タイの記録的豪雨と日系企業の被害について

2011年10月24日 | 持続可能な社会

 タイの記録的豪雨で日系企業の工場が大きな被害を受けているというニュースが流れています。

 これは、要するに人件費を節約すること、つまり短期の経済的効率を考えて、工場の海外移転をした結果、異常気象の影響で大きな経済的損失をこうむったということです。

 気候変動・異常気象のことを計算に入れない損得計算は、実は中長期的に見ると経済的合理性をもたないということの明らかな実例だ、と筆者には思われます。

 言い方を変えれば、地球全体の近未来を計算に入れると、エコロジカルな持続性を無視した企業活動は――だけでなく社会活動全般も――持続不可能だということです。

 持続可能な国づくりの会の『理念とビジョン』で、次のように述べました。

 「重要なポイントは、経済そのものの点から見ても、生態系の劣化(今回は記録的豪雨)は企業の生産条件の劣化(工場の水浸し)を招き、経済活動を持続不可能にしていく(操業停止)ということです。環境とトレード・オフの関係にあるような経済システムをそのままにしておけば、やがてその経済システムそのものも機能しなくなることは、シミュレーションをすれば火を見るよりも明らかだというべきでしょう。」(18頁)

 今回の出来事は、そうした中長期的傾向の一つの現われにすぎないと思われます。

 もし、経済人や政治家や市民が、本格的な取り組みをしないままでいるならば――きわめて残念ながらしないままだと思われます――危機はまちがいなくさらに進行・深刻化する、とシミュレーションされます。


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おすすめの本:『自分と子どもを放射能から守るには』

2011年10月23日 | 原発と放射能


 3月の原発事故の後、しばらく集中的に原発と放射能に関する本ばかり読んでいました。

 数十冊読むと、問題のポイントが見えてきて、確信のもてる判断ができるようになったと思いましたので、筆者を信頼してくださる知り合いやブログ読者にシェアするための記事をある程度書きましたが、代表的には故高木仁三郎氏や小出裕章氏などの筆者が信頼できると思う原子力発電の専門家がおられるので、そういう方々のことを紹介したら、後は素人の筆者がこれ以上書く必要はないだろうと思って、中断していました。

 しかし、「放射能は低線量でも被曝、特に内部被爆は非常に危険だと思う」(その理由については関連ブログ記事参照)という筆者の判断を聞いて、「では、どうしたらいいのでしょうか」という深刻な質問・相談を受けるようになり、筆者の知りえたかぎりで信用できると思われる情報や筆者自身の判断をさらにお伝えしたほうがいいかな、と思いかえすようになりました。

 まず、端的に言うと、可能なら海外へ、できなければ国内でもなるべく西へ移住したほうがいいと思っています(筆者の長女一家は頑張って茨城から四国へ引っ越しました)。

 しかし、引っ越しできる人はともかく、いろいろな事情や理由があって引っ越しできない、しない人間はどうすればいいのか、という大問題が残ります。

 筆者は、文化・言論も含め東京一極集中型になっている日本で、言論活動をしていくには残念ながら首都圏を離れると非常に不利になると考え、また50歳以上は放射線の影響を受けにくくなるという情報もあるので、この際あえて踏みとどまるという感じで、今のところ引っ越しをしないでいます(かなり真剣に検討したこともあるのですが)。

 そうしたなかで、内部被曝をできるだけ避けるにはまず食べ物に注意するしかないだろうと考え、妻がいろいろ苦心をしてくれています。

 具体的にはどういう注意をすればいいのかについて、非常にいいヒントになっているのが、ウラジミール・バベンコ『自分と子どもを放射能から守るには』(世界文化社)です。

 著者は、チェルノブイリ事故の後のベラルーシで放射能汚染の問題に取り組んできた民間の研究機関・ベルラド放射能安全研究所の副所長です。

 本のカバーの広告文に「本書は、放射能の降った自分たちの大地で、家族を守り、生きてゆくために、自分でどうすればいよいのかを伝えてくれます」とありますが、読んでまさにそのとおりの本だと感じました。

 どういう食べ物を選び、どう料理したらいいのか、それが多くの市民の知りたかったことですが、この本にはわかりやすく簡潔にその答えがあります。

 チェルノブイリ事故への対応から生まれたベラルーシ向けの本ですが、京大の原子炉実験所の助教で小出氏の同僚である今中哲二氏の日本の状況へのコメントも含まれていて、日本の現状に対しても基本的に当てはまり、とても参考になります。

