閃光! ヴァルキリーズ・ジャベリン 西山朋佳vs里見香奈 2019年 第12期マイナビ女子オープン第2局

2021年03月31日 | 女流棋士

 西山朋佳が、NHK杯出場を決めた。

 先日放送された、将棋NHK杯の出場女流棋士決定戦で、西山朋佳女流三冠(女王・女流王座・女流王将)が、里見香奈女流四冠(清麗・女流名人・女流王位・倉敷藤花)を破って本戦に進出。

 将棋の内容も大激戦で、特に不利と見られたところから見せた、西山のねばりが見どころ十分。

 ▲38桂と埋めたところから、手をつくしてひっくり返したときなど、

 「見たか! これがウチのトモちゃんの二枚腰やで!」

 なんて、テレビの前で大盛り上がり。

 私は西山さんが受けで見せる、独特の腕力の大ファンなのだ(そのひとつが→こちら)。

 もっとも、自分は同時に里見さんのファンでもあるので、どっちかしか出られないということには複雑な思いではあった。

 まあ、そこは同じ大阪人のよしみで、ほとんど誤差の範囲くらい少しばかり、西山さん推しにかたむいたわけだが、ともかくも、これでウチのトモちゃんが(←どの目線でしゃべってるんだ)、またも全国放送に。

 そこで、前回はNHK杯で初優勝した、稲葉陽八段による銀河戦優勝の将棋を紹介したが(→こちら)今回は西山将棋を紹介したい。

 

 2019年の第12期マイナビ女子オープン。

 西山朋佳女王と、里見香奈女流四冠との一戦。

 西山先勝を受けた、5番勝負の第2局は、後手の西山が三間飛車から四間に振り直す形に。

 

 

 里見が中央に、を飛び出していったところ。

 ここからの西山の指し手が、振り飛車党には、非常に参考になるのではないか。

 

 

 

 

 △42角、▲77桂、△54銀、▲44角、△64角、▲22角成、△85歩。

 △42角と引くのが、振り飛車らしい駒繰り。

 △33△64に持って行って▲37飛車のコビンをねらうのは、

 「振り飛車名人

 と呼ばれた大野源一九段や(→その将棋はこちら

 「さばきのアーティスト

 こと久保利明九段が得意とする、カウンターショットの常套手段(その将棋は→こちらから)。

 形勢はまだ難解だが、先手も銀冠の最急所をつかれて、相当にイヤな感じ。

 里見も負けずに、▲32馬△44飛と飛車を追ってから、▲45歩、△同銀、▲同桂、△86歩

 そこで、▲83歩と急所にビンタを喰らわせ、反撃していく。

 

 

 

 玉頭戦は、ひるんだ方が負けるのだ。

 このあたりは、足を止めての打ち合いで、両者の気合がほとばしっている。熱い。

 そこから終盤のたたき合いになって、むかえたこの局面。

 

 

 

 里見が▲85歩と、せまったところ。

 自然なのは△85同桂だが、ここのシャッターが開くと、▲23にあるの利きが、玉頭までビュンと届いてくるのが怖すぎる。

 ▲83歩のタタキなども、きびしく残り、どうするのかと見ていると、ここで西山のキャッチフレーズである「剛腕」が飛び出すのだ。

 

 

 

 

 自陣にかまわず、△88銀不成と取るのが、解説の塚田泰明九段も絶賛した、強気の踏みこみ。

 ▲84歩を取られた形は、場合によっては、いきなり詰まされてもおかしくない危険度だが、これで一手勝てると西山は主張している。

 ▲84歩△77角成が、押さえの駒をはずしながらの詰めろで、▲同金とも取れないとあっては(△58に頭金で詰み)、これは先手が勝てない。

 里見は▲48玉と早逃げして、△77銀不成▲98桂(!)。

 

 

 逆サイドから勝負手を放つが、またも角取りを放置して、△68銀不成と進撃。

 ほとんど、チキンレースのような前のめりさだが、▲86桂と取られても、まだ自陣は耐えていると見切って、果敢にアクセルを踏みこむ。

 なんちゅうキモの太さや。朋ちゃん、シビれるで!

 

 

 

 図は△26歩のタラしに▲28歩と受けたところ。

 局面は後手優勢だが、先手もなんとかしのいで、を頼りに、上部へ抜け出したいところ。

 だがここで、ちょっと気づきにくい決め手があった。

 

 

 

 

 

 △11桂と打つのが、すばらしい視野の広さ。

 一見、無筋のようだが、▲22竜と逃げたところで、この桂を土台に△23香と打つと、先手玉の逃げる形がない。

 

 

 

 直前に△26歩▲28歩を利かした効果で、▲24歩と止めることができないのだ。

 投げ槍の投擲一発で右辺を制圧され、これで先手がまいったようだが、里見は執念で▲67銀と引く。

 △58の地点を受けただけの、力のない手のように見えて、これがなかなか油断ならない。

 ▲84歩から、▲83銀のような王手ラッシュをかけたとき、なにげに後手玉の上部を押さえ、トン死筋のに一役買っているのだ。

 ここでは、今度こそ△85銀と取っておくのが冷静で、後手勝ちのようだが、西山はまたも強気に△42金とぶつける。

 これはさすがに、ちょっと気合が良すぎたようだが、里見が▲21馬とひるんだため、大事には至らなかった。

 そこで、△58歩成と成り捨てるのが、西山の構想だったのだ。

 

 

 ▲同銀と取るしかないが、こうしておけば王手ラッシュを食らったとき、△76の地点が抜けていて、後手玉に詰みはない。

 なるほどという手順で、△56歩と着実な攻めで西山勝勢。

 以下、里見の必死の抵抗を振り切って後手勝ち。

 これで2連勝の西山は、第3局こそ落とすも、第4局も制して3勝1敗女王初防衛に成功するのだった。

 

 (高崎一生と有吉道夫の順位戦編に続く→こちら

 

 ★おまけ 西山朋佳の名手「△45桂」は→こちらから

 

 

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戒厳令下 京都潜入記3 大阪も碁盤の目状にしてくれ編

2021年03月28日 | 海外旅行

 前回(→こちら)に引き続き、掟破りの京都観光戦記。

 なんの因果か、仕事ついでに京都を観光することになった、バンゲリング帝国よりの使者、エーリヒハインツマリーアフォンリリエンシュターン武装親衛隊少尉(そういう設定なのです)。

