《『宮澤賢治』(國分一太郎著、福村書店)》
ではいよいよ最後の章「六 宮澤賢治とわたくしたち」に入る。その中では、例えば、
賢治のことや、賢治の文学のことをかいたたくさんの本や文章のなかには、賢治をまるで神さまか佛さまのようにまつりあげているものが多いのです。また、よんでも、よくわからない童話や詩があっても、まるでお経のようにありがたがっている人もあります。
〈『宮澤賢治』(國分一太郎著、福村書店)90p〉と國分は痛烈に批判している。そして私は改めて知る。この本の出版年は昭和27年だから、それ以前から既に、賢治は「神さまか佛さまようにまつりあげ」られていたことを、だ。聖人・君子以上の祭り上げられ方をしていたとも言えそうだ。
そこで國分は、読者層と考えていた中学生に向かって、
わたくしは…(投稿者略)…みなさんには、正直に、賢治の考えかたが正しくなかった点についても、よく勉強してもらいたいと思っていたわけです。
と正直に自分の想いを吐露していた。そう言われてみれば、例えば小倉豊文が、
日本においても時局に伴う農村・工場・事業等の強制労働鼓舞の為に、「雨ニモマケズ」が利用されたことが頗る多く、詩集・童話集・伝記的著作の出版も枚挙に暇がなき程だったのである。
<『雪渡り 弘前・宮沢賢治研究会誌』(宮城一男編、弘前・宮沢賢治研究会)51p~>と言っていることや、太平洋戦争が敗色濃厚だった時期に行われた谷川徹三のあの講演からして、戦中に戦意高揚等に賢治が利用されていた<*1>ということはほぼ明らか。
それが、戦後になって民主主義の時代に入ったのだから、少なからぬ人びとによって、賢治に関しても批判されるということは当然避けられなかっだろう。そして、その一人として國分がいたとも言えよう。そして、戦前・戦中のいわば「宮澤賢治の神様・佛様扱い」は正しくなかったのでそのようなことについても「よく勉強してもらいたい」、と國分は中学生たちに訴えたのだということになりそうだ。
それもあってだろうか、國分は、
賢治の生活の見かたや世のなかに対する考えかたが、あんまり進歩的でなかったこと、人間の歴史はこう進んでいくものだから、われわれは自信をもって、こう生きて行こうと、科学的に教えるものではなかったこと…(投稿者略)…については、賢治の生きていた時代が、言論の自由もなにもない暗いおそろしい時代であったこと、その時の支配者たちが、神や佛などの考えばかりだいじにして、人間が人間らしい生きかたをするには、どうしたらよいのかというとを、なるべく考えさせないようにした時代であったことも考えて、あまり賢治ばかりをせめてはいけないのだろうと思います。
〈同117p〉たしかにそのとおりであり、賢治も時代の中で生きていたということを私たちは忘れてはならないのだと思う。
<*1:註> 昭和19年9月20日に東京女子大学で行われた「今日の心がまえ」という講演で、講師の谷川徹三は、
「雨ニモマケズ」の精神、この精神をもしわれわれが本当に身に附けることができたならば、これに越した今日の心がまえはないと私は思っています。今日の事態は、ともすると人を昂奮させます。しかし昂奮には今日への意味はないのであります。われわれは何か異常なことを一挙にしてなしたい、というような望みに今日ともすると駆られがちであります。しかし今の日本に真に必要なことは、われわれが先ず自分に最も手近な事を誠実に行うことであります。
<『宮沢賢治の世界』(谷川徹三著、法政大学出版局)より>とも語っているから、全く戦況の好転する見通しがないしこの時期、”「雨ニモマケズ」の精神”を身に付けるように心掛けるのが一番良いと谷川は聴衆に示唆していることになる。
追い詰められた戦況におののいたり気持ちを高ぶらせたりせずに、”「雨ニモマケズ」の精神”に沿って堪え忍びながら、デクノボウと呼ばれるような人であれと谷川は説いているようだ。そして、実は”「ミンナニデクノボウトヨバレ」るような人”こそがこの戦況下では偉い人になるべきだと谷川は主張していたようだ。
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賢治の甥の教え子である著者が、本当の宮澤賢治を私たちの手に取り戻したいと願って、賢治の真実を明らかにした『本統の賢治と本当の露』
〈平成30年6月231日付『岩手日報』一面〉
を先頃出版いたしましたのでご案内申し上げます。
その約一ヶ月後に、著者の実名「鈴木守」が使われている、個人攻撃ともとれそうな内容の「賢治学会代表理事名の文書」が全学会員に送付されました。
そこで、本当の賢治が明らかにされてしまったので賢治学会は困ってしまい、慌ててこのようなことをしたのではないか、と今話題になっている本です。
現在、岩手県内の書店での店頭販売やアマゾン等でネット販売がなされおりますのでどうぞお買い求め下さい。
あるいは、葉書か電話にて、『本統の賢治と本当の露』を入手したい旨のお申し込みを下記宛にしていただければ、まず本書を郵送いたします。到着後、その代金分として1,620円(本体価格1,500円+税120円、送料無料)分の郵便切手をお送り下さい。
〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木守
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