素浪人旅日記

2009年3月31日に35年の教師生活を終え、無職の身となって歩む毎日の中で、心に浮かぶさまざまなことを綴っていきたい。

平田オリザ+松井孝治『総理の原稿~新しい政治の言葉を模索した266日~』読み終わる

2011年05月17日 | 日記
 鳩山由紀夫という政治家は好きになれない。しかし、戦後初の政権交代という大きな政治の流れが転換する中で、内閣官房副長官と内閣官房参与として総理演説の作成に関わった二人の対談をまとめた本には興味を持った。政治の舞台裏で官邸の情報発信に取り組んだ人物が、まだ生々しい記憶の残る早い時期に裏側を見せるということは今までになかった。必見の価値があると思った。それと、出版社が岩波であったことも微妙に影響している。岩波出版は出版界の老舗中の老舗である。若い時は岩波新書を始め岩波の本を読むということが大人の世界に入ったという自負心を抱かせたものだった。昨今は岩波の本とはとんと無縁になっていた。新聞の紹介で見て、こんな本をつくったんや!という新鮮な驚きがあった。

 従来からの総理大臣演説と二人が目指した総理大臣演説の違いが対談を通じてよくわかった。端的に言えば、「普通の人たちが仕事をしながらラジオで総理の演説を聞いた時に耳から入ってわかるようなものにする。」ということ。むずかしい政策論議でも“聞いてわかる”言葉で話すことをもっと追求する必要があるという思いからつくられたのである。

 資料として、民主党代表としての勝利宣言『国民のさらなる勝利に向けて』・新内閣の『基本方針』・国会での『所信表明演説』と『施政方針演説』・『国際交流会議“アジアの未来”総理大臣スピーチ』の全文が付けられているが、対談とあわせて読むとよくわかる。そして、声に出して読んでみると、実によく出来ているということが実感できる。自然に強弱のリズムがとれて実に読みやすいし、内容もわかりやすい。

 スケールは違うが、教育現場である学校も閉鎖的な場ではなく、情報発信をして開かれた場にしなければいけない。という点では相通じるものがある。広報活動の重要性については早くから気づき、実践工夫してきた自負がある。しかし、二人の対談を読んで、もっともっと研鑽して出来たことがあったなという思いを持った。“コミュニケーションデザイン・センター”という発想を教育現場に生かせるならば何かが変わるという予感がする。今となっては夢物語だが。

 私が教育現場に居た時とても大切にしていた言葉が、総理演説のキーフレーズになっていた。“『居場所』と『出番』のある社会の創出”社会を学校に書き換え、常にこのことを追求していけば生き生きとした学校になっていくように思える。

 また、『身体性のある言葉』の大切さを二人が強調されていたことにも共感できた。自分の思いを伝えるうえでは欠かすことのできないことだと思ってきた。

 政治に対して無関心になりつつある気持ちを少しだけ変えてくれた。

 
 
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