 このご時世、観光都市である京都を歩くというのは気がさすが、友人のアドバイス通り、どこもガラガラであった。

 これなら、に悩まされることはなさそうということで、そこは安心したが、油断したわけでもないのに、思いっきり道に迷ってしまった。

 ここに発動された、オペレーション「雪の嵐」では、まず二条城に行くはずが、地下鉄烏丸線をはさんで、東西反対の京都御所に到着してしまったのだ。

 ガックリきたのと、寒さもあって、腰が抜けそうになった。

 おまけに、御所は特になにもない公園で、ちょっと散策すると、もうすることがない。

 

 

京都のラッキースポットと言われるバス停。

ここからバスに乗ると、2分の1の確率でステキな恋人ができるが、ハズレた場合は「そこまで仲いいわけじゃないけどなー」くらいの知人が死ぬ。

 

 雪こそ降らなかったものの、その日も京都は寒く、厚着の嫌いな私はガクガク震えまくり。

 なにやら、スターリングラードの悪夢がここによみがえり、なるほど、白い地獄の中で立ち尽くした、ドイツ第6軍フリードリヒパウルス上級大将の気持ちはかくばかりだったか。

 このままでは凍死必至と、ともかくも引き返すことにする。

 京都という街のすばらしいところは、その歴史の深さでも、観光資源の豊富さでもない。

 それはズバリ、「碁盤の目」状に作ってあることだ。

 私のような、ドのつく方向音痴には、すこぶる優しいデザインである。

 道に迷っても、ともかくも方角さえつかめれば、なんとかなる。

 これは大阪という、ゴチャゴチャしたカオスの街並みになじんでいると、本当にありがたい。

 梅田あたりの、あのわかりにくさも辟易するもので、少尉も遊びで、バイトで、仕事で、山ほどあの街に出かけているが、いまだ彼の地の正確地図が書けない

 なので、いつも梅田に行くときは地元というよりも、バンコクサイゴンのような


 「アジアの大都市」


 を歩く気分で、疑似海外感を味わうことにしている。

 

 

 

 二条城にある美しい庭園と池。

 水面に映る自分の姿にウットリしていたナルキッソスが、突然あらわれた河童と相撲を取らされたというエピソードが残っている。 

 

 そんな私なので、特に用事があるときに道に迷ったときは、もう断然、京都のスクエアなマップがうれしい。

 もっとも、大阪のゴチャゴチャ感は、よそさんから見たら、それはそれで魅力もあるよう。

 以前、これも仕事で、お金持ち高級住宅地に住んでいたというエリート青年と大阪の街を歩いていると、


 


 「大阪って、おもしろいですよねえ。僕が住んでいたところは、人も街並みもフラットで、丁寧に殺菌されたようなところだったから、すごくつまんなくて」




 なんて目を輝かせてたから、そんなもん見慣れてるネイティブとしては、


 「そんなもんかねえ」


 と言うしかなかったけど。

 きっと京都人寺社仏閣や、碁盤の目の街にたいした感動もないだろうから、人それぞれだなあ。

 なんとか進路を修正しつつ、二条城につながる堀川通に出る。

 とりあえずホッとしたので、地下鉄烏丸御池駅のパン屋で買った、チーズとハムのカスクルートをもそもそ食してランチ替わり。

 カスクルートとは、フランスパンで具をはさんだだけのシンプルなサンドイッチ

 これが本場のパリで食べたものと同じ造りで、なつかしくなって買ってしまった。

 本当なら、せっかく京都に来たのだから、地元のおいしいものでも食べるべきなのだろう。

 だが、なじみでないところにフラッと入るのが苦手なので、なんとなくタイミングを逃してしまった。

 京都の食べ物に、無知なせいもあったかもしれない。無念である。

 なら、京都出身で京都本もたくさんものしている、マンガ家のグレゴリ青山さんが言うように、「京都王将」を目指してみたが、丸太町界隈では発見できなかった。

 結局、迷い疲れて、サンドイッチを買い食いすることになったのだが、値段は400円で、味もまずます。

 私はトマトレタスがゴチャゴチャ入ったものより、こういうストレートなタイプの方が好みなので、なんだかいい気分。

 パリの雰囲気を、思わぬところで味わえてトクした気分。ちなみに、志津屋というパン屋さん。

 腹もくちくなると、外は日が照ってきたこともあって、多少は寒さもまぎれてきたところで、ようやっと二条城に到着。

 

 (続く→こちら

 

 

 

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「稲葉陽はすごい人だ」と、豊島将之は言った

2021年03月26日 | 将棋・雑談

 稲葉陽がNHK杯で優勝した。

 2度の準優勝をバネに、3度目の正直を果たしたのは、見事の一言で本人もホッとしたことだろう。

 稲葉といえば思い出すのが、このエピソード。

 2005年から2006年の第38回三段リーグで、最終日2局を残して13勝3敗で首位を走っていた稲葉陽三段。

 残り2つのうち、ひとつを勝つか、あるいは競争相手が1敗でもすれば四段が決定という状況だった。

 要するに自分が2連敗して、ライバルが2連勝する以外は決まりという圧倒的有利な状況だったが、そのまさかのありえない目が出て、プロ入りを逃してしまう(昇段したのは中村太地三段で、ちょうど中村七段が解説してくれています→こちら)。

 ふつうなら、放心するか、自暴自棄になってもおかしくないところだろうが、ここからがすごい。

 最終戦で昇段を逃した後、稲葉は同じ関西の豊島将之三段と一緒に帰ったそうなのだが、なんとその帰りの新幹線で、プロ入りを逃した敗局を自ら解説したというのだ。

 それを聞きながら豊島三段は、

 

 「この人は凄いなと思いました」

 

 心底、感嘆したという。

 人生が変わってしまう、下手すると終わってしまうような大暗転にひるむことなく、すぐさま次へ向けての準備を始める。

 間違いなく「正解」の行動であるし、口で言うのは簡単だけど、ふつうはこんなこと、できないとしたものだ。

 テニスの鈴木貴男選手は、どこかで大きな試合に負けた後、

 

 「落ちこんで、帰ってしまう人」

 「試合後、すぐに練習をはじめる人」

 

 このについて語っていたことがあった。

 私はうなだれて帰っていく選手をダメとは思わないが、後者が「凄い」のは間違いないだろう。

 あの豊島二冠が脱帽した男が、久方ぶりに、大きな仕事をなしとげた。

 稲葉陽「NHK杯選手権者」。

 これですよ、これ!

