テニス フォア、バックともに両手打ちの選手の動画を見てみた

2022年07月29日 | テニス

 YouTubeでテニスの動画を見るのは楽しい。

 特にテレビなどではなかなか放送されない、ダブルス練習風景などが見られるのがうれしいのだ。

 最近ハマってみているのが、

 「フォアバックともに両手打ち」動画。

 テニスのフォアハンドといえば、ふつうは利き手で打つものだが、ごくまれに、フォアハンドも両手で打つというレアなケースもある。

 子供のころ、ラケットが重くて両サイド両手打ちでやってたら、それがなじみになって、大人になってもそのまま、というケースが多いよう。

 たいていが、スクールや部活などで指導者から片手に移行させられるものだが、変えないほうがいいと判断されたか、こだわりがあったか、そのまま貫いて行く人も少数ながらいるのだ。

 比較的多いのが女子の選手でモニカ・セレスは元ナンバーワンで、多くのグランドスラムのタイトルを獲得し、マリオン・バルトリウィンブルドンで優勝している。

 日本だと森上亜希子選手や森田あゆみ選手、中村藍子選手。

 ダブルスの名手である青山修子選手(ウィンブルドンベスト4)など、けっこういるもので、テニス番組でおなじみの季葉さんもとか、このあたりはアジア人の小柄な体格の問題もあるのかもしれない。

 ごくまれにだが、男子にもいるもので、たとえば私がテニスに興味を持ち始めた1995年USオープンベスト8に入り、ジャパンオープンでファイナリストにもなったバイロン・ブラック

 ジンバブエのエースであるバイロンは、初めて見た両サイド両手打ち選手で、試合を見ておどろいたもの。

 4回戦で、前年のファイナリストであるミヒャエルシュティヒを破っての快挙だから、この結果は決してまぐれではないのだ。

 この手のタイプではずせないのは、やはりファブリス・サントロで、

 「フレンチ・マジシャン

 と呼ばれるそのテクニカルなテニスは、マラト・サフィンなど多くの強豪を苦しめた

 日本人選手ではずせないのとなると金子英樹選手で、1995年全日本チャンピオン

 決勝戦ではパワーに頼らないクレバーなテニスで、大学テニスのスターだった宮地弘太郎選手を翻弄した

 ネット動画では、まさにその金子選手がユーチューバーとして人気で、その飄々とした語り口が楽しいうえに、プレーの参考にもなる。

 やはりおもしろいのは両手打ち講座で、「順手逆手」問題とか、「両手打ちボレー」「両手打ちスライス」ってどうなのとか、興味津々である。

 くらべてみると、同じ両手打ちでも、女子はそのダブルハンドのパワーで強打を売りにする選手が多いのに、男子の方はむしろ技巧派になっているのがおもしろい。

 あとはジャン=マイケル・ギャンビルとかもいたけど、最近のテニス界では、あんまり聞かないなあ。

 やっぱ両手打ちは可動域制限されるから、繊細なショットとか打ちにくいし、プレーに幅が出ないのかも。

 金子選手自身も、

 

 「スライスは片手にしたほうがいい」

 

 って言ってたし(→こちらとか→こちらとか)、でもファブやバイロンはいろんなショットを打ち分けてダブルスもうまいから、一概にそうも言い切れないかな。

 

 

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「思い出王手」ぽろぽろ 神谷広志vs増田康宏 2017年 第76期C級2組順位戦

2022年07月26日 | 将棋・ポカ ウッカリ トン死

 「投げっぷりのいい」棋士というのがいる。

 現代では敗勢の将棋でも、あきらめずにがんばるのは、まあ普通というか当たり前のことである。

 これが一昔前になると、負けを自分で読み切ってしまうと、そこでアッサリ投げたり、あるいは「綺麗な終局図」を大事にして、いわゆるクソねばり的な指し方を良しとしない棋士も多かった。

 代表的なのは滝誠一郎七段島朗九段

 真部一男九段のように、なんと奨励会三段のころ、四段昇段をかけた一局で早投げを披露したツワモノもいる。

 

 

 

 1971年の東西決戦(当時は年2回、三段リーグの関東優勝者と関西優勝者の勝った方が四段になった)森安正幸三段-真部一男三段戦の投了図。

 たしかに後手の森安が有利だが、四段昇段がかかった将棋をこの局面で投げるのは、おそらく将棋史全体を通しても真部だけだろう。

 

 その系譜に、もうひとり加わるのが神谷広志八段で、前回のまだねばれたのに投げてしまった佐藤康光戦に続いて「そこで投げるの?」な一戦を。

 

 2017年、第76期C級2組順位戦

 神谷広志八段と、増田康宏五段の千日手指し直し局。

 ここまで7勝2敗で、自力昇級の権利を持っている増田にとって絶対に負けられない一番だが、神谷も降級点の可能性を残しており、やはり落とすわけにはいかない。

 そんな将棋の方はどちらが勝つかわからない熱戦になり、むかえた最終盤。

 

 

 

 

 増田が▲53飛と打って、後手玉に必至をかけたところ。

 受けはないから、あとは先手玉が詰むや詰まざるやだが、まずはどこから王手をかけるべきか……。

 というのを、ここから必死に読むのかと思いきや、なんとここで神谷は投げてしまったのだ。

 え? 投了

 対戦相手の増田もビックリしたらしいが、さもあろう。

 先手玉には△78銀、▲同玉、△56角とか、△69飛成と切る筋とか、危なそうな手順はいくらでもある。

 格調が高いといえばそうかもしれないし、そりゃ読み切ってしまったんなら仕方がないけど、1分将棋はなにがあるかわからないし、とりあえず王手しそうなところではないか。

 それを投了。

 なんかもったいないなーと、口をとがらせたくなるが、実はそれどころではなかったことを、神谷は終局後に聞かされて愕然

 なんとこの投了図、増田玉には詰みがあったのだ。

 手順としては、△69飛成、▲同玉、△78銀、▲同玉、△67金、▲88玉、△79角、▲98玉、△96香と追う。

 

 

 

 ここで先手に飛車という高い合駒しかないのが泣き所で、どれを使っても△同香成、▲同桂に△88金から簡単に詰む。

 さほどむずかしくないように見えるこの詰みを、両者ともに見えていなかったそうだが、増田は

 


 「詰まされても仕方ないと思っていた」


 

 とコメントしていたから、そりゃおどろくだろうというハナシだ。

 ちなみに増田の▲53飛が大悪手で、ここでは▲45角と打つのが攻防にピッタリで明快。

 

 

 また、先に▲82角と王手して、なにか合駒を使わせて自玉の詰みを消してから▲53飛でも、問題なく先手が勝ちだった。

 深夜2時。疲れと秒読みで「なんでもあり」になった、順位戦ならではのハプニング。

 これを負けていたら増田は、順位わずか2枚差の石井健太郎五段に逆転されて、C2に足止めされていたのだから、とんでもなく大きな幸運となった。

 

 (脇謙二の「勝ってるのに投了」編に続く)

 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

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アミール・カーン主演『チェイス!』は浪花節な特撮『プレステージ』

2022年07月23日 | 映画

 映画『チェイス!』を観る。

 名作『きっと、うまくいく』で有名な大スター、アミール・カーンを主演に据えたインド製アクション大作。

 シカゴのアコギな銀行に、家業のサーカス団をつぶされたどころか、そのせいで目の前で父親が自殺するという悲劇に直面するサーヒル少年。

 時は流れ、大人になったサーヒルはインド大サーカスを率いるスターに成長するが、その裏では復讐のため、自分たちをどん底に追いやった銀行に忍びこみ、金庫破りに血道をあげる。
 
 犯人に翻弄されるシカゴ警察は、現場に残された恣意行為的な証拠から、インド系の犯行と推測。

 ムンバイからジャイ刑事とアリー刑事に応援を頼むが、大胆不敵なサーヒルは自ら彼らの前にあらわれて……。

 開幕からここまでテンポよく進み、インド映画らしいノリの良い娯楽作な雰囲気が芬々。

 その間、アミール・カーンの大アクションや、ヒロインの華麗で激しいダンスあり、ジャイとアリーのゆかいな掛け合い(この映画の原題は『DHOOM3』で、この実はこの2人が主役のシリーズ第3作だそう)ありで、大いに期待が高まる。

 ストーリーとしては、プロのマジシャンで、アクロバットの達人であるサーヒルと、いかにもデコボココンビな刑事とのかけ引きや、サーヒルたちの「家族の」などが主な流れになるわけだが、やはり楽しいのはダンスアクション

 特にバイクを使ったカーチェイスは迫力満点なうえに、そのギミックが少年マンガ的なバカ発想(超ほめ言葉です)で大爆笑しながらもアツい!

