みちのくの山野草

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「新発見」とかたった書簡下書「252c」等の中身

2019-01-23 08:00:00 | 濡れ衣を着せられた高瀬露
《早池峰薄雪草》(平成23年7月11日撮影)

 さて前回、『新校本第十五巻 書簡 本文篇』所収の書簡下書中の対応のない(7)~(10)、つまり
   252b、252c、252c下書(二)、252c下書(三)
「新発見」と嘯いたものであったということになる4通であることがわかった。
 では次に、これらの4通の中身を、『新校本第十五巻 書簡 本文篇』と『新校本第十五巻 書簡 校異篇』に依ってそれぞれ確認してみたい。
「252b」について
252b 〔日付不明 小笠原露あて〕下書
お手紙拝見いたしました。
南部様と仰るのはどの南部様が招介くだすった先がどなたか判りませんがご事情を伺ったところで何とも私には決し兼ねます。全部をご両親にお話なすって進退をお決めになるのが一番と存じますがいかがゞでせうか。
 私のことを誰かが云ふと仰いますが私はいろいろの事情から殊に一方に凝りすぎたためこの十年恋愛らしい
            〈『新校本第十五巻 書簡 本文篇』〉   
「252c」について
252c (不2・不4・不6)〔日付不明 小笠原露あて〕下書
重ねてのお手紙拝見いたしました。独身主義をおやめになったとのお詞は勿論のことです。主義などといふから悪いですな。あの節とても協会の犠牲になっていろいろ話の違ふとこへ出かけなければならんといふ時でしたからそれよりは独身でも〔明る〕くといふ次第で事実非常に特別な条件(私の場合は環境即ち肺病、中風、質屋など、及び弱さ、)がなければとてもいけないやうです。一つ充分にご選 択になって、それから前の婚約のお方に完全な諒解をお求めになってご結婚なさいまし。どんな事があっても信仰は断じてお棄てにならぬやうに。いまに〔数字分空白〕科学がわれわれの信仰に届いて来ます。もひとつはより低い段階の信仰に陥らないことです。いま欧羅巴が印度仕込みのそれで苦しんでゐるやうです。さて音楽のすきなものがそれのできる人と詩をつくるものがそれを好む人と遊んでゐたいことは万々なのですがあなたにしろわたくしにしろいまはそんなことをしてゐられません。あゝいふ手紙は(よくお読みなさい)私の勝手でだけ書いたものではありません。前の手紙はあなたが外にお出でになるとき悪口のあった私との潔白をお示しになれ る為に書いたもので、あとのは正直に申しあげれば(この手紙を破ってください)あなたがまだどこかに私みたいなやくざな者をあてにして前途を誤ると思ったからです。あなたが根子へ二度目におい でになったとき私が「もし私が今の条件で一身を投げ出してゐるのでなかったらあなたと結婚したかも知れないけれども、」と申しあ げたのが重々私の無考でした。あれはあなたが続けて三日手紙を(清澄な内容ながら)およこしになったので、これはこのまゝでは だんだん間違ひになるからいまのうちにはっきり申し上げで置かうと思ってしかも私の女々しい遠慮からあゝいふ修飾したことを云ってしまったのです。その前后に申しあげた話をお考へください。今度あの手紙を差しあげた一番の理由はあなたが夏から三べんも写真をおよこしになったことです。あゝいふことは絶対なすってはいけません。もっとついでですからどんどん申しあげませう。あなたは私を遠くからひどく買ひ被っておいでに
            〈『新校本第十五巻 書簡 本文篇』〉
「252c下書(二)」について
252c (不2・不4・不6)〔日付不明 小笠原露あて〕下書㈡
なすってゐるものだと存じてゐた次第です。どんな人だってもにやにや考へてゐる人間から力も智慧も得られるものではないですから。
その他の点でも私はどうも買ひ被られてゐます。品行の点でも自分一人だと思ってゐたときはいろいろな事がありました。慶吾さんにきいてごらんなさい。それがいま女の人から手紙さえ貰ひたくないといふのはたゞたゞ父母への遠慮です。これぐらゐの苦痛を忍ばせこれ位の犠牲を家中に払はせながらまだまだ心配の種を播く(いくら間違ひでも)といふことは弱ってゐる私にはできないのです。誰だって音楽のすきなものは音楽のできる人とつき合ひたく文芸のすきなものは詩のわかるひとと話たいのは当然ですがそれがまはりの関係で面倒になってくればまたやめなければなりません。
           〈『新校本第十五巻 書簡 校異篇』〉
「252c下書(三)」について
252c (不2・不4・不6)〔日付不明 小笠原露あて〕下書㈢ 
  お手紙拝見しました。今日は全く本音を吹きますから
           〈『新校本第十五巻 書簡 校異篇』〉
というようなものである。

