『大般若経』転読の式文
以下、エッセンスについて述べる導入として、大般若会の儀式で唱えられる『転読大般若中唱文(てんどくだいはんにゃちゅうしょうもん)』という短い文章を紹介しておこう。
先に言ったとおり、すべてを唱えて読むには時間がかかりすぎるので、短い文章を唱えながら経巻を開いて閉じる転読を行なうのだが、内容を読んでみると、かなりエッセンスを掴まえていると思われたので、まず見ておきたい。
諸法皆是因縁生(しょほうかいぜいんねんしょう)
因縁生故無自性(いんねんしょうこむじしょう)
無自性故無去来(むじしょうこむこらい)
無去来故無所得(むこらいこむしょとく)
無所得故畢竟空(むしょとくこひっきょうくう)
畢竟空故是名般若波羅蜜(ひっきょうくうこぜみょうはんにゃはらみつ)
南無一切三宝(なむいっさいさんぼう)
無量広大(むりょうこうだい)
発阿耨多羅三藐三菩提(ほつあのくたらさんみゃくさんぼだい)
と唱え、さらに密教系では、
納慕簿伽筏帝。鉢刺壞波羅弭多曳。怛弭他。室姪曳。室曬曳。室曬曳室曬曳。細。莎婆訶。
(ノウボバギャバテイ。ハラジャハラミタエイ。タニャタ。シレイ。シレイ。シレイシレイ。エイサイ。ソワカ)
…と、聞いても意味のわからない呪文を唱え、しかしわからないからこそ有り難いという印象を生み出す。
その後に「内空。外空。内外空。空空…」と、空について二十項目を述べた経文も唱えるが、これは般若経典の中に出てくるので、後に解説をしたい。
こうしたものを唱えながら、六百巻を何人かで分担して開いて閉じ、終わったら短い般若経典である『般若心経』を唱える、といった儀式を行なうのだが、この『転読大般若中唱文』に、『大般若経』のエッセンスとして挙げられているところを見ていこう。
なるべくわかりやすく説明するために、最初の句の「諸法」と四番目の「畢竟空」からいこう。
「諸法」は「すべての存在」、「畢竟」とは「究極のところ」、「空」とは「実体ではない・非実体」という意味で、つまり「すべてのものは究極のところ非実体である」というのがこの文章の結論であり、般若経典全体の説くところである。よく知られた『般若心経』の言葉でいえば「諸法空相(しょほうくうそう)」である。