 ピンチになると「ガチャ、ギー、ガチャ!」って変形しますねんで! これで燃えなきゃ、男の子やない!

 いやー、マジでどこの国の宇宙刑事やねん、と。

 スローモーション多用の演出も、そのあか抜けなさが、かえってともいえる。特撮魂やねえ。

 インド映画といえばのダンスも、もちろんのこと健在。

 オープニングタイトルのナンバーはタップ好きな私には応えられないし、オーディションシーンのカトリーナ・カイフによる大ダンスも妖艶ですばらしい。

 インド美人はいいなあ。

 あと、「人間消失」のトリックをテーマにした作品としては、ネタ的にモロ、クリストファー・ノーランの『プレステージ』と被るんだけど、そのトリックに対する接し方の違いを、くらべるのもおもしろい。

 「ノックスの十戒」を持ち出すまでもなく、もう、

 

 「このトリックにこの仕掛けを、なんのてらいもなく出してOK」

 

 という時代なんですね。

 むしろそれに対して演者が「どう対峙するか」がテーマになってくる。「アンフェア」とか、もう野暮なんだな、きっと。

 『プレステージ』は『空手バカ一代』。『チェイス!』はたぶん、われわれにも共感できる、もうちょっと浪花節なテイスト。

 全体的に見て面白い作品で、おススメなんですが、ひとつ気になったのが、最初に出てくる女刑事が全然活躍しないこと。

 わりと大事な役どころのように見えて、途中いないも同然だし、アリー刑事のツッコミ役にもなってなくて、どういうことだったんでしょう。

 うーん、最初は目立つ役だったけど、アミール・カーンともめて、途中から干されたのかな(笑)。

 

 

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投了は最大の悪手 神谷広志vs佐藤康光 1990年 第4期竜王戦

2022年07月20日 | 将棋・好手 妙手

 こないだのアべマトーナメントは、実におもしろかった。

 渡辺明名人・棋王が、近藤誠也七段と、渡辺和史五段を率いる
 
 「チームマンモス」
 
 それと予選を勝ち上がってきた、折田翔吾四段黒田尭之五段冨田誠也四段
 
 「エントリーチーム」
 
 との一戦だ。

 私は関西人なので、一応は「エントリーチーム」を応援していたのだが、正直、苦しいよなーとは思っていた。 
 
 ただでさえ強い渡辺明にくわえて、そこに「Aクラス」「エース」と太鼓判を押された近藤誠也。

 さらにはC1昇級20連勝で「連勝賞」獲得の渡辺和史が相手となれば、苦戦は免れないのかと思えば、あにはからんや。

 結果はおよばなかったものの、3人とも、強敵相手にねばり強さを発揮し、将棋はどれも熱戦ばかり。

 特に、第2局で渡辺明相手に、単騎の王様でマシンガンの弾をかわしまくる、サーカスのような身のこなしから、あわやという局面まで持って行った冨田の戦いぶりには燃えた。

 いやあ、うまいのはトークだけじゃないと、大いに株を上げたもので、あの辛口な渡辺や、「実は生意気」と本人も認める近藤誠也がそろって、

 


 「独特のねばり強さがある」

 「負かしにくい」

 「強いじゃん、エントリーチーム」

 


 と舌を巻くほど。

 黒田快進撃や、本来ならポイントゲッターなはずの近藤誠也の不調も手伝って、
 
 「これ、来たんとちゃう?」
 
 期待も高まったが、最後は渡辺明に貫録を見せられた形で引き離された。

 いやー惜しかったなー。

 でも、この健闘には拍手、拍手。

 次もキツイ相手だけど、意外なことに、まだあったまってない印象の藤井聡太五冠に、やはり前回までの鬼神のごとき強さが、やや鳴りを潜めている森内俊之九段とあっては、充分にチャンスはあるのでは?

 こりゃ、熱戦の期待大ですわ。
  
 こういう将棋を見せられると、今さらながら、
 
 「最後まで、あきらめたらダメなんだな」
 
 という気にさせられるが、これが実際に指している方からすると、勝ち目がなさそうな局面でもガッツでがんばるというのは、なかなかしんどいもの。
 
 ましてや、自分の負けを自らが「読み切って」しまった場合、そのまま投げてしまう気持ちもわかる。
 
 ところが、中にはそれが「え?」ということもあって、今回はそう言う「投げたらアカン」な将棋を。
 
 
 1990年竜王戦
 
 神谷広志六段と、佐藤康光五段の一戦。
 
 3組昇級者決定戦。いわゆる「裏街道」の決勝戦で、勝った方が2組に昇るという大きな一番は、相矢倉から激しいたたき合いになり、むかえたこの局面。


 
 
 
 
 
 後手が△83香と反撃したところだが、次の手が、ぜひおぼえておきたい実戦の手筋である。
 
 

 

 


 
 
 
 ▲71銀が、後手の攻め駒を責める手。
 
 飛車に弱い形をしている後手は、△92飛と逃げるしかないが、これで8筋の攻めは大幅に緩和されている。
 
 △92飛▲62銀打の追撃に神谷も△86香と取って、▲同歩、△87歩、▲同玉、△85歩の猛攻。


 
 


 
 これもなかかなの脅威だが、8筋の大砲が撤去されたことで、ここで手抜いて▲53銀成と攻めるターンが来るのが、メチャクチャに大きい。
 
 以下、佐藤のパンチが入った形で、この図。


 
 


 
 
 
 最後、神谷は△86銀と王手して、▲88玉と逃げたところで投了
 
 後手玉は▲43金打と、▲35銀からの両方の詰みをいっぺんには受からないため、指す手がないのだ。
 
 ……と思われたが、なんとここで、いい手があった。
 
 
 
 
 
 
 
 △43桂と打つのが、▲43金打▲35銀同時に防ぐ絶妙の受けで、まだ熱戦は続いていたのだ!
 
 神谷と言えば、美学派にありがちな「投げっぷりがいい」棋士で知られるが、ここはそれが裏目に出てしまった。
 
 ましてや、神谷はここでまだ15分、時間を残していた。あきらめず、盤上に喰いつくべきだったのだ。
 
 佐藤の方は、すでに1分将棋だったのだから、なにが起こっていたか、わからないではないか。
 
 もっともこういう、「あきらめさせる」力もまた、強い人の特徴なのである。
 
 これが神谷も、相手が佐藤康光でなかったら、持てる15分をフルに使って、必死に手をひねり出そうとしただろう。
 
 そこを
 

 「佐藤君が読み切ってるんだったら……」
 

 相手を信用してしまったことが罠だったのだ。
 
 フィッシャールールの将棋に、ちょっとビックリな大逆転がまま見られるのは、少ない時間とともに、
 
 
 「仲間がいるから、投げるに投げられない」
 
 
 ということが、このような「美学的」淡白を、ゆるしてくれないせいでもあるのだ。
 
 まさに、かつての名投手が言ったような「投げたらアカン」な一戦だった。

 

 (神谷の早投げ現代編に続く)

 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)
 

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施川ユウキ『ベルナール嬢曰く』に出てきた本、何冊読んだ? 2巻目

2022年07月17日 | 

 施川ユウキ『バーナード嬢曰く』が好きである。

 ということで、

 「このマンガに出てきた本を何冊読んだか数えてみよう」
 
 との企画。前回の1巻に続いて、今回は2巻です。

 


 ■ドグラ・マグラ』夢野久作(未読)


 ド嬢言う通り、読むことに「アピール」の要素が入る作品は、なんとなく手に取りにくい。自意識過剰

 

 ■白鯨』メルヴィル(未読)


 読んだフリをしたければ、池澤夏樹世界文学を読みほどく』の解説がオススメ。

 


 ■老人と海』ヘミングウェイ(未読)