 次はA級復帰にタイトル獲得。

 関西のファンとして、期待はますます、高まるばかりである。 

 

 

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NHKにようこそ! 稲葉陽vs橋本崇載 2013年 第21期銀河戦 決勝

2021年03月25日 | 将棋・名局

 稲葉陽八段が、NHK杯で優勝した。

 稲葉といえば、これで3度目の決勝進出と、この棋戦との相性の良さを見せているが、まだ優勝には届いていない。

 2017年の第67回大会では山崎隆之八段に、また昨年度も深浦康市九段に敗れての準優勝。

 決勝まで行って、そこで負けてしまう徒労感は相当のものだろうに、3度目勝ち上がってくる精神力は、すばらしいものがある。

 今度こそ、と気合を入れていたことだろう、名人挑戦を決めて勢いに乗る、斎藤慎太郎八段に激戦の末勝利。

 

 

NHK杯決勝の最終盤。ここで△25銀と飛車を押さえておけば、斎藤の優勝はほぼ決まっていた。

本譜は△35銀だったため、▲33銀、△同桂、▲同歩成、△同金、▲同金、△同玉、▲43金から、稲葉が一瞬の切れ味を見せ、後手玉を仕留めた。

 

 

 ともかくも、双方スレスレの線を行く将棋であって、大いに堪能したものだった

 ということで、前回は名人時代に佐藤天彦九段が見せた、華麗な桂使いを紹介したが(→こちら)、今回は稲葉の将棋を取り上げてみたい。


 2013年の第21期銀河戦。

 決勝に勝ち上がってきたのは、橋本崇載八段と稲葉陽六段だった。

 両者とも棋戦初優勝がかかった一番は、後手になった橋本が、早々の角交換から、ダイレクト向飛車に振る。

 稲葉は銀冠で対抗し、▲66角と好所に据えて局面を動かしていくと、橋本もその角を目標に盛り上がっていく。

 むかえたこの局面。

 

 

 角銀交換で後手が駒得だが、△45の桂が取られそうなうえに、△33の金も玉から離れて使いにくい。

 先手は一目、▲45歩と桂を取りたいが、△55角と天王山に設置され、飛車を責められるのもやっかいだ。

 どう手を作るのか注目だが、ここから稲葉が、力強い駒の進撃を見せてくれる。

 

 

 

 

 

 ▲66銀と置いておくのが、なるほどという手。

 自陣にカナ駒を投入し、一見迫力なさげに見えるが、これが局面の急所を押さえ、含みが多い銀打なのだ。

 具体的には、△55角の筋を消しながら、いつでも▲45歩と取るぞとおどしをかけ、△57桂成から、△39角のような攻めも緩和している。

 ボヤボヤしてれば▲75銀から▲85歩と、玉頭戦から一気にラッシュで、そうなれば、後手の2枚の角がうまく機能しない可能性もある。

 接近戦は大駒よりも、金銀タックルの方が、パワーで勝るのである。

 橋本は△44金と、懸案の金を活用してくるが、稲葉は▲45歩と取って、△同金に、▲85歩、△同歩と急所の突き捨てを入れてから、▲48飛と味よく活用。

 

 

 

 形勢はまだむずかしそうだが、手の勢いは先手にありそう。

 橋本も△86歩、▲同銀、△87歩と、これまた筋中の筋で応戦するが、どうもこのあたりから稲葉がリードを奪いつつあったようだ。

 むかえた最終盤。

 

 

 

 橋本が、ふたたび△86歩と、銀冠の最急所に一発入れているところ。

 先手が一手勝てそうだが、△69角という手には、気をつけなければならない。

 なら、自陣のスキを作らない、▲86同銀引が冷静な手に見えるが、攻め駒が後退するのもシャクではある。

 鋭さが売りの稲葉は、果敢に踏みこんでいく。

 

 

 

 

 

 ▲84歩が、なにも恐れない勇者の一撃。

 △87歩成とボロっと取られるだけでなく、先手玉も危険地帯に引きずり出されて、怖すぎるところだが、稲葉はすべて読み切っていた。

 まるで谷川浩司九段による「光速の寄せ」のごとしだが、事実、稲葉の終盤力は、

 「谷川型エンジン搭載」

 と絶賛されているのだ。

 ▲84歩に△73金▲74桂で詰まされる。追いつめられた橋本は、△87歩成、▲同玉に△76銀(!)と捨駒。

 

 

 

 ▲同玉に、またも△85銀(!)と捨て、トドメに△74金打(!)。

 

 

 

 なりふりかまわぬ犠打の嵐で、なんとかしがみついていく。

 詰みはないが、30秒将棋では「まさか」ということもあるし、なんとか王手しながら敵のカナメ駒を除去していくのは、玉頭戦の手筋でもある。

 ただ、ここはさすがに、駒を使いすぎてしまっている。

 手に乗って敵陣にトライした先手玉をつかまえるには、もはや橋本に戦力は残っていなかった。

 

 

 最後は最果ての▲31まで逃げて、橋本の猛追を振り切った。

 勝ちはその前から読み切っていただろうが、ここまで追われては、さすがの稲葉も、投げてくれるまでブルブルだったことだろう。
 
 難敵を下し、見事に稲葉陽が、全棋士参加棋戦での優勝を飾ったのであった。

 

 
 (西山朋佳と里見香奈の熱戦編に続く→こちら) 
 

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戒厳令下 京都潜入記2 京都タワー&京都御所編

2021年03月22日 | 海外旅行

 前回(→こちら)の続き。

 急な出張で、このご時世ながら、やむを得ず京都に出かけることとなった私。

 空き時間をどうするかが悩みどころだったが、京都にくわしい友人スザク君によると、どこもコロナのせいでガラガラらしく、ならばと少し観光をしてみることにした。

 このオペレーション「雪の嵐」では、密を避け、「このご時世に」という炎上もまた回避しながら軽やかに観光を済ませ、できれば都のおいしいものも堪能する。

 という、コソコソ……もとい有事における、シブい隠密行動ということになっているということで、しっかりマスクをして、ガメライリスが壊したことで有名なJR京都駅に到着。

 

 

 京都駅のシンボルである京都タワー。

 有事には報復兵器として飛び、瀬戸内海を越え、徳島市民を恐慌におとしいれる。

 

 

