いろはに踊る

 シルバー社交ダンス風景・娘のエッセイ・心に留めた言葉を中心にキーボード上で気の向くままに踊ってみたい。

追憶 娘享年34歳 ⑥

2005年12月07日 08時35分26秒 | 娘のエッセイ
 「まーちゃん、いつ入院してくるの。私も今同じ病院にいるからさ、早く入
院して来てよ」一年ぶりに聞いた朋子の声。
 あの日、初めての入院を明日に控え、不安でいっぱいだった私は、貴女から
の電話に呆然としてしまいました。
 貴女との会話を終え、電話を切った後も心臓がドキドキして、さっきまでの
自分の不安に取って代わり、貴女のことが心配で心配でたまらなくなってしま
ったのを憶えています。
実際入院してみたら、なんと貴女と私の病室は隣同士。壁1枚隔てて、頭をく
っつけ合って寝ていたことになるのよね。
眺めの良いティールームでのおしやべりが私たちの入院生活の日課だったね。
私が何か可笑しいことを言うと、貴女は膝を叩いて とっても楽しそうに笑っ
ていた。
 ある日、いつものようにティールームへ行こうと二人で廊下を歩いていたら、
看護婦さんに「あらら、ちょっと待って、二人とも微熱があるのに出歩いちゃ
って!」と苦笑いされたよね。
 その時私は思わず、「私達、高校の時からの友達なんですよ」って言ったん
だ。「えーっ本当」と、驚いている看護婦さんに貴女は、「去年の私の披露宴
にも出てくれて、スピーチしてくれたの」ってニコニコして言ったんだよね。
あの時の、朋子の笑顔が忘れられないよ。
 私の初めての入院生活は、貴女が居てくれたお陰でどんなに心強かったこと
でしょう。私が先生や看護婦さんに聞きづらかったことも、「ちゃんと聞かな
きゃだめじゃん、まーちゃん」って言いながら、身振り手振りを交えて貴女が
一生懸命教えてくれたよね。貴女がいなかったとしたら私の入院生活も大きく
違っていたと思うよ。そう私、とっても朋子に感謝していたんだよ。
 貴女と私が同じ病院に同時期に入院して、しかも病室も隣になるなんて、私、
単なる偶然とは思えなかった。貴女が私の助けになってくれたように、私も貴
女の助けになりたかった。力になりたかった。神様がこういう巡り合わせをさ
せたのなら、私にも何か出来るんじゃないか、私は一体どうすればいいんだろ
うっていつも考えていた。なのに……信じられないよ、朋子。
 このごろ私の職場の窓辺に、アオスジアゲハ蝶が毎日どこかから飛んでくる
ようになったの。ねぇ、朋子、あれはきっと朋子なんでしょう?
 だって貴女にとても良く似合う、ブルーのドレスと同じ色のきれいな羽をし
ているんだもの。
 貴女が大好きだった、花から花へと飛び回りながら、私に会いに来てくれて
いるのでしょう?私、貴女にちゃんと言ってたかな……ありがとう、朋子。

             友人 智美様
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