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六 仮説の定立と検証
そこで私は、次の
〈仮説:賢治は、「稲の土壌の最適pH領域は5.5~6.5である」という事実を知らなかった。………④〉
を定立し、その検証をする必要があると覚悟した。
その定立の主な理由は三つ。まず一つ目は、先に述べたように、
賢治はこの「本当のこと〝①〟」を高橋にはたして教えていたのだろうかとか、はたまた、そもそもこの事実を賢治は知っていたのだろうか、という疑問と不安を私は抱いてしまった。
からである。二つ目は、同様、
賢治の石灰岩抹施用の理論は定性的な段階に留まっていて、残念ながら定量的ではなかったので完全なものではなかったようだ。
と述べたが、これである。そして残りの三つ目が、
先の『土壌要務一覧』における記述〝②〟から、賢治は「稲は酸性に耐性はある」ものの、望ましいのはあくまでも中性であると認識していたということが導かれるが、この認識は「本当のこと〝①〟」とは相容れない。
からである。
そしてなによりも肝心なことは、ここまで調べて来た限りではこの仮説の反例は一つも見つからないから、この仮説は検証されたということである。従ってこの〈仮説④〉は、今後この仮説に対しての反例が見つからない限りはという、限定付きの「真実」となる。
しかしもちろん、もしこの〈仮説④〉が正しいとしても、賢治のことは責められない。それは、おそらく賢治が生きていた時代には、「稲の土壌の最適なpH領域は5.5~6.5である」という事実はまだ世間には知られていなかったと推定されるからである。いみじくも、花巻農学校で賢治の同僚だった阿部繁が、
科学とか技術とかいうものは、日進月歩で変わってきますし、宮沢さんも神様でもなし人間ですから、時代と技術を越えることはできません。宮沢賢治の農業というのは、その肥料の設計でも、まちがいもあったし失敗もありました。人間のやることですから、完全でないのがほんとうなのです((十四))。
と、後々当時のことを振り返っているが、この追想のようにである。
******************************************************* 以上 *********************************************************
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☆『筑摩書房様へ公開質問状 「賢治年譜」等に異議あり』(鈴木 守著、ツーワンライフ出版、550円(税込み))![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/75/20/a2fa88a84d3910d7fdeeca669a068dd1.png)
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この度、拙著『このままでいいのですか 『校本宮澤賢治全集』の杜撰』
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を出版した。その最大の切っ掛けは、今から約半世紀以上も前に私の恩師でもあり、賢治の甥(妹シゲの長男)である岩田純蔵教授が目の前で、
賢治はあまりにも聖人・君子化され過ぎてしまって、実は私はいろいろなことを知っているのだが、そのようなことはおいそれとは喋れなくなってしまった。
と嘆いたことである。そして、私は定年後ここまでの16年間ほどそのことに関して追究してきた結果、それに対する私なりの答が出た。延いては、
小学校の国語教科書で、嘘かも知れない賢治終焉前日の面談をあたかも事実であるかの如くに教えている現実が今でもあるが、純真な子どもたちを騙している虞れのあるこのようなことをこのまま続けていていいのですか。もう止めていただきたい。
という課題があることを知ったので、 『校本宮澤賢治全集』には幾つかの杜撰な点があるから、とりわけ未来の子どもたちのために検証をし直し、どうかそれらの解消をしていただきたい。
と世に訴えたいという想いがふつふつと沸き起こってきたことが、今回の拙著出版の最大の理由である。しかしながら、数多おられる才気煥発・博覧強記の宮澤賢治研究者の方々の論考等を何度も目にしてきているので、非才な私にはなおさらにその追究は無謀なことだから諦めようかなという考えが何度か過った。……のだが、方法論としては次のようなことを心掛ければ非才な私でもなんとかなりそうだと直感した。
まず、周知のようにデカルトは『方法序説』の中で、
きわめてゆっくりと歩む人でも、つねにまっすぐな道をたどるなら、走りながらも道をそれてしまう人よりも、はるかに前進することができる。
と述べていることを私は思い出した。同時に、石井洋二郎氏が、 あらゆることを疑い、あらゆる情報の真偽を自分の目で確認してみること、必ず一次情報に立ち返って自分の頭と足で検証してみること
という、研究における方法論を教えてくれていることもである。すると、この基本を心掛けて取り組めばなんとかなるだろうという根拠のない自信が生まれ、歩き出すことにした。
そして歩いていると、ある著名な賢治研究者が私(鈴木守)の研究に関して、私の性格がおかしい(偏屈という意味?)から、その研究結果を受け容れがたいと言っているということを知った。まあ、人間的に至らない点が多々あるはずの私だからおかしいかも知れないが、研究内容やその結果と私の性格とは関係がないはずである。おかしいと仰るのであれば、そもそも、私の研究は基本的には「仮説検証型」研究ですから、たったこれだけで十分です。私の検証結果に対してこのような反例があると、たった一つの反例を突きつけていただけば、私は素直に引き下がります。間違っていましたと。
そうして粘り強く歩き続けていたならば、私にも自分なりの賢治研究が出来た。しかも、それらは従前の定説や通説に鑑みれば、荒唐無稽だと嗤われそうなものが多かったのだが、そのような私の研究結果について、入沢康夫氏や大内秀明氏そして森義真氏からの支持もあるので、私はその研究結果に対して自信を増している。ちなみに、私が検証出来た仮説に対して、現時点で反例を突きつけて下さった方はまだ誰一人いない。
そこで、私が今までに辿り着けた事柄を述べたのが、この拙著『このままでいいのですか 『校本宮澤賢治全集』の杜撰』(鈴木 守著、録繙堂出版、1,000円(税込み))であり、その目次は下掲のとおりである。
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