 ヘミングウェイとか三島由紀夫とか石原慎太郎とか、「おまえ本当は軟弱なんだろ系マッチョ」は苦手。

 そういえば、レイブラッドベリがヘミングウェイをリスペクトする小説を書いたら、萩尾望都さんが巻末の解説ですごい嫌がってたなあ。

 

 ■バラークシの記憶』マイクル・コーニイ(未読)

 

 『ハローサマー・グッドバイ』の続編。積読。

 

 ■Bloodline』フェリックス・フランシス(未読)

 

 パパのディックフランシスを長いこと読んでなかったけど、こないだ『興奮』読んだら超おもしろかった。

 

 ■ダヴィンチ・コード』ダン・ブラウン(未読)


 「脚本構成イマイチ練れてないけど、エンタメとしてはそこそこ

 というのは、一番燃えない評価であるなあ。

 


 ■サラダ記念日』俵万智(未読)


 読んだフリをしたければ、斎藤美奈子さんの『文壇アイドル論』がオススメ。

 


 ■世界の終りとハードボイルドワンダーランド』村上春樹(未読)

 
 春樹は全然興味がない。


 

 ■ノルウェイの森』村上春樹(読了


 『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』とこれはおもしろかった。

 ただし、主人公が地図マニアのことをコケにしながら女の子に話すところで、本を放り投げそうに。

 陰キャを笑って、女を口説く。嫌なヤツだ。

 

 ■海辺のカフカ』村上春樹(未読)

 
 内田樹先生をはじめ「村上春樹の魅力」を語る本でも、全然その良さが伝わってこない。なんでだろう?

 

 ■グレート・ギャツビイ』スコット・フィッツジェラルド(未読)


 昔、読もうとして挫折した。

 


 ■キャッチャー・イン・ザ・ライ』サリンジャー(未読)

 
 昔、読もうとして挫折した。

 


 ■ロング・グッドバイ』レイモンド・チャンドラー(未読)


 ハードボイルドはハメットの方が好き。

 

 ■ティファニーで朝食を』カポーティ(読了


 おもしろかった。映画版のオープニングは何度見てもマヌケだ。

 


 ■一杯のかけそば』栗良平(未読)


 うさんくさかったなあ。

 ド嬢の感想は100%正しいけど、当時それを言ったら冷血人間扱いでした。

 泣く子と「お涙頂戴」には勝てない。

 


 ■ハイペリオン』ダン・シモンズ(未読)


 長いので未読

 


 ■ブラインドサイト』ピーター・ワッツ(未読)


 未読。

 

 ■SFが読みたい! 2014年度版』(読了)

 いつもお世話になってます。

 


 ■11/22/63』スティーブン・キング(未読)


 長い小説は、長いというだけで手が伸びなかった。

 それを打破できたのは、藤田宜永鋼鉄の騎士』と船戸与一砂のクロニクル』から。

 「一気読み必至」な極上エンタメを一回読んだら、長編苦手意識は払拭できると思う。

 

 ■』野崎まど(未読)

 野崎まどは、2冊ほど積読。

 

 ■色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』村上春樹(未読)


 なんてしゃらくさいタイトルだ。大御所じゃなきゃ、ゆるされないぞ!

 

 ■春と修羅』『雨ニモマケズ』宮沢賢治(未読)

 

 アンデルセンとこの人の人生を知って、「リリカル」≒「ボンクラ」という方程式が確立された。

 


 ■きまぐれロボット』星新一(読了


 10代のころ山ほど読んだ。最相葉月さんの伝記『星新一 一〇〇一話をつくった人』も超オススメ。

 


 ■虚胸の供物』中井英夫(未読)


 このあたりの古典は読まなきゃなあ。青空文庫もあるし、老後の楽しみかな。

 


 ■黒死館殺人事件』小栗虫太郎(未読)


 同上。

 


 ■シャーロック・ホームズの宇宙戦争』マンリー&ウェイド・ウェルマン(未読)


 『ベネディクト・カンバーバッチのシャーロックでスピルバーグの宇宙戦争』のコラボで映画化してほしい。ホームズには巨大化して戦ってほしいね。

 

 ■少女地獄』夢野久作(未読)

 

 『ドグラ・マグラ』と同じ理由で手が出ず。


 ■黙示録3174年』ウォルター・M・ミラー・ジュニア(未読)


 未読です。

 

 ■銀河ヒッチハイク・ガイド』ダグラス・アダムス(読了


 「地上げで地球滅亡」というオープニングにシビれる。

 

 ■松岡正剛千夜千冊』松岡正剛(未読)


 すいません。著者のこと知りませんでした。

 

 ■星の王子さま』サン・テグジュペリ(読了


 語るのが少々めんどくさい作品。なぜなら、この小説を愛する人は「全員神林しおり」だから。

 ちなみに、リリカルなイメージのあるサン・テグジュペリだが、『人間の土地』とか読むと、この人の本質はそこではなく

 「硬質な文体で説教くさい人」。

 宮崎駿が好きというのも理解できる。同じタイプだから。

 


 ■シャーロック・ホームズの冒険』コナン・ドイル(読了


 ホームズはバカミスだよね。大好き。

 

 ■注釈版 シャーロック・ホームズ全集』小池滋(未読)


 小池滋さんは『ロンドン』もおすすめ。

 

 ■オシムの言葉』木村元彦(読了


 ユーゴ紛争については、ややこしいところも多いけど、これと高木徹戦争広告代理店』から入るといいと思う。

 

 ■屍者の帝国』伊藤計劃&円城塔(未読)


 伊藤計劃はいいけど、円城塔は苦手。『ゴジラSP』は大傑作。

 


 ■深夜特急』沢木耕太郎(読了


 読書人生オールタイムベスト候補。

 沢木さんって、「カッコイイ」と「痛い」の境界線上に立っていて、「カッコイイ」側に振れている人という印象。

 多くの「沢木耕太郎」あこがれな作家やライターは「痛い」に振れている人が散見されて、読んでてトホホな気分になることも。

 あと学生のころ宴会芸で


 
 「深夜特急を桂ざこば風に朗読する」

 

 というのをやったら、沢木ファンであろう女学生に、

 

 「アナタが沢木耕太郎を嫌いなことがよくわかりました。才能に嫉妬してるんですか?」

 

 とか言われて、

 

 「ドアホ! んなわけないやろ! オレは沢木作品全部読んでるどころか、『深夜特急』は50回以上読み直してるんや! この芸も暗唱できるくらい読んでるからできるわけで、オドレみたいな文学かぶれの小娘に、そんなん言われとうないわ!」

 

 ……とは、もちろん言いませんでした。エライぞ、男の子。

 

 ■失われた時を求めて』マルセル・プルースト(未読)

 

 読んでるわけがない。


 ■さまぁ~ずの悲しいダジャレ』さまぁ~ず(未読)


 この回のオチはまったく感動的だ。神林の言う通り!

 

 ■華氏451度』レイ・ブラッドベリ(読了)


 おもしろいけど、「本ってステキ!」系作品は苦手です。

 

 ■WORLD WAR Z』マックス・ブルックス(未読)

 映画はバカバカしくて好き。


 ■高い城の男』フィリップ・K・ディック(読了


 ディックは得意な方ではないけど、これはおもしろかった。

 

 ■ヴァリス』フィリップ・K・ディック(読了


 ディックがラリラリで書いたそうだけど、「気ちがいなのにおもしろい」という不思議な小説。

 

 ■虐殺機関』伊藤計劃(読了


 もっと生きていてほしかった……。


 ■WATCHMEN』アラン・ムーア(未読)


 アメコミは全然知らないなあ。


 ■ノーストリリア』コードウェイナー・スミス(未読)


 『新世紀エヴァンゲリオン』がブームのとき有名になった作家。読んでないけど。

 

 ■オルタード・カーボン』リチャード・モーガン(未読)


 全然知らない作家。不勉強ですね。

 


 ■冷血』トルーマン・カポーティ(未読)


 50ページくらいで挫折。評価の高い作品を読み切れなかったって、ものすごく言うのが恥ずかしいねえ。

 

 ■69 sixty nine』村上龍(未読)


