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鋭い!その通り『堕落論』by坂口安吾

2019年01月02日 | 小説レビュー
『堕落論』by坂口安吾

単に、人生を描くためなら、地球に表紙をかぶせるのが一番正しい―誰もが無頼派と呼んで怪しまぬ安吾は、誰よりも冷徹に時代をねめつけ、誰よりも自由に歴史を嗤い、そして誰よりも言葉について文学について疑い続けた作家だった。
どうしても書かねばならぬことを、ただその必要にのみ応じて書きつくすという強靱な意志の軌跡を、新たな視点と詳細な年譜によって辿る決定版評論集。「BOOK」データベースより


これは深いというか真理でしょう!
「坂口安吾はいいよ」と薦められて読みましたが、戦中戦後の日本、日本人について、独自の視点で書き連ねた、まぁ現代でいうならば、エッセイのようなものです。


以下『青空文庫」に堕落論の転載文が出ていたので、抽出すると、


~徳川幕府の思想は四十七士を殺すことによって永遠の義士たらしめようとしたのだが、四十七名の堕落のみは防ぎ得たにしたところで、人間自体が常に義士から凡俗へ又地獄へ転落しつづけていることを防ぎうるよしもない。

節婦は二夫に見えず、忠臣は二君に仕えず、と規約を制定してみても人間の転落は防ぎ得ず、よしんば処女を刺し殺してその純潔を保たしめることに成功しても、堕落の平凡な跫音あしおと、ただ打ちよせる波のようなその当然な跫音に気づくとき、人為の卑小さ、人為によって保ち得た処女の純潔の卑小さなどは泡沫の如き虚しい幻像にすぎないことを見出さずにいられない。

特攻隊の勇士はただ幻影であるにすぎず、人間の歴史は闇屋となるところから始まるのではないのか。
未亡人が使徒たることも幻影にすぎず、新たな面影を宿すところから人間の歴史が始まるのではないのか。
そして或は天皇もただ幻影であるにすぎず、ただの人間になるところから真実の天皇の歴史が始まるのかも知れない。

歴史という生き物の巨大さと同様に人間自体も驚くほど巨大だ。
生きるという事は実に唯一の不思議である。
六十七十の将軍達が切腹もせず轡くつわを並べて法廷にひかれるなどとは終戦によって発見された壮観な人間図であり、日本は負け、そして武士道は亡びたが、堕落という真実の母胎によって始めて人間が誕生したのだ。

生きよ堕ちよ、その正当な手順の外に、真に人間を救い得る便利な近道が有りうるだろうか。

戦争は終った。特攻隊の勇士はすでに闇屋となり、未亡人はすでに新たな面影によって胸をふくらませているではないか。
人間は変りはしない。ただ人間へ戻ってきたのだ。

人間は堕落する。義士も聖女も堕落する。それを防ぐことはできないし、防ぐことによって人を救うことはできない。
人間は生き、人間は堕ちる。そのこと以外の中に人間を救う便利な近道はない。

戦争に負けたから堕ちるのではないのだ。人間だから堕ちるのであり、生きているから堕ちるだけだ。
だが人間は永遠に堕ちぬくことはできないだろう。なぜなら人間の心は苦難に対して鋼鉄の如くでは有り得ない。

人間は可憐であり脆弱であり、それ故愚かなものであるが、堕ちぬくためには弱すぎる。
人間は結局処女を刺殺せずにはいられず、武士道をあみださずにはいられず、天皇を担ぎださずにはいられなくなるであろう。
だが他人の処女でなしに自分自身の処女を刺殺し、自分自身の武士道、自分自身の天皇をあみだすためには、人は正しく堕ちる道を堕ちきることが必要なのだ。

そして人の如くに日本も亦堕ちることが必要であろう。
堕ちる道を堕ちきることによって、自分自身を発見し、救わなければならない。政治による救いなどは上皮だけの愚にもつかない物である。



しかしまぁ、随分バッサリと斬ってくれますよね!痛快、爽快ですよ。

僕の大好きな『町田町蔵氏』に聞いたことはありませんが、たぶん町田氏は、坂口安吾の影響を受けてると思われますね

坂口安吾の考え方って、非常にパンクロック的でアナーキーなんですよね。


本来、日本人は、とても弱くダメなものなので、『武士道』精神や、『惻隠の情』、『倫理観』のようなものを作り上げて、それを遂行することこそが美しいとされてきました。

しかし、自分はダメな人間であることを認めて、一度全てを捨て去って、堕落(淪落)してみれば、新たな価値観や人生が見えてくるものだと言っています。

もちろん行き過ぎはダメですが、言葉や仕草で回りくどく「わかってくれるでしょう?」的なものより、本来の気持ちに正直に真っすぐに生きていけば、案外生きやすい世の中になるかも知れませんね。

また読みたい本ですし、収録されている『恋愛論』や『青春論』も非常に興味深く「わかるわかる」と同感するものばかりで、とても戦中戦後のあたりに書かれたものとは思えません。

★★★3つです。


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