 原発についてまず一冊だけなら小出裕章『原発のウソ』(扶桑社新書)、もう一冊といわれたら、高木仁三郎『原子力神話からの解放――日本を滅ぼす九つの呪縛』(講談社α文庫)とご推薦してきましたが、放射能への日常的・具体的対策について一冊だけ、といわれたら、ためらわずこの本をお勧めしたいと思います。




自分と子どもを放射能から守るには(日本語版特別編集)
ウラジーミル・バベンコ,ベラルーシ・ベルラド放射能安全研究所
世界文化社



原発のウソ (扶桑社新書)
小出 裕章
扶桑社



原子力神話からの解放 -日本を滅ぼす九つの呪縛 (講談社プラスアルファ文庫)
高木 仁三郎
講談社



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若者の心にヒューマニズム復活の兆し?

2011年10月21日 | 心の教育

 昨日、O大学で、「日本人の精神的崩壊の三段階」の第三段階のところを講義しました。

 60年代末の大学闘争(の良質な部分)は、人間の解放・人権の尊重という「理想」を求めたヒューマニズムの運動だった。ヒューマニズムというのは、単なる思想や知識ではなく、フランス革命のことを考えるとよくわかるようにきわめて情熱的な行動を伴うものだ。

 しかし、良質な部分も含めてすべて、大学の責任者たち(教授会や学長)が大学キャンパスへの機動隊導入によって鎮圧-排除してしまった。

 もし、大学がほんとうに「真理の府」なのならば、教官は学生に、どんなに手間暇かかっても根気強く、理性・論理・真理の言葉によって、暴力的な運動の無意味さをわからせ、しかし学生の社会への批判・抗議の正しい部分を共有しながら、まず大学そして社会そのものの変革への共闘を誘うことが望ましかったと思う。

 「ペンは剣よりも強し」というのは人間の理性と言論を信じるヒューマニズムの原点ともいうべき言葉だが、機動隊による学生の排除は、大学教師たちが本音で言えば「剣はペンよりも強し」と信じていることをあからさまにしてしまったのではないか。そこで、ペン・言論・理性の力を信じる真理の府・理想追求の場としての大学は実質的には崩壊したと言ってもいいと思う。

 そして大学闘争の終わった後の日本は、高度経済成長で、そこでは「理想や社会の変革なんてめんどうなことを考えなくても、みんなでもうけて、もうけた金を分け合って楽しく暮らせばいいじゃないか」といった雰囲気が生まれ、「理想」は死んでしまった。つまり、表面はネアカ・ルンルン、心の中はシラケということになったのではないか。

 ヒューマニズム-理想が死んだら、シラケる、そしてもっとつきつめるとニヒリズムになるのは当然ではないか。

という話をした後で、「ヒューマニズムは、人類の福祉・幸福を追求するもので、単なる個人の幸せを求めるものではありません。ところで、このクラスのなかに、『自分の人生を――自分の楽しみのためではなく――人類の幸福に貢献するために奉げたい』と本気で思っている人はいますか?(いないと思うけど)」という直球の聞き取りをしました。

 そうすると、なんと驚いたことに、そしてうれしいことに、40人あまりのクラスの中で4人も手が上がりました。約10%です。

 この10年あまり大学で教えてきた筆者の経験の範囲では、これはほとんどなかった直球の反応です。日本と世界のきびしい状況のなかで、若者たちが目覚め・変わりはじめているということでしょうか。

 もしそうだとしたら、きわめてうれしいニュースです。

 といっても、いまどきはすぐに折れる若者たちも多いので、糠喜びはしないほうがいいかなと思いつつも、ひさびさにうれしいニュースなので、素直に受け取ってシェアさせていただくことにしました。


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新刊紹介:『チェルノブイリの今 フクシマへの教訓』

2011年10月03日 | 原発と放射能

 サングラハ教育・心理研究所、持続可能な国づくり会の会員でジャーナリストの高世仁氏のチェルノブイリ取材が一部がユーチューブで公開されていましたが、今回、60分のDVDが出版されました。

 あまり見たくないが見なければならない現実だと思います。ぜひ、ご覧ください。







DVD BOOK チェルノブイリの今 ~フクシマへの教訓 (旬報社DVD BOOK)
クリエーター情報なし
旬報社


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