 村上龍ファンの友人が多いんだけど、自分はそうでない。


 ■伝奇集』ボルヘス(読了


 ラテンアメリカ文学は大好きだけど、なぜかボルヘスだけはダメ


 ■容疑者Xの献身』東野圭吾(読了


 傑作だけど、ただでさえ根性の悪かった著者の性格が、直木賞受賞で拍車がかかった。


 ■モルグ街の殺人事件』ポー(読了


 ポーはミステリの祖であり、バカミスの祖でもあるという偉大な人。

 

 ■アクロイド殺し』アガサ・クリスティー(読了


 途中で犯人がわかって、すごくガッカリした作品。

 ミステリを読んで「犯人当て」をする人の気持ちがわからない。ビックリしたいじゃん。

 

 ■ラヴクラフト全集』ラヴクラフト(未読)


 学生のとき手に取って読みにくかったので、「いつか読まないとなー」と言ってるうちに今に至る。

 


 ■真昼の暗黒』アーサー・ケストラー(未読)

 未読。なんか、日本と因縁がある人らしい。 


 ■ムーン・パレス』ポール・オースター(未読)


 柴田元幸先生のファンだけど、意外と訳書は読んでない。アメリカ文学が苦手なのかな? ミステリは死ぬほど読んでるのにねえ。

 

 ■第四解剖室』スティーブン・キング(未読)


 キングは意外とハマらなかったが、『キャリー』読んで目覚めた。現在、読み直し中。

 

 ■ザ・ロード』コーマック・マッカーシー(読了


 世界の終りはやはり、悪いモヒカン改造バイクが出ないとねえ。小説自体はさすがの名作

 

 ■嫌われる勇気 自己啓発の源流〈アドラー〉の教え』(未読)


 アイリーンの教えだったら読みたいかも。
 

 ■異邦人』カミュ(未読)


 沢木耕太郎の影響で手に取ったが、20ページほどで挫折

 


 ■怪人二十面相』江戸川乱歩(読了


 乱歩チルドレンなので、そりゃもう読んでます。仏像に変装した小林少年萌えジュブナイル。

 

 ■孤島の鬼』江戸川乱歩(読了


 乱歩先生のエッセンスが詰まった大傑作。真犯人の壮大なる夢に戦慄するとともに爆笑

 

 ■ペスト』カミュ(未読)


 『異邦人』挫折組なので手を出さず。

 

 ■はつ恋』ツルゲーネフ(未読)


 そういや、ツルゲーネフって読んだことないなあ。

 

 ■ジーキル博士とハイド氏』スティーブンスン(未読)


 古典だから「読了したっぽい雰囲気」になってるよね。

 

 ■二十日鼠と人間』スタインベック(未読)


 なぜか妹が読んで、おもしろかったらしい。

 

 ■春琴抄』谷崎潤一郎(読了


 高校生のころ読んだ。先端恐怖症の人は注意。谷崎は『痴人の愛』がバカっぽくて好き。


 ■サロメ』オスカー・ワイルド(未読)


 高校生のとき読んだ記憶があるけど、読んでない気もする。どっちだろう。

 


 ■ハイ・ライズ』J・G・バラード(未読)


 ニューウェーブは読んでないけど、たぶん苦手。

 


 ■ファイト・クラブ』チャック・バラニューク(未読)

 
 映画版を熱く語る人は友人に多い。

 「肉体的な強さへのあこがれ」ってのが、全然自分にはないあな。

 

 ■カッシアの物語』アリー・コンディ(未読)


 未読。


 ■火刑法廷』ジョン・ディクスン・カー(読了


 高校生のころ読んで、メチャクチャおもしろかった。

 でも、その後長くカーを読まない時期が。翻訳のせいかな? 今は読みまくり。


 ■皇帝の嗅ぎ煙草入れ』ジョン・ディクスン・カー(読了


 大人になって新訳で読んだ。傑作


 ■ジョン・ディクスン・カーを読んだ男』ウィリアム・ブリテン(読了


 こういうバカミスは大好き。

 

 ■六枚のとんかつ』蘇部健一(未読)


 「おもしろいことやりまっせ」感がどうもなあ。

 


 ■火星の人』アンディー・ウィアー(読了


 絶望に対して徹底して「知恵ユーモア」で立ち向かう主人公の姿に感動。

 

 ■サンリオSF文庫総解説』(読了


 図書館で借りて読んだ。

 


 ■21世紀の資本』トマ・ピケティ(未読)


 経済について語るには避けて通れない人らしいが、経済について語らないので読んでない。

 

 ■わたしを離さないで』カズオ・イシグロ(未読)


 映画は良かったです。

 


 ■電気風呂の怪死事件』海野十三(未読)


 青空文庫収録作は、どうしてもあとまわしになってしまう。

 

 ■万物理論』グレッグ・イーガン(未読)


 SFファンの前で、イーガンにピンとこないというのは、とてもとても勇気がいります。

 


 ■競売ナンバー49の叫び』トマス・ピンチョン(未読)

 

 読んだふりをしたい人は、池澤夏樹現代文学を読みほどく』がオススメ。

 

 ■走れメロス』太宰治(読了


 勝手に「激怒」したあげくに、死刑を延期してもらう理由が「結婚式に出たい」だったり(出てから「激怒」しろ!)、そのエゴでセリヌンティウスを人質に差し出すし(か!)、あげくに飲み食いしすぎて寝坊し遅刻しかけるとか、メロスのバカっぷりに本を投げそうになる。

 ……て、今気づいたけど、この物語の主人公って、きっとセリヌンティウスだったんだな。

 

 「どんな愚かで自分勝手な男だろうと、キミは友を信じるべきだ」という。

 

 これ、カットバック形式で、2人の心境を交差させて書くという設定にしたら、作者によっていろんな書き方がありそうだ。

 

 (3巻に続く

 

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先崎学の語る藤井猛の「天才性」と、藤井システムの意義

2022年07月14日 | 将棋・雑談
 前回の続き。
 
 升田幸三九段の見せる大ポカの数々について、かつて河口俊彦八段はこう喝破した。
 
 

 「それは升田が天才ゆえに、人と違うことを考えているからだ」

 
 
 すなわち、凡人には思いつかない「新手」「妙手」を繰り出せる才を持つ人は、同時にその同義の裏面である「大ポカ」も披露してしまう。
 
 変な言葉なのを承知で言えば、一種の「職業病」「必要悪」のようであり、「考えられないポカ」を披露する発想こそが、「歴史を変える新戦法」を生み出す源泉になっているのだと。
 
 これと似たようなことを、先崎学九段が、ある棋士を評するときに書いていた。
 
 書かれていたのは藤井猛九段のことだ。
 
 
 
 
 
1990年の第8回三段リーグ1回戦。藤井猛三段と、近藤正和三段の一戦。
終盤、藤井勝勢の局面で、近藤は▲63桂不成と王手。
ほとんど「思い出王手」のような形で、ここは相手にせず△81玉でなんの問題もなかったが、なんと藤井は堂々△49飛(!)。
これを見たコンちゃんは「王様って取ってもいいんだよねぇ?」と▲71桂成。藤井は「あー!」と絶叫。
おもしろいことに、このショッキングな負けにもかかわらず、この後藤井は連勝街道を驀進し四段に昇段。
リーグ終盤、藤井が昇段しそうな時にだれかが「こうなると、王様を取られたのはもったいなかった」と言うと、師匠の西村一義九段は「集中している証拠だからいいんだよ」。
師匠からすれば、なんてことないフォローだったのかもしれないが、つまりは「そういうこと」なのである。
 
 
 
 
 
 これは藤井が王位戦で、羽生善治王位に挑戦したころだから、2012年のものであろう。
 
 先チャンはこの勝負を
 
 

 「真の天才対決」

 
 
 そう呼んでいる。以下、少し長いが紹介したい(改行引用者)
 
 

 藤井システムは将棋界を変えた戦法である。
 
 そして彼がひとりで編み出したのは同業者として奇跡に思えるくらいの独創的な戦法、考え方であった。
 
 将棋界では毎年新手や新戦法が出るが、多くは皆で研究した末の産物であったり、そこで指されなくともいずれ近いうちに別の誰かが考えたろうというものである。
 
 藤井システムは違う。藤井という棋士がいなければ、この戦法は生れなかったし、それにつづく振飛車の技術革新もなかったろう。
 
 ひとりの棋士によって将棋の歴史は数十年の時空を飛び越えることに成功したのである。
 
 褒めてばっかりでは彼もかゆくなってしまうだろうからちょっと辛辣なことを書くと、藤井の弱点は中終盤にある。
 
 狭い部分を攻める能力には凄いものがある(業界ではガジガジ攻めという)が、局面が広くなった時に悪手が出易いのだ。この点で、彼は同世代の英才達に微少なハンディキャップがある。
 