 今回それに挑む私は、エーリヒ・ハインツ・マリーア・フォン・リリエンシュターン武装親衛隊少尉。

 遠くバンゲリング帝国の地から密命を帯びて、極東までやってきた、スゴ腕の戦車乗りという設定である。

 というと、おいおい、おまえは急に何を言っているのか。

 帝国とか武装親衛隊とか、その中2病的なノリはなんだ、という人はいるかもしれないが、実はこれが、なにげに国内旅行を楽しむコツ

 たしかに日本は風光明媚でご飯もおいしく、旅をするにはいいところが多い。

 が、われわれ日本人には、やはり言語面でも文化面でもなじむところはあり、旅の醍醐味であるカルチャーショックのようなものは希薄だ。

 そこで、いったん自分の中にある「日本人的感性」をリセットして、あたかも外国から来た旅人の目線で、日本をながめてみる。

 そうすれば、そこはなじんだ「地元」ではなく、見たこともない文化を持った「神秘の国」としての一面が浮かび上がってくるのだ。

 これはオススメなので、ぜひやってみていただきたいが、今回ターゲットに選んだのは二条城

 理由は仕事の行き先が烏丸御池であったということだが、これまでの京都訪問で、ここは一度も訪れたことがないため。

 いや、正確には子供のころ「鴬張り」でキュッキュいうのを聞いて、

 「うわー、ホンマに鳴るんや」

 とか思った記憶がうっすらあるから、たぶん遠足かなにかで行ったことがあるんだろうけど、なんせまったく覚えていない。

 そもそも、大阪人(少尉は浪花系帝国人なのである)にとって京都は関東の人ほどには、ありがたく感じないもの。

 それはなまじ近場で、実態を知っているため幻想がないことと(姉ちゃんがいる男子が女のリアルを知ってるようなものですね)、あとは

 「修学旅行や遠足でムリヤリばかり見せられて、すこぶる退屈だった」

 という記憶があるせいなのだ。

 大人になったら、それが楽しいのであるが、子供が神社仏閣見ても、文字通り猫にドゥカート金貨。

 大阪人はたぶん、京都よりも神戸の方にあこがれている気がするから、そっちに感動がない。

 てか、正直、遠足とか修学旅行は、全部ディズニーランドUSJとかでいいと思う私なのです。

 絶対そっちのほうが、いい思い出になるだろうしなあ。

 それはともかく、もう30年以上ぶりくらいの訪問となれば、もはや初体験と同じ。

 童心に帰ったわけでもなかろうが、なんとなくワクワクしながら二条城にと見せかけて、全然知らん公園に到着。

 どこやねんここは!

 ここで、久しぶりに、ハタと思いいたる。

 おお、これは少尉の必殺「方向音痴」ではないか!

 海外旅行が趣味であり、いろんな国をバックパッカーとして回った私であるが、こう見えてメチャクチャに方向感覚がない。

 コンパスで確認しても、3回くらい角を曲がると、もうどっちを向いているかわからないという、悲惨な体内ナビ。

 もちろん、地図を見るときは上方向にしないと読めないというスカタンであり、

 「目的地はモスクワ。パンツァー、フォー!」

 号令をかけ、気がつけばノルウェーのバルフィヨルドに着いている、というくらい迷子の子猫ちゃんである。

 このときも例にもれず、烏丸御池から散歩がてら北西に歩くはずが、どうも北東に向かってしまったよう。

 これで気づかないんだから、我が脳みそは穴だらけのスポンジである。寒さと情けなさに、しばし立ち尽くすのみ。

 とはいえ、この公園もそこそこの大きさで、実は名のある場所なのかもしれない。

 昔と違って、現代はスマートフォンという秘密兵器がある。

 これは旅でも本当に役立つもので、地図検索機能、ヒマつぶしのゲームなど、旅に便利な機能がたくさん。

 私の買った機器は電話以外も、懐中電灯、ナイフ、縄梯子、望遠鏡、呼子の笛、時計、磁石、メモとペン、小型ピストルなどの機能を持ち合わせたスグレモノなのだ。水にも溶けるぞ。

 そこでグーグルマップを開いてみると、どうやらここは御所らしい。

 御所ということは、かつては天皇が住んでいた場所ということで、おお、これはなかなか神聖ではないか。

 建物の中は入れないようだが、公園内は散策できる。

 地図を見ると、歴史の教科書に載っていた「蛤御門の変」で有名な蛤御門があったりして、なるほど、たしかにしっかりと観光地だ。

 とここで、今の京都がどうなっているかといったら、こんな感じ。

 

 

 京都のラウンドワンにある「ストラックアウト」。

 

 全然がいない。

 京都のスペシャリストであるスザク君から、聞くのは聞いていたが、それでも聞きしに勝る真空地帯である。中性子爆弾でも、落ちたんやろか。

 文字通り「人類最後の男」「アイ・アム・レジェンド」となった私は、SFな気分を満喫しながら、だれもいない御所を散策。

 ときおり、近所の住人らしきおばあさんが、そこらをユラユラ歩いていたりしたが、それは、

 「人類が滅亡したあとも、そのことに気づかず、エネルギーが切れるまでマスターの命令を待ち続ける、老人型ビジュアルの子守ロボット

 そう解釈することによって、ますます終末SFの空気感が感じられ、この非日常感が良いものだ。

 気分はネヴィル・シュート『渚にて』か、レイ・ブラッドベリ『歌おう! 感電するほどのよろこびを!』。

 なるほど、スザク君はよく、

 

 「冬の京都は、寒いけど味があるで」

 

 なんて言ってたものだが、人がいない寒々しさが、かえって味を増している感じだ。

 ミッシェル・ガン・エレファント『世界の終わり』を聴きながら、深く納得した次第である。

 

 (続く→こちら

 

 

 

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レッセルシュプルング作戦 佐藤天彦vs稲葉陽 2017年 第56期名人戦 第6局

2021年03月19日 | 将棋・好手 妙手

 佐藤天彦の、ねばり腰にはシビれた。

 先日行われた、第79期A級順位戦の最終局は、メインイベントである降級争いこそなかったが、挑戦者を決める一番は、その欲求不満をおぎなって余りある熱戦だった。

 その功労者こそが、消化試合の立場だった佐藤天彦九段

 評価値換算では、勝率ヒトケタ%の土俵際で延々と戦い続け、一時期は逆転の空気が、濃厚なところまで盛り返したのだから、すごいもの。

 名人位を失ったところから、これといった目立った戦績のない佐藤天彦だが、この将棋を見て、まったく心配する必要はないと確信した。

 これだけの見せ場を作る棋士なんだから、ここからどんどん巻き返してくるだろう。NHK杯もおしかった。

 前回は永瀬拓矢王座のA級昇級を祝って、新人王戦優勝の将棋を紹介したが(→こちら)今回は佐藤天彦の将棋を取り上げてみたい。

 

 2017年、第56期名人戦は、佐藤天彦名人稲葉陽八段が挑戦。

 第6局は、3勝2敗で名人防衛に王手をかけた佐藤が、稲葉得意の相掛かりを受ける展開に。

 序中盤のかけ引きが、かなりのハイレベルで、観戦するにはむずかしい将棋だったが、ようやっと駒がぶつかって、この場面。

 

 

 稲葉が▲75歩と突いたのが機敏な手。

 佐藤名人は△75同銀と取れると思っていたそうだが、それには▲65桂打とくり出すのが、うるさい攻め。

 ▲75歩のような攻めに、形は△84飛と浮くものだが、ここでは▲76桂と打つ筋がある。

 困ったようだが、ここで名人がうまい使いを見せる。

 

