みちのくの山野草

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詩誌「次郎」が急遽『宮澤賢治追悼』に

2020-10-05 12:00:00 | 甚次郎と賢治
〈〈草野心平編、二郎社、昭和9年1月(ただしこれは「図書刊行会」の復刻版)〉

 米村みゆき氏はさらにこう述べていた。
 不知の者たちに死者の紹介をし執筆させているのはどうだろうか。参考までに『宮澤賢治追悼』「宮沢賢治研究」で草野に賢治を進められたと発言する人物をあげていくと、吉田一穂、髙橋成直、黄瀛、萩原恭次(ママ)郎、宍戸義一、小野十三郎、菱山修三、土方定一、左藤惣之助、竹内てるよ、高村光太郎、坂本徳松、伊藤信吉となる。…投稿者略…賢治の名を大衆に広めた谷川徹三も、最初は草野の呼びかけに応じた全集出版の協力者だった。
             〈『宮沢賢治を創った男たち』(米村みゆき著、青弓社)200p〉
 たしかに、『宮澤賢治追悼』や「宮沢賢治研究」への寄稿者は生前賢治とは親交のなかった人物がほとんどだと私も思っていたが、これ程多くの「不知の者」がいたとは思ってもいなかった。そしてその事情を、米村氏は続けて、こう推察していた。
 みんなが一様に、賢治について知らない、草野に勧められたと述べた理由が、たんに賢治が無名だった事実だけによっているとはいえない。一九五六年刊行の「宮沢賢治全集」「月報」の文章で草野は次のような説明をする。『宮沢賢治追悼号』は当初同人雑誌「次郎」を発行する予定だったのだが、同人に加入するはずの賢治が他界したので、急遽賢治の追悼集に変更した、そのため「次郎」のメンバーが、賢治については知らなくとも、追悼集を執筆した、と。
            〈同〉
 たまたま、「次郎」発行の予定が急遽『宮沢賢治追悼号』に変わったということは、私も以前何かを読んで知っていたのだが、「「次郎」のメンバーが、賢治については知らなくとも、追悼集を執筆した」ということまでは考えが及ばなかった。あれっ、前掲の「吉田一穂、髙橋成直、黄瀛、萩原恭次郎、宍戸義一、小野十三郎、菱山修三、土方定一、左藤惣之助、竹内てるよ、高村光太郎、坂本徳松、伊藤信吉」 の中の何人かの名前は以前何かで見たことがあるぞ。そうそう、そういえば、まさにこの伊藤信吉が『逆流の中の詩』の中で、
 雑誌『銅鑼』(大一四・四創刊)が草野心平・土方定一、手塚武・原理充雄らを中心に、小野十三郎・岡本潤・萩原恭二郎・神谷暢・竹内てる代・宮沢賢治・高村光太郎・尾形亀之助・尾崎喜八・坂本遼、その他が執筆したことをみても、アナーキズムの詩の系流には、情操としてのアナーキズムというべきものが絶えず入りこんでいた。
と述べていたことを思い出した。結構ダブっている人物がいる。何となく見えてきたぞ。それは、米村氏がさらに続けて、
 じつは、ここには経済的な事情も絡んでいる。雑誌「次郎」の発行は計画されていたのだが、おもに経済的な理由から実現できないでいた。そこで賢治が死去。自分たちの詩誌の代わりに宮沢家の援助で『宮沢賢治追悼号』を発行することになったのだ。
             〈同201p〉
と述べていたので、なおさらに見えてきたのだった。
 そういえば、実際、草野心平が
 「次郎」のかわりに『宮沢賢治追悼』を出し、架空の次郎社はこのまま姿を消させることにした。…投稿者略…『宮沢賢治追悼』の定価は五十銭で売れることは辞さなかったが発行所への注文などはなかったので「次郎社」の所在など必要でなかった。出版費の大部分は宮沢家で出し、八十三頁、部数は百部だったと記憶する。
            〈『宮澤賢治覚書』(草野心平著、講談社文芸文庫)265p〉
と述べていたことも思い出した。これで、米村氏のこの推察はほぼ事実であったと言い切れるだろうから、私は米村氏の言説に納得ができて、胸のつかえが下りたのだった。
 そこで私は、前回述べた
 これまで何度かこの『宮澤賢治追悼』を読み返したきたが、『追悼 義農松田甚次郎先生』の追悼を読んで心が打たれたような感動は、ほとんど感じられなかったのはある意味当然だったのだ。同時に、甚次郎は多くの農村青年らから敬慕されていたことがなおさら浮き彫りにされてしまった。
ということの確信をさらに増したのだった。

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