 だが、そのことは、彼の数々の業績を考えた時に、むしろ藤井猛という棋士の天才性を逆説的に証明するものであると私は強く思う。
 
 そしてその天才性は、弱点によって藤井という棋士の生涯勝率が多少他に比べて劣ったとしてもまったく揺らぐものではないと断言できる。
 
 この夏の王位戦こそ、真の天才対決なのである。

 
 
 藤井もまた、終盤などでポカをやりがちで、本人も
 
 「芸術的な逆転負け」
 
 自虐ネタにしていることが多い。
 
 観戦している人は親しみをこめてネタにし、私もケラケラ笑ってはいるが、でもそれは本当の意味で嘲笑しているわけではなく、きっと多くの将棋ファンも、また同じであると思われる。
 
 それは「ヒゲの大先生」と同じく、「王手放置」などそのポカの数々が藤井の持つ、「真の天才性」の発露であるからなのだと、心のどこかで皆わかっているから。
 
 だから、本人が嘆きながら頭をかこうと、動画サイトやコメント欄でどうイジられようと、その価値も評価も「まったく揺らぐものではない」のだ。
 
 
 
 
 ■おまけ
 
 (藤井猛伝説「一歩竜王」のシリーズはこちら
 
 (藤井猛竜王のあざやかな終盤はこちら
 
 (藤井システムに影響を与えた羽生善治についてはこちら
 
 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)
 
 
 
 
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「【升田のポカ】は人と違うことを考えている天才性にこそある」と、河口俊彦は言った

2022年07月13日 | 将棋・雑談
 「ヒゲの大先生」といえば、ポカが有名である。
 
 升田幸三九段と言えば、その全盛期に名人九段(竜王)・王将三冠王(当時の全冠制覇)になっただけでなく、木村義雄大山康晴の永世名人2人を「指し込み」に追いこむ、はなれわざを見せた。
 
 「指し込み」とは昔の王将戦に会ったシステムで、3連勝4勝1敗など、スコア的に星3つの差が開くと、勝っているほうがを落として戦うことになっていた。
 
 サッカーで言えば、
 
 「おまえ弱すぎるから、ハンディやるよ」
 
 とばかりに、1人選手を減らして10人で挑んでくるようなものだ。
 
 「下手」を持たされる側からすれば、屈辱きわまりない制度であり、しかもそこでも升田に敗れてしまった大山(木村は「陣屋事件」のどさくさで香落ち戦は指されなかった)は、「名人」が駒を落とされたうえに負けた、という事実のあまりのみじめさにを流したそうだ。
 
 
 
 
 
1955年、第5期王将戦の第4局は、升田幸三八段が大山康晴王将(名人)に「香落ち」上手をもって戦うことに。
図は大山に一矢あって、上手の升田が△84桂と打ったところでは優勢になり、以下制勝。
子供のころ「名人に香を引いて勝つ」と抱いた、途方もない夢を本当に実現してしまった。
 
 
 
 
 升田はよく色紙などに、
 
 
 「名人の上」
 
 
 と書いたそうだが、
 
 
 「名人に香を引いて勝つ」
 
 
 物差しの裏に書き残して家出してきた少年が、まさにそれを実現させるというドラマチックがすぎるストーリー。
 
 将棋界の最高峰である名人の「」なんて書いてしまうのも、決してケレンやハッタリではなかったわけなのだ。
 
 そんなスーパスター升田幸三だが、意外なことにタイトル獲得数や棋戦優勝回数はさほど多くなく、それこそ一度はコテンパンにのしたはずの大山の総タイトル数は80期だが、升田は7期
 
 一般棋戦優勝も大山が44勝にくらべて6勝と、相当に見劣りする。
 
 まあ、大山が強すぎたのは今さらとしても、その宿命のライバルだった升田なら、もっと勝っていてもおかしくないのに、永世称号すら持っていないのも意外だ。
 
 なので、升田の称号は今でも「升田九段」であり、一応「実力制第四代名人」ということになっているが、いかにも後付けの呼び名だし、升田自身も好んでいなかったそうだ。
 
 ではなぜにて、「ヒゲの大先生」がその実力とくらべて、実績的に歯がゆいのかと言えば、ひとつは体調面
 
 若いころ兵隊に行き、南方戦線の激戦地で無理をさせられたため、体を壊してしまった。
 
 また、煙草を好んだ無頼派だったことにくわえて、「高野山の決戦」など大山に勝てなかったことから、そのたしなむ量も爆発的に増えたとあっては、なかなか「絶好調」で対局に挑むとはいかなかった。
 
 そしてもうひとつが、ご存じ「升田のポカ」であって、「高野山の決戦」をはじめ名人戦などでもアッと言うウッカリで、必勝の将棋を落としたりしている。
 
 本人は「楽観」してしまうのを悪い癖だと自戒しているが、実は理由はそれだけではないという声もある。
 
 たとえば、升田を敬愛する河口俊彦八段によると、升田が信じられないミスを犯すのは、
 
 
 「天才は人と違うことを考えているから」
 
 
 升田と言えば、画期的な序盤戦術を次々と生み出す天才棋士だが、そういう「創造性」に長けた棋士は、「ふつうと発想が違う」からこそ、「ふつうの手」でいいところで、ついクリエイティビティを発揮してしまう。
 
 それがうまくハマれば「新手」「絶妙手」につながるわけだが、反転すると「考えられないポカ」になると。
 
 升田の言うウッカリの言い訳に、こういうものがある。
 
 
 「後でやるはずの手を先にやってしもうた」
 
 
 たとえば、ある局面で桂馬を跳ねて、を寄って、最後にを打つという流れがあったしよう。
 
 そこで大先生はなんと、桂馬跳ねと金寄りを「指したつもり」になって、いきなり銀を打ってしまうのだ。
 
 どんな妙手順でも、順番を間違えれば空中分解するのは当たり前で、「升田のポカ」にはこういう不可解性があるというが、それは単に「そそっかしい」のではなく、「別の風景が見えている」ゆえに、そうなるのだと。
 
 ホンマかいなという話で、そもそも「後に指す手を先に」なんてミスを、実際やるものだろうかという気もするが、これがないこともないから、おもしろいもの。
 
 
 
 
 2009年のC級1組順位戦。北島忠雄六段と広瀬章人五段の一戦。
 図は後手玉に詰みがあるが、ここで▲44金と打ったのが、信じられない底抜けで、△32玉まで広瀬投了。
 ここでは先に▲44銀と打って、金を後に使えば後手玉は簡単に捕まっている。「金はトドメに残せ」のセオリーにも反して、まったくの意味不明な手順だ。
 寄せの名手が見せた、まさに「後に指す手を先に」という【升田のポカ】で、おそらく広瀬は簡単な手順の裏に手が「見えすぎて」つんのめったしまったのだろう。
 
 
 
 敷かれたレールの外側にある何かを見つけられる(そしてそれをまた「論理」で再構築できる)人は、ときにその「ひらめき」に裏切られるのだろうか。
 
 このところ「ヒゲの大先生」のことを書きながら、そんなことを思い出してたら、フト、あれそういや、なんか似たようなこと言ってた人がいたんじゃないかと、脳内のアンテナが反応した。
 
 なんだったかなー、たしか先チャンの本じゃなかったっけなー。
 
 そこで電子書籍で買い直した、先崎学九段のエッセイ集をめくってみると、ありました。
 
 序盤で天才的な創造性を発揮する「あの男」の見せるポカこそが、まさに升田のそれと同じであると、先チャンは言うのである。
 
 
 (続く
 
(その他の将棋記事についてはこちらをどうぞ)
 
 
 
 
 
 
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「東海の鬼」の幻術 升田幸三vs花村元司 1956年 第10期A級順位戦