 

 

 

 

 △62桂と打つのが、おもしろい手。

 受け一方のようだが、後手も△74桂と跳ねだせば、▲66▲58玉▲78が絶妙の位置で目標になっている。

 稲葉は▲65桂打とこじ開けに行くが、△同桂▲同桂△42角▲76桂△83飛と浮いてつぶれない。

 

 

 

 以下、▲64桂△同歩▲74歩に△65歩を取り払い、▲同銀△53桂とふたたび自陣桂

 

 

 ▲76銀△74桂と活用して、いかにも後手好調。

 

 

 

 △66桂打の王手金取りを避け、▲79金と引いたところで、△55歩と突くのが感触の良い手。

 ▲75銀打と、厚みでしのごうとするところに、△62桂みたび自陣桂

 

 

 

 その後、佐藤名人は△64桂と、4枚目の桂馬も自陣に打って、先手玉を攻略。

 

 

 

 飛車の宇宙戦艦と、その周囲でグルグル回るのファンネルが先手の駒を攪乱し、5枚金銀をうまくまとめることができない。

 

 「三桂あって詰まぬことなし」

 

 という格言は、

 

 「使えない」

 「役に立たない」

 「詰んだとこ、見たことない」

 

 結構ディスられているが、

 

 「桂は控えて打て」

 

 という別の格言は、メチャクチャ使えるということがよくわかる。

 天馬の華麗な乱舞を見せた佐藤天彦が、見事に名人初防衛を達成するのであった。
 

 (稲葉陽の銀河戦優勝編に続く→こちら

 

 

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戒厳令下 京都潜入記 コロナウイルスのせいでガラガラ編

2021年03月16日 | 海外旅行

 大阪から、京都に行ってきた。

 と言っても、遊びでなく仕事の話であって、どうしてもオンラインではすませられない案件があったため、わざわざ出向かなければならなくなったのだ。

 しかも、用事は2つあって、ひとつが朝一番にすませなければならず、もうひとつは夕方

 つまり、このときの私は朝一のあと、夕方6時ごろまで、ほとんど1日、京都で時間をつぶさなくてはならなくなった。

 これがふだんなら、ただのラッキーである。

 仕事につきものの、銀行や役所での待ち時間とは違って、京都は世界最強クラスの観光都市

 金閣寺清水寺のような観光地のみならず、大学が多く若者でにぎわう場所なので、オシャレなカフェや、味のある古本屋さんなどもたくさん。

 時間つぶしに最適というか、むしろ時間が足りなくて困るくらいなのだ。

 どっこいこれが、今のご時世、そうはいかぬ。

 なんといってもコロナである。このせいで、われわれは行動に大きな制限を受けているのだ。

 ましてや今の大都市は、緊急事態宣言とか、都市封鎖とかロックダウンとか、一億玉砕、本土決戦と、なにかとかまびすしい。

 そんな中、ノコノコ観光などして濃厚接触者になったり、能天気にグルメを堪能してになったり、

 

 「清水の舞台から飛び降りて落下しながら、連続写真を撮ってる人の写真の中で1枚だけ、目を合わせられるかやってみた」

 

 みたいな動画をYouTubeにアップしたりすれば、すぐさま炎上しかねない。

 そこで、京都によく出張しているという友人スザク君に電話してみると、

 

 「あー、それやったら、ふつうに観光したらええんちゃう?」

 

 なにを言っとるのか、この男は。
 
 今の世で観光など楽しんでは、すぐに六波羅探題に通報されて、営巣入りの上にムチ打ち、水責め、最近見たアブノーマルな桃色動画を強制公開などの罰を受けかねない。

 こういうヤカラがいるから、いつまでたっても事態が好転しないのだとビシッと言ってやると、

 

 「大丈夫っしょ。なんせ、今の京都はどこもガラガラやし」

 

 ガラガラ

 それはまた妙である。

 京都と言えば、だれもが認める世界レベルの観光地。そこに人がいないなど、ありえるのか。

 私も学生時代は、京都の大学に通う友人がいたし、ラジオ番組『サイキック青年団』のイベントを見に丸山公園には出かけた。

 丸善で読めもしない洋書をあさったり、下鴨神社をはじめとする古本市も楽しみで、京都に遊びに行く機会は結構あったが、まあどこも、人が多い印象だった。

 特に、一度ゴールデンウィークにガッツリ観光したときには、清水寺や金閣寺に銀閣寺など、京都のゴールデンコースともいうべき場所ばかり選んだせいで、とにかく人混みがすごくて辟易した。

 

 

昔、撮った清水寺の写真。このあと、欄干の底が抜けます

 

 

 

 一番ビックリしたのが、河原町でバスに乗ろうとしたとき。

 満員で、しょうがないので次のにしようと、食事を済ませてからバス停に戻ったら、なんと渋滞のせいでスルーしたハズのバスが、最初見た場所から、1ミリも動いていなかったこと。

 これには、どんだけ人おんねんと、自分の頭数を棚に上げて、あきれ返ったものだが、それくらい京都と言えばにぎやかなのである。
 
 それがまさかのノーマンズ・ランドとは、言われてみればニュースなどでも取り上げていた気はするが、あらためて言われると、やはりリアリティーがない。

 「ホンマに? 昔、清水さん行ったときは、満員で圧死しそうやったで」

 これにはスザク君もケラケラ笑いながら、

 

 「そう思うやろ? でもそれが、ガラガラやねん」

 

 ガラガラ。

 

 「そう、ガラガラのスッカスカ」

 

 スカスカ。

 

 「でもってユルユルで、もうピーヒャララや」

 

 ガラガラスカスカユルユルで、もうピーヒャララ

 信じがたい話だが、京都のスペシャリストがいうのだから、本当なのだろう。

 そう聞くと、なんだか断然、行かないとのような気がしてきた。

 

 「ええんちゃう? 要するに、人と接触したらアカンわけやけど、どこも人おらへんねんから」

 

 そうやよねえ。

 

 「それに、どっちにしても、どっかで時間つぶさなアカンねやろ? それやったら、結局なんなり店とか施設とかには入るわけやし」

 

 せやねん。

 これが冬でないなら、鴨川から三条くらいまでを、のんびり散歩でもするのもええんやけど、なんせ寒いからなあ。も降りそうやし。

 カフェや喫茶店でビバークするなら、やはり人との接触は避けられず、ならどこでも同じようなものであろう。

 よし、決めた。ここは一番、京都を観光する

 もし行ってみて、人が多ければそこで方向転換をすればいいし、万一炎上しても、最悪スザク君の写真とツイッター、住所、電話番号を公開して、

 「この人に、そそのかされました。つるし上げてください」

 とバックレれば無罪である。

 そうとなれば、善は急げ。私はこの上洛計画を「雪の嵐作戦」と命名。

 一路電車に乗りこみ、約束の地、京都へと旅立ったのである。

 

