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みちのくの山野草

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有栖川宮記念更正資金授与

2019-02-17 16:00:00 | 甚次郎と賢治
《『土に叫ぶ人 松田甚次郎 ~宮沢賢治を生きる~』花巻公演(平成31年1月27日)リーフレット》

 さて、「赤化思想の持ち主」と官憲等から疑われるようになってしまった甚次郎だが、「自分はまだまだやらねばならない計畫もあるし、總てが未完成であるから、どうしてももつよもつと社會に、農村文化に奉仕せねばならんと新しく心に誓つた」と決意を新たにしたいう。

 さりながら、不安もおのずから生ずるのも当然である。こんな時には、かつて農民劇『水涸れ』の脚本で迷った時に賢治の所へ相談に行って解決したのだからまた訪ねるということもあり得たと思うのだが、今度はそうしなかった。なぜならば、甚次郎は同書でこう述べているからである。
 小野先生を訪ねて そして昭和八年元旦の晨、恩師小野武夫先生<*1>を武蔵野の小金井の里に訪れたのであつた。先生は「俺の家で默って考えて居れ、畑を耕したり堆肥を切り返したり、本を讀んだりして、一週間も考へるが宜しい」と言つて下さるし、どうにも他に仕樣がないからそのまま居候の樣にして七日間を過ごした。ところが家の者がやつて來て過去の事、將來の事、世間の事等を先生にお話して、結局三十歳迄はこの奉仕の生活を續けることになり、再び曙光を得て歸る事が出來た。この時先生は…(投稿者略)…小さな像を賜つて「松田君、篤農家や精農家になるよりもこの作兵衞翁の樣な偉大な義農たれ」と教訓を賜つたのである。「さうだ、我々は義と美に生くる農夫となるのだ。貴いかな義、麗しきかな美」と嘆賞しながら、歸鄕したのであった。
 …(投稿者略)…自分の樣な意志の弱い思考の浅い人間は、いつも鍛えられ鞭打たれつつ導かれるものであると思い感激に打たれ乍ら新庄驛に下車した
             〈『土に叫ぶ』(松田甚次郎著、羽田書店)82p~〉
 そしてその結果、賢治は恩師小野武の心優しい配慮と、故里の父母等の理解によって改めて「農村文化に奉仕せねばならん」と己の気持ちの整理ができたのであろう。それは、少なくとも「三十歳迄」はそれが可能になったいうことで、この時甚次郎は24歳だったはずだから、あと6年間は今までどおり「奉仕の生活を續けること」ができることになったということでだ。しかも、恩師から「作兵衞翁」の像を貰ったことにより、これからは「義農」にならんと心に秘めて新庄に戻ったのだろう。 

 すると、故里新庄では思わぬ出来事が待っていた。それは次の様なことがあったからだ。
 御奬勵金拜受 町を歩いて來たら、知人がニコニコして「松田君お芽出たう」と元氣に挨拶してくれる。「何だ」と聞き返へしたら「君は未だ知らんのか、一昨日の新聞に出てるぢやないか、皇族樣から御奨励金拝受の光榮だ」と言われて驚いた。
             〈同83p〉
 こうして、甚次郎が頂いたのが、例の「有栖川宮記念更正資金」である。そしてこれを貰ったことによって、以後は甚次郎自身が、
 その後民を集めて、神社に奉告式並に祝賀式を擧行する事が出來たので、役場、警察、學校方面から危險思想視されることは一掃されたのであつた。
             〈同84p〉
と述べているように、それまでの様なひどい扱いはされなくなったようだ。
 ただしこのことが後に災いの種にならなかったのだろうかという不安も私は抱くのだが、これでひとまずは甚次郎も安堵できたことであろうことは明らかだから、取り敢えずはこれでよしとしよう。

<*1:註> 安藤玉治は、小野武夫について、
 (昭和)六年、大日本青年団の指導者養成所の第一回生として二カ月の長期講習を受け、ここで彼は多くの得がたい人生の師、友、先輩たちを知ることができた。
 とくに小野武夫博士を知ったことは、彼の村塾開設と無縁ではなかった。このとき彼は小野博士から共働思想の鼓舞者岡本利吉という人物を紹介された。
             〈『宮澤賢治精神の実践』(安藤玉治著、農文協)85p〉
と紹介していた。

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 賢治の甥の教え子である著者が、本当の宮澤賢治を私たちの手に取り戻したいと願って、賢治の真実を明らかにした『本統の賢治と本当の露』

             〈平成30年6月231日付『岩手日報』一面〉
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 そこで、本当の賢治が明らかにされてしまったので賢治学会は困ってしまい、慌ててこのようなことをしたのではないか、と今話題になっている本です。
 現在、岩手県内の書店での店頭販売やアマゾン等でネット販売がなされおりますのでどうぞお買い求め下さい。
 あるいは、葉書か電話にて、『本統の賢治と本当の露』を入手したい旨のお申し込みを下記宛にしていただければ、まず本書を郵送いたします。到着後、その代金分として1,620円(本体価格1,500円+税120円、送料無料)分の郵便切手をお送り下さい。
      〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木守
               電話 0198-24-9813

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