2022年07月10日 | 将棋・ポカ ウッカリ トン死

 升田幸三と言えば、「ポカ」である。

 ヒゲの大先生と言えば、

 「升田流角換わり

 「升田式石田流

 「駅馬車定跡

 などなど、天才的な序盤戦術とともに語られるべきは、信じられない大ポカ。

 「升田のポカ」というのは有名で、またそれが、ここ一番という大勝負に出現することも多いというのが、また語り草になるところは、前回の「ポカからまさかの快勝」事件でもわかるところ。

 そこで今回も、その「升田のポカ」にスポットライトを当ててみたい。


 1956年の、第10期A級順位戦

 花村元司八段と、升田幸三八段の一戦。

 この期のリーグ戦を、ともに8勝2敗の好成績でフィニッシュした2人は、名人挑戦を決めるプレーオフ3番勝負に進出。

 1勝1敗と星を分けた第3局では、相矢倉から先手の升田がバリバリ攻めていく。

 

 

 図は2枚のが強力で、升田が勝勢だが、次の手がハッとするところ。

 

 

 

 △59馬と王手するのが、「妖刀」花村の魅せた手。

 真剣師あがりで、幾多の修羅場をくぐってきた「東海の鬼」花村はタダではやられないし、将棋と言うのは、たとえ負けても、1回はこういう相手をドキッとさせる手を見せることが大事なのだ。

 取ればもちろん、△26角の王手飛車。

 そこで升田は▲78玉と逃げるが、△69角の追撃。

 

 

 

 王手王手でせまられて、かなり気持ち悪いが、後手も戦力が不足しており、逃げ切れそうなところ。

 とりあえず、玉をどこに逃げるかだが、升田はこの大事な場面で、まさかの「やらかし」を見せてしまう。

 

 

 

 

 

 ▲67玉と逃げたのが、名人戦の挑戦者決定戦という大舞台でやってしまった大ポカ。

 すかさず△58角成で、先手玉は大トン死。ここで升田は投了

 以下、▲66玉に△74桂、▲75玉、△85馬と抱きつかれてピッタリ。

 

 

 

 升田によると、そこで「▲74玉」と逃げれると錯覚していたそうで、ウッカリしているとこに、なにを言っても意味などないが、それでも、あまりにもったいない。

 正解は▲88玉で、△85桂▲67金

 △76歩、▲同金、△68馬には▲79歩で受かっていて、後手玉は▲42銀▲15歩で受けがなくなるから、先手の勝ちだった。

 

 

 このころの升田は、大山康晴がいたせいで名人を取れずに苦しんでいたが、まさかの伏兵相手に、落とし穴に落ちることとなったのだった。

 それにしても、遊びの将棋でも、こんな負け方したら盤をひっくり返したくなるのに、それを名人戦挑決で喰らってしまうなど、どういう気持ちになるのか。

 このころは升田本人のみならず、ファンの方も相当にフラストレーションがたまったかもしれない。

 今で言えば、「名人」「八冠王」を期待される藤井聡太五冠が毎度、挑決や決勝戦でこんな負け方をしてると想像してみたら、これはメチャクチャにしんどいですわなあ。

 

 (升田のポカの理由編に続く)

 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

 

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施川ユウキ『バーナード嬢曰く』に出てきた本、何冊読んだ? 第1巻 その2

2022年07月07日 | 

 施川ユウキ『バーナード嬢曰く』が好きである。

 ということで前回は、この作品に出てきた本を何冊読んだか気になって、数えてみたところ、意外にリストが長くなってしまい、今回はその後編

 

 

 ■緋色の研究』コナン・ドイル(読了

 

 ミスヲタなので、ホームズは全作品何度も読み直している。

 ホームズはバカミスで楽しい。『四つの署名』のオープニングは何度読んでも笑える。

 


 ■リアル鬼ごっこ』山田悠介(未読)

 

 一時期、読書界を騒然とさせた怪作

 これ自体を読むと目が回るので、『トンデモ本の世界S』に掲載された山本弘さんのつっこみレビューをどうぞ。

 


 ■カフカの生涯』池内紀(読了

 

 敬愛する池内紀先生のカフカ論。とても興味深いし勉強になる。

 カフカって、小説よりも「めんどくさい」本人の方がおもしろいのではないか。彼の日記はそのままラノベになるくらい。

 


 ■星を継ぐもの』J・P・ホーガン(読了

 

 設定の大ハッタリがすばらしい。ベートーベンみたい。

 

 月面で発見された、真紅の宇宙服を着た人間の遺骸のようなもの。それはなんと、今から5万年前に死亡したものであることが判明した……。

 

 こんなん見せられて、読みたくならへんほうが、おかしいですわ。

 ところで、この作品には「アンフェア」な部分があるそうなんですが、どこなんでしょう。

 

 ■フェルマーの最終定理』サイモン・シン(読了


 メチャクチャおもしろい数学ノンフィクション。サイモン・シンハズレなし

 文系が読んでも問題なし。個人的な経験則だと、数学に苦手意識がある人は細かい数式や公式より「数学史」から入るのがいいと思う。

 そこには小説映画、はたまたスポーツノンフィクション顔負けの「人間ドラマ」がある。他の理系科目も同じく。

 


 ■夏への扉』ロバート・A・ハインライン(読了


 ハヤカワの『SFハンドブック』オールタイムベスト1位ということで読んだ。

 初めて読んだ海外SFなので思い入れは強い。『たったひとつの冴えたやりかた』といい、日本で非常に人気が高いのは、なんとなくわかる。

 

 ■異星の客』ロバート・A・ハインライン(未読)


 まだ読んでません。

 ハインラインは『夏への扉』『月は無慈悲な夜の女王』『宇宙の戦士』『時の門』『人形つかい』を読んで全部オモロイ。

 ラノベ好きな人が、SFに入るのにちょうどいいかも。

 

 ■月は無慈悲な夜の女王』ロバート・A・ハインライン(読了


 いわずとしれた『機動戦士ガンダム』の元ネタのひとつ。

 20世紀アメリカSFのエッセンスが詰まった作品。SFのお家芸「価値の相対化」がベースになっており、おもしろい。

 


 ■さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学』山田真哉(未読)

 

 なんか、あったなあ。読んでません。

 

 ■チーズはどこへ消えた?』スペンサー・ジョンソン(未読)

 
 同上。

 

 ■ユービック』フィリップ・K・ディック(未読)

 

 未読。ディックは合う合わないが、、分かれると思う。
 


 ■ビブリア古書堂の事件手帖』三上延(読了


 おもしろかったけど、「読書ってステキです」なキラキラ系はやっぱ苦手かも。


 ■『舟を編む』三浦しおん(未読)

 

 積読。はやく読みたい。


 ■トータル・リコール』フィリップ・K・ディック(未読)


 Kindleで積読。


 ■KAGEROU』齋藤智裕(未読)


 施川さんの熱さは感動的だが、きっと著者は

 「オレが目指すのは、そういうん、ちゃうねん」

 て思ってるだろうなあ。

 「かっこ悪さ」を見せるのが旋川さんの文学観なんだろうけど、タイトルからしても齊藤さんは、そっちを目指してないよなあ。

 しかし、この映画でよくある日本語のローマ字表記って、なんだろう。

 ダサいと思うんだけど、海外で売りたいってことなのかな。

 

 ■人間失格』太宰治(読了

 

 中学生のころ読んで、あんま太宰は合わないなあと感じる。

 たぶん、「私小説」に興味がないからだろう。だから、日本文学はあまり読まないし、『エヴァ』もそんなに……。

 


 ■『神という機械への夢 サンリオSF文庫カバーアート集』(読了)

 

 図書館で借りて読んだ。サンリオSF文庫には全然思い入れがない世代。

 


 ■それから』夏目漱石(未読)

 

 漱石はそんなにハマらない。ところで、「松山坊ちゃんスタジアム」ってつけた人、絶対に原作読んでないよね。 

 

 ■潮騒』三島由紀夫(読了


 中学生のとき読んだ。焚火のシーンは、たしかにちょっとドキドキする。

 三島はあんまし読んでないけど、『三島由紀夫のレター教室』はオススメ。


 ■こころ』夏目漱石(読了


 舞台化するなら、の役は東京03角田さんにやってもらって、面当て自殺前に延々と見苦しい恨み言を語ってほしい。

 