 (続く→こちら

 

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「負けない将棋」の大駒使い 永瀬拓矢vs藤森哲也 2012年 第34期新人王戦

2021年03月13日 | 将棋・好手 妙手

 永瀬拓矢がA級に昇級した。

 前回は名人挑戦を祝って、斎藤慎太郎八段の快勝譜を紹介したが(→こちら)、今度は王将戦で挑戦中の永瀬拓矢王座の話。

 永瀬といえば、デビューから早くも「大器」の誉れ高かったが、順位戦では意外な苦労を強いられた。

 C級2組6期もいたのみならず、ようやっと上がったC1でも9勝1敗頭ハネを食うなど、不運に見舞われる。

 この制度の息苦しさには、ほとほとウンザリさせられるが(枠がひとつ増えるだけなんて焼け石に水だ)、B21期抜けし、B12期でクリアと、ここへ来て、ようやっと借りを返しつつある。

 王座戦では、苦しい戦いをくぐり抜けて防衛し、いきなり3連敗で、アララとなった王将戦でも2つ星を返して、わからなくなってきた。

 そして、今回の昇級。

 一時は最大で四冠の目があったのを藤井聡太につぶされ、叡王を失い、王座戦フルセットまで持ちこまれたときは、「どうした?」と真剣に心配したものだが、どうやら杞憂であったようだ。

 やはり、この男はなかなか「負けない」のだ。

 こりゃマジで王将戦も、ひょっとすると、ひょっとするかもよ?

 

 2012年の第34期新人王戦は、永瀬拓矢五段藤森哲也四段が決勝に進出した。

 優勝候補だった永瀬が勝つのが、順当だろうと思いきや、藤森は敗れたものの開幕局では最後まで、ギリギリの競り合いを披露。

 第2局では永瀬のお株を奪うような、金底を打つ「負けない将棋」で勝利し、タイに持ちこむことに成功。

 

 

 第2局の将棋。4枚銀冠+金底の歩で「これ先後、逆じゃね?」と疑いたくなる堅陣を築き上げ、藤森が快勝。

 

 

 てっちゃん、やるやんけ! 

 思わず快哉をあげたくなる勝ちっぷりで、こりゃ藤森新人王もあるで!

 なんて熱戦の期待も高まったが、決着局である第3局は、永瀬の特技が炸裂することとなる。

 先手になった藤森が、▲26歩、△34歩、▲25歩と、このころよく指された「ゴキゲン中飛車封じ」のオープニングを選ぶと、永瀬は角交換振り飛車に組む。

 そこから相穴熊の戦いになるが、中盤の競り合いで永瀬がリードを奪って、この局面。

 

 

 

 

 藤森が▲74歩と、突っかけたところ。

 局面は後手がやや優勢だが、双方の穴熊がまだ健在で、まだまだこれからといったところ。

 2枚が、「いかにもやなあ」という永瀬調だが、なら次の1手はこれしかあるまい。

 

 

 

 

 

 △63馬と引くのが、「受けの永瀬」らしい手。

 「馬は自陣に」の格言通り、手厚い形で、受け将棋の人にとって指がよろこぶ手だろう。

 藤森は▲95飛と、にねらいをつけながら馬筋をかわすが、すかさず△84馬

 

 

 

 

 「馬は自陣に」は教科書にも載っているけど、永瀬拓矢の場合、馬は自陣に、「しかも2枚」なのだ。

 飛車を逃げるようでは、押さえこまれて勝負どころがなくなるから、藤森は「攻めっ気120%」で▲93金と突貫。

 △同桂、▲同歩成、△同銀、▲同飛成、△同香、▲同香成

 

 

 

 駒損だが、端のような局地戦は、ここさえ破ってしまえば、なんとかなるかもしれない。

 △93同馬▲85桂▲73歩成で食いつけそうだが、永瀬は冷静に対処する。

 

 

 

 

 

 

 △98歩、▲同玉に△95飛。

 これで成香を払ってしまえば、後手玉に怖いところがなくなる。

 4枚大駒を駆使したディフェンス網がすさまじく、「攻めの藤森」の瞬発力が、完全に封じられている。

 以下、▲96歩△93飛に藤森も▲86香と、急所のラインを押さえて懸命の反撃だが、そこで△74歩が、また落ち着いた手。

 

 

  

 ここでは他にもいい手がありそうだが、アッサリとを見捨てるのが、局面を単純化させる勝ち方でサッパリしている。

 ▲84香と取られても、△76香の反撃のほうが速い。

 特攻を冷静に受け止めたあとは、一気のシフトチェンジで、あっという間に藤森玉を寄せてしまい、永瀬が新人王戦初優勝。

 わずか数日前に制した加古川清流戦と合わせて、2つの若手棋戦のカップを獲得し、その力を大いにアピールしたのであった。

 

 (佐藤天彦名人の華麗な桂使い編に続く→こちら

 (永瀬がタイトル戦で渡辺明に見せたねばりは→こちら

 

 

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テニス選手のニックネームについて クリス・エバート ピート・サンプラス ミロスラフ・メシール カロル・クチェラ

2021年03月10日 | テニス

 スポーツ選手の異名は様々である。

 野球なら川上哲治の「打撃の神様」。

 サッカーなら、ヨーロッパ最強と恐れられたオーストリア代表の「ヴンダーチーム」。

 水泳なら古橋廣之進の「フジヤマのトビウオ」。将棋なら木村義雄名人の「常勝将軍」。

 などなど、例が古いというか、おまえは戦前生まれかとつっこまれそうだが、とにかく色々あっておもしろい。

 私はテニスが好きなので、今回はそこを色々と取り上げてはと考えたが、最近は妙に小忙しく、なかなかスポーツ観戦まで手が回っていないのが現状。

 なので、今の選手の試合は見ても、雑誌などを読んでないせいで、こまかい情報にとぼしいのだ。

 といって、こういうのはネット検索して拾っても、ウィキペディアか他人の書いたものの引き写しになり、つまらないので、とりあえず自分の知ってる範囲で思いつくまま出してみたい。

 ということで、例は若干古めです。では、ドン。 


 ☆クリス・エバート=「アイスドール

 これは有名。

 美人なうえ、どんな状況でも、まったく表情が変わらないところからついたもの。

 たしかに昔の映像とか見てると、ホントにクール。ブレずに正確なストロークを続けられるプレースタイルともマッチしている。

 まさに氷の人形

 ちなみに、ライバルのマルチナナブラチロワは「鉄の女」。

 ナブラッチからすれば、「だれがやねん!」とつっこみたくなるかもしれないが、その対照性こそが、見ているほうは燃えるんですけどネ。

 

