去る22日にお訪ねしたのは、日本の「茶筌づくりの里」にある「翠宏園」。
奈良県生駒市高山町にある「翠宏園」は、高山茶筌・伝統工芸士・平田俊之さんのご自宅兼作業場である。
氏は、高山茶筌生産共同組合・理事長もされており、昨日も京都で開催の経済産業大臣指定・伝統的工芸品の近畿・四国ブロックの展示会に行かれていたとか。
そんな多忙な中、茶の心得もない無粋な私と、少しばかりお点前をしていたカミさんを前に、高尚で緻密で精細な技法で作業をされるご子息の手元に感心しながら、茶筌師の説明を聞くことに・・・。
この「高山茶筌」は、室町時代末期から500年の歴史があるという。 室町時代の中期、大和国添加郡鷹山(やまとこくてんかぐんたかやま)の城主大膳介頼栄(だいぜんかいよりさか)の次男・宗砌(そうせつ)が、その親友の称名寺(しょうみょうじ)住職・村田珠光(むらたじゅこう)が茶の葉を粉末にして飲むことを考案し、それを攪拌する道具の製作を頼まれ作ったのが、高山茶筌の始まりと伝えられている。
時の天皇に茶筌を献上し、「高穂」の名称を与えられ、宗砌は以後、城主一族にその製法を秘伝として伝え、代々「一子相伝」の技とし、 後の高山家没落後も、その秘伝は十六名の家臣によって伝えられ今日まで受け継がれているとか。
つまり、何故今日までこの地域にとどまり続いてきたのかといえば、「跡継ぎにしか技術を教えない。娘は嫁いで他の土地にいくこともあるため教えない」という拘りがあったのだ。なるほどと唸るしかない。
材料として使う竹は、直径7~8.5厘(2.1cm~2.55cm)の太さだが、なかなか揃わないという。
茶筌として最も良い竹とは、堅い竹であること。その竹が育つ良い条件とは、陽がよく当たる痩せ地で育ったものだとか。
ここ高山で採れる竹と、滋賀県産しかないという。
南国九州の竹は柔らかすぎて使えず、雪国の竹は雪の重みでシナリ癖がついているため使えないという。
茶筌の種類としては、100種類ほどあると言われているが、ここ平田さんの翠宏園では20~30種類程度しか作っていないという。
表千家、裏千家、武者小路千家などの流派によって、茶筌の竹の色、穂の形、竹の太さ・長さ、糸の色が異なる。
「茶人は、人が持っていない珍しい茶筌を欲しがられるものです。竹に虫食いの跡がついた面白味のあるものとか・・・」
国内で作られる茶筌のうち、裏千家の千家流と言われるものが80%を占め、白色の茶筌だ。
黒色の茶筌は、表千家だとか。
黒色の竹とは、わら葺き屋根で使われススで燻されたもので、竹にネバリが少なく、作りにくいという。
竹の太さによって、80本立、100本立、120本立という名称が付く。 戦後は、太い茶筌は点てにくいと敬遠されているとか。
「やはり、持ち易く、指の形が綺麗に見える、細い茶筌が好まれるようです。」と言われる。
天皇から賜わった名称の「高穂」と国名「鷹山」、それらから「高山」となったこの地。
高山茶筌生産共同組合員は23軒。非組合員を含めても30軒ほどが、ここ高山地区で茶筌を作っているという。
国内生産の茶筌の全てを、この高山地域(隣の精華町などを含む)で作られているという。
「茶筌を作るには、ノコギリ、包丁4~5種類、金ヘラの道具だけで、すべてが手作りなんですよ。」と、言われる。
小刀と指先だけで作ることから「指先の芸術品」なのだ。
ご自宅の一室を作業場とされ、跡継ぎのご子息と奥様の一家で、茶筌だけを作っておられる。
一日で、何本ほど・・・と聞くと「10本ほどかなぁ!」
この茶筌を作る工程において得手・不得手の部分があって、原材料となる竹を切り、大割り・小割りまでの荒仕事は男の仕事。その後の糸掛け(糸で編む)などの繊細で緻密な仕事は女性の仕事で、二人で一人前といわれる所以だとか。なかなか根気の要る、繊細な仕事なのだ。
この「翠宏園」に伺う前に、生駒市が運営する「高山竹林園」に立ち寄り、茶筌の色・形・種類などを見させてもらってきた。
この高山竹林園では、毎年、10月第2週の日曜日頃にお点前披露、茶筌製作実演、竹を使った光のアート、コンサートなどのイベントが催されるという。
また、常時、第一・第三日曜日(1日2回)には茶筌づくりの実演と、お点前が催されているのだ。
また、共同組合としては、地域の小学校の児童のために、丹精込めて作った茶筌の竹が割れて商品にならない茶筌と信楽焼のオウスを自腹で寄付したり、余り材の竹を使った「横笛作り」を提案・実施しているとも。
地域と共に歩みながら、「高山茶筌」を守り・育てておられることも話されていた。
これらの功績等が認められ、「経済産業大臣指定・伝統的工芸品」指定を受けるに至ったとか。
この指定とは、『主として日常生活の用に供されるものであり、製造過程の主要部分が手工業的であり、伝統的(100年以上の歴史を持つ)技術・技法によるもので、原材料が伝統的に使用されてきたものであり、一定の地域で10企業または30人以上の従業者がいること』が指定要件なのです。
この要件を満たしている「高山茶筌」。
その生産共同組合・理事長の職も、多忙を極める毎日なのです。
高山茶筌・伝統工芸士・平田俊之さん。仕事の手を止めて、説明して頂きました。
されている作業は「仕上げ」。穂先の乱れを直し、形を整えられています。
ご子息がされているのは、「味削り」。穂先の部分を湯につけ、身の方を根元から先になるほど薄くなるように削るのです。この味削りによってお茶の味が変わるといわれ最も難しい工程なのです。見事な小刀さばきです。
「やはり、持ち易く、指の形が綺麗に見える、細い茶筌が好まれるようです。」と言われる。
仕事場に掛けられていた「茶筌の基本的な形・種類」の写真。その一つ一つを説明して頂いた。中央の白色の茶筌が裏千家用だ。この種類が80%を占める。左端の黒色の茶筌は、表千家用だとか。
これは、生駒市が運営する「高山竹林園」に展示されている「高山茶筌」だ。この竹林園では、毎月第一・三日曜日(1日2回)、茶筌づくりの実演も行われている。
茶道具も一緒に展示されている。庭園も立派だ。茶筌づくりの実演当日はお点前も行われている。全て、茶筌生産共同組合の組合員の持ち回りで運営されている。
●「翠宏園」高山茶筌・茶道具製造元
●経済産業大臣指定・伝統的工芸品
大和高山茶筌
奈良県高山茶筌生産共同組合・理事長
伝統工芸士・平田俊之さん