 角田「あーそうですよ、面当てですよ! 好きな女、寝取られたら、そりゃ嫌がらせで死んでやろうとか思いますよ! なーんか悪いんですかぁ?」

 飯塚「メチャメチャ開き直ってんじゃん(笑)」

 

 ■沈黙』遠藤周作(読了


 井上章一さん曰く「BLのSM小説」。

 「神なんて、いないよね」

 この事実さえ認めてしまえば、世界は結構なこと平和になるんじゃないかなあ。

 とか安易に思ってたけど、海外旅行に出かけるようになって、その日本人的発想が「圧倒的マイノリティー」であることにおどろかされた。

 外国人に「宗教は?」って聞かれて「無宗教」って言ったら、メチャひかれるんスよね。

 


 ■雪国』川端康成(未読)

 

 そういや、明治大正昭和の日本文学って、ほとんど読んでないな。


 ■ぐりとぐら』中川李枝子(読了


 教科書ものでは、『チックとタック』を憶えてる。

 冷めたすき焼きや、激辛わさび寿司が食べたくなる飯テロ絵本。

 


 ■はらぺこあおむし』エリック・カール(読了


 妙にサラダが食べたくなる飯テロ絵本。

 


 ■百万回生きたねこ』佐野洋子(読了


 佐野さんの気風のいいエッセイは好き。

 


 ■三匹のやぎのがらがらどん』マーシャ・ブラウン(未読)


 全然知らない本。絵本とか童話は専門外だなあ。

 


 ■合成怪物』レイモンド・F・ジョーンズ(未読)


 全然知らない作品。 

 

 ■『一九八四年』ジョージ・オーウェル(読了)


 今の日本、いや時代を超えて常に読まれるべき本。

 ゴールドスタインの分析には「ギャフン」の一言。トマス・ピンチョンの解説もすばらしい。「二分間憎悪」とか、すごすぎる言語センス。

 『動物農場』も良い。『カタロニア賛歌』など、ノンフィクションやエッセイもオススメ。

 


 ■氷の海のガレオン/オルタ』木地雅映子(未読)

 まったく知らなかった作品。

 


 ■1Q84』村上春樹(未読)

 
 昔、旅先で出会った読書家に、
 
 「バイトや就職の面接で【愛読書】を訊かれて、村上春樹か村上龍の名前を出すと、ミーハーなバカと思われて落とされる」
 
 という、真偽不明なうえに、偏見入りまくりの話を聞いたことがあった。
 
 はて、どっちも読まないのに、落とされまくった私は何なんでしょう?
 
 

 

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ヒゲの大先生の大ポカ 升田幸三vs原田泰夫 1953年 第8期A級順位戦

2022年07月04日 | 将棋・ポカ ウッカリ トン死

 升田幸三と言えば、「ポカ」である。

 ヒゲの大先生と言えば、

 「升田流角換わり

 「升田式石田流

 「駅馬車定跡

 などなど、天才的な序盤戦術とともに語られるべきは、信じられない大ポカ

 「升田のポカ」というのは有名で、またそれが、「高野山の決戦」や宿敵木村義雄との名人戦など、大勝負に出現することも多いというのが、また語り草になるところ。

 そこで今回は、その「升田のポカ」にスポットライトを当ててみたい。

 

 1953年、第8期A級順位戦

 升田幸三八段と、原田泰夫八段の一戦。

 升田は前期に名人戦挑戦者になったが、今期は不調で、なんと開幕3連敗

 名人挑戦どころか、ちょっとが気になるイヤな流れになっているが、この将棋もまた、それを表わすような内容になってしまうのだ。

 升田が先手で相掛かりから、双方とも似たような陣形を組んでいく。

 

 

 

 

 図は原田が▲45歩と突いて、升田が△44にいた銀を下がったところ。

 なんてことない局面に見えるが、実はここで決め手級の一撃があったのだ。

 

 

 

 

 

 

 ▲25桂、△22(24)銀、▲37角で「オワ」。

 少し前に、△55銀と出て突っ張ったのが、升田の不調を表わすような乱れだった。

 不安定な位置に取り残された銀をねらって、まずは▲25桂と跳ねて、銀がどう逃げても、▲37角と打てば、△55の銀が助けられない。

 真部一男九段の『升田将棋の世界』によれば、△55銀と出たとき、升田はこの筋に気づいたそうで、

 

 「今日はどうもいかん」

 

 そう思ったそうな。

 名人を取ろうかというトップ棋士が、素人がやりそうなポカをやるのだから、そりゃガックリもくるだろう。

 この場面は▲58玉としてくれたから九死に一生を得たが、原田からすれば、まさか升田ほどの男が、こんな簡単なウッカリなどするはずがない、と思いこんでしまったのかもしれない。

 ホッとしたのもつかの間、ヒゲの大先生の調子はなかなか上がってこず、この△54歩と突いた手が、またヒドイ悪手

 

 

 

 またもや大ポカで、後手陣には、決定的な不備がある。

 これが「先後同型」だったら、この手はなかったのだが……。

 

 

 

 

 

 ▲22歩と打つのが、教科書通りの好打一発。

 △同金は壁になって形が乱れて、相居飛車戦ではよく見られる手筋……なんてヤワな話じゃない。

 そこで▲31角と打てば、なんと金銀両取りで「オワ」なのだ。

 

 

 

 浮き飛車と、△54歩の組み合わせが最悪なのが、わかっていただけるだろう。

 これには原田は笑いをかみ殺し、升田はボヤキにボヤキまくる。

 このポカには、どうも原因があったようで、このころ升田は、慢性盲腸炎に悩まされており体調は最悪。

 またをクンクン鳴らし、しきりにかんでいたというのだから、体力の低下で、風邪もひいていたのかもしれない。

 体と局面、どちらも最悪とあっては力も出ず、△33桂と跳ねるが、▲21歩成と、なんの代償もなくと金を作って、明らかに先手が優勢。

 

 

 

 しかもこれが、やはり▲22と△同金▲31角が残って先手になっているから、手番ももらえないとか、後手からすれば踏んだり蹴ったりである。

 以下、△53銀▲11と△35歩と反撃するも、そこで▲26飛とふつうに受けられていたら、後手に指す手はなかった。

 代わりに▲57角と打ったのが、飛車取りにしながら▲35の地点にも利かした、味のよさそうな手に見えて大悪手というのだから、将棋というのは恐ろしいものである。

 

 

 

 「唯一のチャンス」と見た升田は△86飛と切り飛ばし、▲同歩に△36歩

 原田は▲12飛と、さっそくもらった飛車で攻めて好調子だが、ここで見ているほうは「ん?」となる。

 たしかに、先手が順調なようだが、飛車打ちに△42金と寄られると、存外に早い攻めが見えない。

 先手は歩切れが痛く、攻めに厚みがない。

 そこで▲34香と打つが、これではなんとも自信のない形で、ここは▲38香と辛抱しておけば、まだ先手が指せていたのだ。

 

 

 

 後手は△37歩成と取り、▲同銀に△45桂が、いかにも調子のよい跳ね出し。

 

 

 

 先手も勢い▲24角と切って、△同歩に▲33香成とせまるが、そこで△64角と打つのが、すこぶるつきに味のいい好打となった。

 

 

 

 絵に描いたような攻防の一打で、なんとここではすでに後手が勝勢

 序盤で「と金得」など、プロレベルなら大差のはずが、アッと言う間にこうなるとは、原田はもとより、升田もおどろいたそう。

 ヒゲの大先生からすれば、別に「死んだふり」をしていたわけでなく、本当にグッタリしていただけだが、これでは体調不良のフリをして、相手の油断を誘っていたようで、なんとも味が悪い。

 その後は、投げきれない原田が、手の尽きるまで王手してから投了

 升田によると、いつもは明朗快活な原田も、さすがに声がなかったそうである。

 それにしても、あんな底抜け2連発から、△64角のような美技で決めるなど、まったく大先生は勝っても負けても、スターであるなあ。

 

 (名人戦挑戦者決定戦での大ポカ編に続く→こちら

 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

 

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施川ユウキ『バーナード嬢曰く』に出てきた本、何冊読んだ? 第1巻