 

 

 

 ★ピート・サンプラス=「ピストルピート

 元世界ナンバーワンで、グランドスラム14勝のレジェンドであるピートの、破壊力抜群なサービス力からついたもの。

 彼のサーブは、スピードやコントロールもさることながら、「ここ一番」で入る率が異様に高い。

 1540みたいなスコアから、エース4連発であっと言う間にキープとか、何度見たことか。

 まさにピストルの連射。こんなん、レシーバーはをへし折られます。

 サービスが強いとニックネームもつけやすいようで、ボリスベッカーの「ブンブンサーブ」(「Boom Boom」は大砲などの爆撃音のイメージ)。

 ゴーランイバニセビッチの「サンダーサーブ」や、マークフィリポーシスの「スカッドサーブ」などなど。

 カッコいいですなあ。

 

 ★ミロスラフ・メチージュ=「ビッグキャット

 魔法の妖精ペルシャの飼い猫ではなく、スロバキアのレジェンドのこと。日本では「メシール」のほうがなじみかも。
 
 私はメシールの現役時代は知らず、スロバキアのプレーヤーといえばカロルクチェラのほうが思い出される。

 もっとも、そのクチェラは単に「キャット」と呼ばれていて、その由来がメシールからのもの。

 同じ、俊敏なプレースタイルゆえの命名だが、

 

 「カロルもすばやいが、ミロスラフほどではないから、《ただのキャット》」

 

 みたいな言い方されて、クチェラかわいそうとやん、と笑いそうになったもの。

 まあ、メシールはグランドスラムで2度ファイナリストになってるからなあ(クチェラは全豪ベスト4が最高)。偉大な人です。

 これはまったくの余談だが、子供のころ遊んだファミコンゲーム『ファミリーテニス』の「めしいらず」というネーミングセンスには舌を巻いたものだ。

 当時はよくわからなかったが、たぶん「メシ要る」→「メシ要らず」ってことなんだろう。

 天才の仕事か。ナムコはすごいメーカーだなあ。

 

 ★おまけ

 ◇1971年のUSオープン。エバートとビリー・ジーン・キングの一戦(→こちら)。

 ダブルスアレーがないとか、会場の様子が今と違いすぎる!

 

 ◇1981年のオーストリアン・オープン。エバートとナブラチロワの戦い(→こちら)。まだ芝のコートの時代。

 

 ◇1995年のUSオープン決勝(→こちら)。ピート・サンプラスとアンドレ・アガシの名勝負のひとつ。

 

 ◇1988年ウィンブルドン準決勝(→こちら)。優勝したステファン・エドバーグ相手に2セットアップで勝利目前だった。

 

 

 

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「本格派」の演舞 斎藤慎太郎vs大平武洋 2015年 第1期叡王戦

2021年03月07日 | 将棋・好手 妙手

 斎藤慎太郎八段が、名人戦の挑戦者になった。

 一時期は、糸谷哲郎、菅井竜也、豊島将之、そして斎藤といった面々が次々とタイトルを獲得し、大いに盛り上がっていたはずの関西棋界

 どっこい、その後は「藤井フィーバー」が棋界を席巻し、二冠をキープしている豊島竜王・叡王以外は、すっかり影が薄くなってしまう。

 このまま、おとなしくなってしまうのかと思いきや、ここから逆襲がはじまるわけで、まず手始めに豊島二冠が、羽生善治九段相手に竜王防衛。

 久保利明九段王座戦に登場し、山崎隆之八段は悲願のA級へ。

 「怪物糸谷八段が、棋王戦で久しぶりに大舞台に上がってきて、とどめに斎藤の名人挑戦。

 突然の爆発ぶりで、(稲葉陽はどうした、元気ないゾ! 今度こそNHK杯優勝だ!)、時代の波に飲まれてなるかと、みなが気を吐いている。

 ということで、前回は米長邦雄脇謙二の「人間味あふれる」将棋を紹介したが(→こちら)今回は名人挑戦のお祝いに、斎藤慎太郎の快勝譜を見ていただくことにしたい。

 

 2015年の第1期叡王戦の五段戦予選。

 大平武洋五段と、斎藤慎太郎五段の一戦。

 先手になった斎藤が、相矢倉から「脇システム」に組む。

 斎藤が端から仕掛け、相居飛車の先手番らしく、角を切ってバリバリ攻める。

 むかえたこの局面。

 

 

 駒の損得はないが、後手は矢倉の最重要駒である△32がないうえに、玉飛接近で不安な形。

 うまく攻めがつながれば、その弱点をつけそうだが、その通り斎藤はここから、さわやかに駒をさばいて行く。

 

 

 

 

 

 ▲25歩、△同歩、▲17桂が、筋のよい駒の活用。

 敵玉頭の歩をうわずらせて、桂馬を▲37▲17に跳ねて使うのは、居飛車の攻めの基本。

 次に▲25桂と飛べれば、▲13香成が強烈なねらいになって、後手陣は持たない。

 盤上に守備駒の少ない後手は、△33桂と投入するが、▲61角がまた急所の一撃。

 やはり矢倉戦の常套手段で、△32の金がない弱点をつく形でもあり、よりきびしい打ちこみになっている。

 △53金打の抵抗に、▲65歩と突いて、△73銀とバックさせる。

 

 

 

 利かすだけ利かして、先手の言い分が次々通っているが、ここで足が止まると、あっという間に攻めが切れるのが、相居飛車の怖いところでもある。

 歩切れということもあって、先手も細心の注意を求められるところだが、続く手が、またしても筋のよい手順だった。

 

 

 

 

 

 ▲55歩、△同歩、▲35歩が、筋中の筋という突き捨て。

 これはもう、私レベルの棋力でも、並べながら

 「ここは、こうだよね」

 自然に手が行くというほどの、ぜひとも指に覚えさせておきたい流れなのだ。

 いやもう、ここは見る聞くなし。

 仮に、この後の手順が1手も読めなくても、ともかくも、この突き捨て。理屈じゃない。

 △35同歩に、▲46銀と出て、先手絶好調の図。

 

 

 

 

 これでもう、先手の攻めが切れることはない。

 このあたりはもう、本筋中の本筋という手順ばかりで、斎藤の本格派な棋風が、これでもかと出ている。

 以下、よどみない攻めが決まって、▲54歩がトドメの一撃。

 

 

 