 しかしながら、附記「(不2・不4・不6)」の3通、つまり、
不2 〔日付 あて先不明〕下書
お手紙拝見いたしました。
やうやくあなたも私の弱点がはっきりお見えになったやうで大へん安心いたしました。何べんも申しあげてゐる通り私は宗教がわかってゐるでもなし確固たる主義があって何かしてるでもなしいろいろな異常な環境(質屋とか肺病とか中風とか)から世問と違った生活のしやうになった(強い人ならばならなくても済む訳です)だけのことでいまでもその続きなのです。文芸へ手は出しましたがご承知でせうが時代はプロレタリヤ文芸に当然遷って行かなければならないとき私のものはどうもはっきりさう行かないのです。心象のスケッチといふやうなことも大へん古くさいことです。そこ

不4〔日付 あて先不明〕下書
で只今としては全く途方にくれてゐる次第です。たゞひとつどうしても棄てられない問題はたとへば宇宙意志といふやうなものがあってあらゆる生物をほんたうの幸福に齎したいと考へてゐるものかそれとも世界が偶然盲目的なものかといふ所謂信仰と科学とのいづれによって行くべきかといふ場合私はどうしても前者だといふのです。すなはち宇宙には実に多くの意識の段階がありその最終のものはあらゆる迷誤をはなれてあらゆる生物を究竟の幸福にいたらしめやうとしてゐるといふまあ中学生の考へるやうな点です。ところがそれをどう表現しそれにどう動いて行ったらいゝかはまだ私にはわかりません。そこであなたがわたくしの主義のやうにお働きになるといってもわたくしはまああなたの最善の御考の通り

不6〔日付 あて先不明〕下書
お手紙拝見、一一ご尤です。まことの道は一つで、そこを正しく進むものはその道(法)自身です。みんないっしょにまことの道を行くときはそこには一つの大きな道があるばかりです。しかもその中でめいめいがめいめいの個性によって明るく楽しくその道を表現することを拒みません。生きた菩薩におなりなさい。独身結婚は便宜の間題です。一生や二生でこの事はできません。さればこそ信ずるものはどこまでも一諸に進まなければなりません。手紙も書かず話もしない、それでも一諸に進んでゐるのだといふ強さでなければ情ない次第になります。なぜならさういふことは顔へ縞ができても変り脚が片方になっても変り厭きても変りもっと面白いこと美しいことができても変りそれから死ねばできなくなり牢へ入ればできなくなり病気でも出来なくなり、ははは、世間の手前でもできなくなるです。大いにしっかり運命をご開柘なさいまし。

の3通と、先の4通252b、252c、252c下書(二)、252c下書(三)とは、基本的には別個のものであることが読み比べてみると明らかだ。共通の用語が少しはあるものの、意味的にほぼ同じ内容の文章を私には見つけられないからである。

 したがって、『旧校本第十四巻』の場合にはなくて、『新校本第十五巻』にはあるこの附記「(不2・不4・不6)」はただただ読者を混乱させているだけであるか、あるいは編者が混乱しているかのどちらかだということになりそうだ、ということを改めて残念に私は思う。それにしても、なぜこのような奇妙な附記をわざわざ改めてしたのだろうか、私は不思議でならない。それゆえ、この新たな附記は、「新発見」とかたったことを有耶無耶にせんがために糊塗した一言であったという疑念さえを持たれかねない、ということを私は危惧する。

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 賢治の甥の教え子である著者が、本当の宮澤賢治を私たちの手に取り戻したいと願って、賢治の真実を明らかにした『本統の賢治と本当の露』

             〈平成30年6月28日付『岩手日報』一面〉
を先頃出版いたしましたのでご案内申し上げます。
 その約一ヶ月後に、著者の実名「鈴木守」が使われている、個人攻撃ともとれそうな内容の「賢治学会代表理事名の文書」が全学会員に送付されました
 そこで、本当の賢治が明らかにされてしまったので賢治学会は困ってしまい、慌ててこのようなことをしたのではないか、と今話題になっている本です。
 現在、岩手県内の書店での店頭販売やアマゾン等でネット販売がなされおりますのでどうぞお買い求め下さい。
 あるいは、葉書か電話にて、『本統の賢治と本当の露』を入手したい旨のお申し込みを下記宛にしていただければ、まず本書を郵送いたします。到着後、その代金分として1,620円(本体価格1,500円+税120円、送料無料)分の郵便切手をお送り下さい。
      〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木守
               電話 0198-24-9813

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