2022年07月01日 | 

 施川ユウキ『バーナード嬢曰く』が好きである。

 ということで、前回そのおもしろさを語ったうえで、

 「このマンガに出てきた本、何冊読んだか数えてみよう」
 
 と締めたんだけど、やってみると意外と数が多くて大変だったので、今回ここでネタにして元を取りたいと思う。

 果たして、何冊読んでるんでしょうか。みんなも一緒に、数えてみてね!(←やらないだろ)


 ☆1巻

 


 ■カラマーゾフの兄弟』ドストエフスキー(未読)

 

 表紙がまずこれ。こんな長いの読んでるわけないけど、なにかの本で

 

 「《大審問官》のシーンだけでも、読んだ方がいい」

 

 と書いてあったから、そうした。

 スカタン丸出しだが『ド嬢』的には正しい読み方で、「読了した」と言い切って問題ないだろう(←だめだろ)。

 

 


 ■アンドロイドは電気羊の夢を見るか』フィリップ・K・ディック(読了

 

 高校生のころ読んだけど、陰鬱とした印象しか残ってない。

 『ブレードランナー』はリアルタイムより少しの世代なので、それほどの衝撃はなかったが、大人になって、この映画の影響力を様々知って、それはおもしろかった。

 ディックはハマる人はハマるので、一度は読んだらいいかも。

 

 


 ■流れよわが涙、と警官は言った』フィリップ・K・ディック(未読)

 

 一発で憶える名タイトルだから、読了した気になってるよね。


 ■たったひとつの冴えたやり方』ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア(読了

 

 高校生のころ読んだ。もちろん傑作

 海外SF好きのカズレーザーさんは

 「挿絵が入る本は好きじゃない」

 と言ってたけど、これは挿絵が大正解川原由美子さんの絵がズッパまり。

 コーティ・キャスに捧げる詩を書いたこともある。見られたら潔く自決します。

 


 ■愛はさだめ、さだめは死』ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア(未読)

 

 『たったひとつの』から連打をねらったが、内容も訳文もヘビーすぎて、メチャしんどくなり挫折。

 

 


 ■10月はたそがれの国』レイ・ブラッドベリ(未読)

 

 ブラッドベリの主要作品はだいたい読んでるけど、これは未読。

 レイでは「生まれた子供が青いピラミッドだった」という『明日の子供』にぶっ飛んだ。しかも大感動

 


 ■くらやみの速さはどれくらい』エリザベス・ムーン(未読)


 
 未読どころか、作者のことをマンガで初めて知った。

 

 


 ■あるいは牡蠣でいっぱいの海』アヴラム・デイヴィッドスン(読了

 

 神林の言うとおり、名タイトルは訳し直す必要ない気もするけど、難しいね。

 『刑務所のリタヘイワース』とか、日本人にはピンとこないものは、しょうがないけど。

 


 ■あるいは酒でいっぱいの海』筒井康隆(未読)

 

 筒井康隆はおもしろいけど、グロの部分がダメなときがある。

 

 


 ■死ね、名演奏家、死ね』シオドア・スタージョン(読了

 

 神林がキレてた「マエストロを殺せ!」の方で読みました。でも、スタージョンはそんなに合わない。

 

 


 ■海底二万里』ジュール・ヴェルヌ(未読)

 

 古典だから、「読了したっぽい雰囲気」になってるよね。

 

 


 ■天の光はすべて星』フレドリック・ブラウン(未読)

 

 フレドリック・ブラウンは大好きな作家だけど、これはまだ。なんか、雰囲気がマジメっぽくて……。

 


 ■櫻の園』チェーホフ(読了

 

 高校生のころ読んだ。もちろん動機は、

 

 「流行りものにしか興味のないクラスメートどもとくらべて、ロシア文学をたしなむオレ様チョー知的でカッケー」

 

 中身は全然覚えてない。まあ、そんなもんだ。

 この作家については沼野充義チェーホフ 七分の絶望と三分の希望』がくわしい。日本映画の『櫻の園』は傑作。

 


 ■失楽園』ジョン・ミルトン(未読)

 

 読んでるわけがない。

 

 


 ■スターメイカー』オラフ・ステープルトン(未読)

 

 名前は知ってるけど、読んだことはない。

 


 ■幼年期の終り』アーサー・C・クラーク(読了

 

 「SFっておもしろい!」と感じさせてくれたのはハインライン『夏への扉』と、フレドリック・ブラウン『火星人ゴーホーム』。

 「すごい!」と思わせてくれたのは山田正紀『神狩り』とこれ

 


 ■あなたの人生の物語』テッド・チャン(読了

 

 読書人生オールタイムベスト候補。全人類必読。

 


 ■読書について』ショーペンハウエル(読了

 

 高校生のころ読んで衝撃を受けた。「読書」を「ネット」に変換すると、今でも通じる話ばかり。

 

 


 ■真夜中は別の顔』シドニィ・シェルダン(未読)

 

 未読。昔「超訳」ってありましたよね?

 


 ■罪と罰』ドストエフスキー(読了

 

 海外旅行中、ヒマなので読んだ。長いし読みにくい。

 『デスノート』好きな人は、読んでみていいかも。要するに、リュークが現れない豆腐メンタルのライト君の物語。てか、たぶんデスノのタネ本

 もともと『刑事コロンボ』の元ネタとも言われている。ポルフィーリー→コロンボ→古畑任三郎→竜崎という流れ。

 

 


 ■悪の華』『パリの憂鬱』ボードレール(読了


 ファンだった中島らもさんが影響を受けたというので、高校生のころ読んだ。

 中身については、なにも憶えてない。デカダン趣味がまるでないらしい。

 


 ■恋空』美嘉(未読)


 いろいろ言われましたが、ガッキーがかわいいので無罪です。

 

 


 ■スローターハウス5』カート・ヴォネガット(読了

 

 某ネットレビューで、

 「ドレスデン空爆を、こんな茶化したように書くなんて!」

 と、まさにカートが作中でため息をついたような人がいたのが印象的。

 


 ■百年の孤独』ガブリエル・ガルシア=マルケス(読了

 

 読書人生オールタイムベストワン候補。究極の文学。

 

 


 ■ハローサマー・グッドバイ』マイクル・コーニイ(読了

 

 ロバート・F・ヤングとかリリカル系SFは若干苦手だが、いい小説だし、好きだという人の気持ちはわかる。

 ラストも、ミスヲタ的に見てもすばらしい。

 


 ■地球最後の男』リチャード・マシスン(読了

 

 オマージュ作品である藤子・F・不二雄『流血鬼』のオチには

 「日本人ならこうやなあ」

 と感心した記憶がある。

 


 ■エンダーのゲーム』オースン・スコット・カード(読了

 

 「ひとりの英雄を生むためには、彼の人生や周囲の人間の幸福など、多くのものを犠牲にしなければならない」

 という考えは、たぶん「正解」なんだろうけど、したり顔でそれを語るヤツは何様だと思う。

 だって、オレもアンタも「犠牲」にされる側なのに。

 

 


 ■周ロック・ホームズ 雨の軽井沢殺人事件』志茂田景樹(未読)

 

 読んでるわけないけど、メチャクチャ読みたい。

 

 


 ■プランク・ダイブ』『ディアスポラ』グレッグ・イーガン(未読)

 

 イーガンは『祈りの海』を読んだが、サッパリ響かなかった。

 のちにオーケンが同じことをエッセイに書いてて、ホッとした記憶が。

 

 


 ■変身』フランツ・カフカ(読了

 

 ドイツ文学科で学んでいたので一応読んだ。カフカって合わねー。

 ……て、なんか自分、さっきから読書家にバカにされそうなことばっかり書いてるな。

 


 ■銃・病原菌・鉄』ジャレド・ダイヤモンド(未読)

 

 未読。すごいおもしろくて、勉強になるらしい。

 

 


 ■世界史』ウィリアム・H・マクニール(読了

 

 世界史をざっとおさらいできる本。東大生に人気らしい。

 ちょっと読みにくいし、受験科目で世界史を選択してた(私もそう)人は無理して読まなくてもいいと思う。
 
 長いよーとお嘆きの方は、「山川の世界史」がオススメ……て、あーもしかして山川ってこの本をお手本にしてるのかな?

 

 げ、1回で終わらなかった。

 楽しいけど(自分だけ)、意外と大変だな、こりゃ(続く)。

 

 

コメント
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