 またしても好手筋で、△同金左▲25角成

 △同金直▲43角成△同飛▲35銀で、▲16飛の活用もあり、もはや受けはない。

 ここで大平が投了

 この将棋は斎藤が『将棋世界』のインタビューで、自ら取り上げていたが、その気持ちはわかるくらいの内容。

 斎藤の風貌にもぴったり合った、風雅でさわやかな将棋。

 こんなのを名人戦でも見せようものなら、ますます将棋ファンが増えそう。

 同じ「いい男」枠の中村太地七段もそうだけど、女性だけでなく「にもモテそう」なのもいい。

 こりゃ、将棋ブームもまだまだ終わりそうにないぞと、今からホクホクなのである。

 

 (永瀬拓矢の「負けない将棋」編に続く→こちら

 

 

 

 

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「日本タイトルだけ大賞」をうちの本棚でやってみた

2021年03月04日 | 
 「日本タイトルだけ大賞」という賞がある。
 
 文字通り、本を中身や売れ行きや著者の知名度などまったく度外視して、「タイトルだけ」で選ぼうというもの。
 
 過去には
 
 
 『なぜ南武線で失くしたスマホがジャカルタにあったのか』

 『文春にバレない密会の方法』

  『初めましてこんにちは、離婚してください』
 
 
 などといった、おもしろそうなタイトルがノミネートされているが、あるとき思いついたことは、
 
 「あれ? これウチの本棚でもできんじゃね?」
 
 私も子供のころから、趣味が読書という絶滅危惧種なため、部屋の紙含有率が異様に高い。
 
 なので、本棚をながめると、題名だけでもインパクトある作品というのがけっこうあるようなのだ。
 
 そこで今回は、中からいくつかチョイスして、ここに並べてみたい。
 
 「おもしろそうじゃん」と手に取ってみる1冊があれば幸いである。
 
 では、ドン。
 
 
 
 『やせれば美人』

 『フィンランド語は猫の言葉』

 『高慢と偏見とゾンビ』

 『国マニア』

 『ここがウィネトカなら、きみはジュディ』

 『俺がついてる ウイニング・アグリー2』

 『山手線内回りのゲリラ』
 
 『読んでいない本について堂々と語る方法』

 『幽霊の2/3』

 『カレーソーセージをめぐるレーナの物語』

 『紙ヒコーキできた女の子』

 『匙はウサギの耳なりき』

 『聖なる酔っぱらいの伝説』

 『鬼六将棋鑑定団』

 『殺人マニア宣言』

 『叔父様は死の迷惑』

 『くじ』

 『削除ボーイズ0329』

  『さあ、気ちがいになりなさい』
 
 
 
 
 どれもちょっと変なタイトルですが、中身はおススメのものばかり。
 
 気になった作品があれば、ぜひご一読を。
 
 
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二人の貴族 斎藤慎太郎vs佐藤天彦 2021年 第79期A級順位戦 

2021年03月01日 | 将棋・雑談

 斎藤慎太郎八段が、名人戦の挑戦者になった。

 今期のA級順位戦は、降級者2人が早々と決まってしまい、最終日である「将棋界の一番長い日」の興味が半減したのが残念だった。

 今年は羽生善治九段の星が伸びず、ちょっとやきもきするところもあって、もしかしたら「まさか」も考えられたが、最終日前に逃げ切ってしまったのは、さすがといったところ。

 ホッとしたような、もうちょっとドキドキしたかったような。

 ちょっぴり複雑な気分だが、ラストの盛り上がりを考えると、稲葉陽八段との直接対決の結果は、でもよかったかもとか、羽生ファンなのに不穏なことを考えたり。

 一方、挑戦権争いはラストまでもつれて、関西のファンとしては斎藤八段の名人戦登場を期待だが、これが予想以上の大熱戦となる。

 メインイベントのない最終日(A級順位戦の目玉は挑戦権よりも降級争いなのです)の物足りなさを、おぎなってあり余る内容で、大いに満足。

 途中で、競争相手の広瀬章人八段が敗れたことがわかり、挑戦権の行方は早くも決まってしまったが、そのことも興ざめにならないくらいだった。

 МVPともいえるのが、消化試合のはずだった佐藤天彦九段の指し回し。

 中盤からジワジワと差をつけられる苦しい展開だったが、最終盤ではAIの評価値計算で「勝率8%」くらいのところから、しぶとい手を連発して、いっかな土俵を割る気配がない。

 いわゆる、

 「単位で読めるレベルでは結論が出ているが、人間同士だと、ただの闇試合

 という熱戦の証ともいえる展開で、何度も「逆転か!?」と身を乗り出すシーンがあったから、いやもう楽しいのなんの。

 「投了もあり得る」

 と言われたところから巻き返し、「ん?」と身を乗り出す佐藤天彦と、めずらしく、怒ったように扇子をバシバシ鳴らす斎藤慎太郎。

 

 

 AIの判定では「先手90%以上」だが、ホンマかいなという局面。

 

 「貴族」と呼ばれる佐藤天彦がヨーロッパのそれなら、斎藤は烏帽子が似合いそうなの面持ち。

 そんな「平安貴族」のような青年が、あんなイラついたような様子を見せるとは、見ていて本当に驚いた。

 この一局の、ハイライトと言っていいシーンかもしれない。

 将棋の方は先手がいつ足をすべらせても、おかしくないところまで行ったが、最後の最後で▲37飛成と引き上げたのが、冷静すぎる勝着だったよう。

 

 

 

 佐藤天彦の投了後の第一声が、まさにこの手のことだった。

 あの、あせりまくる場面で、よく踏んばれたなあ。すごいよ。

 斎藤といえば、その実力にもかかわらず(なにげに「中学生棋士」の目もあったのだ)、三段リーグで苦戦し関西のファンをやきもきさせたが、ようやっとここまで来たもんだ。

 以前、NHK杯羽生善治-豊島将之戦を解説した際、両対局者を評して、斎藤がこんなことを言った。

 

 「この二人は【主人公】という感じがしますよね」

 

 これには、聞き手の藤田綾女流二段と同じく、

 「いやいや、アンタもそうですやん!」

 思わず、つっこんでしまったもの。

 もちろん、藤田さんは遠慮がちで、こんなお笑い口調ではありませんが、まあ感じたことは同様。

 斎藤慎太郎、あなたもまた、どっからどう見たって、まごうことなき「主人公」キャラ。

 それはもう、ここで「名人」になっても、なんの違和感もないほどの。

 渡辺明名人との七番勝負でも、さわやかに、そして時にはこの将棋のように熱くなりながら、頂点を目指してがんばってほしいものだ。

 

 (斎藤慎太郎の快勝譜編に続く→こちら

 (佐藤天彦の名局は→こちら

 

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