書」が全学会員に送付されました
 そこで、本当の賢治が明らかにされてしまったので賢治学会は困ってしまい、慌ててこのようなことをしたのではないか、と今話題になっている本です。
 現在、岩手県内の書店での店頭販売やアマゾン等でネット販売がなされおりますのでどうぞお買い求め下さい。
 あるいは、葉書か電話にて、『本統の賢治と本当の露』を入手したい旨のお申し込みを下記宛にしていただければ、まず本書を郵送いたします。到着後、その代金分として1,620円(本体価格1,500円+税120円、送料無料)分の郵便切手をお送り下さい。
      〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木守
               電話 0198-24-9813

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